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料理のチカラプロジェクト

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第7回辻静雄食文化賞贈賞式

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2016.07.20

7月4日、第7回辻静雄食文化賞の授賞式が、東京白金台の八芳園で執り行われました。

今年は、八木久美子氏の著書『慈悲深き神の食卓 イスラムを「食」からみる』、くまもとあか牛生産者の井信行氏の2組が本賞に、また専門技術者賞には、レストラン「HAJIME」のオーナーシェフ、米田肇氏が選ばれました。


会場となった八方園は、青々とした樹木に囲まれたとても美しい場所です。
贈賞式には、受賞者の関係者をはじめ、メディアの取材の方、業界関係者の方々がたくさんみえられました。

贈賞式が始まりました。



辻芳樹 辻静雄食文化財団代表理事(辻調グループ代表)の挨拶


石毛直道 選考委員長(国立民族学博物館名誉教授)からの講評

まず、本賞の2組に賞が贈られました。


八木久美子氏(東京外国語大学大学院・総合国際学研究員教授)

今回の受賞作、八木氏の著書『慈悲深き神の食卓 イスラムを「食」からみる』は、食という視点からイスラムという宗教をみわたすことで、非常にわかりやすく、私たちに新しい気づきを与えてくれます。この作品を読んだ人は、報道やメディアに取り上げられているイスラム教とはきっと違う印象を持たれるのではないでしょうか。


この本を読むと、「ラマダーン(断食)」も、日本人が持つ「絶食」に近い苦行というイメージだけではなく、食欲という欲求をコントロールすることのできる魂を鍛えるための実践であることや、またラマダーンは、日中(日の出から日の入り)に実践することなので、夜になれば家族や親しい人々とたくさんのごちそうで食卓を囲み人間関係を育むものであることがわかります。例えばですが、驚いたのは、ラマダーンの月は、イスラムを信仰する多くの家庭で平均的に食費が増えたり、この時期にイスラムの女性が太ってしまうのを気にしているということでした。八木氏がおっしゃっている通り、怖いイメージが先行してしまいがちですが、その実際を知ることで驚いたり、共感したりすることができます。
この本は、私たちが知らない、そして理解できていないイスラムという宗教について、やさしく理解を深めてくれる一冊なのではないかと思います。食から知る。まさに辻静雄食文化賞の「食文化」という名にふさわしい作品だといえます。



もうひとつの受賞は、くまもとあか牛生産者の井信行氏です。
国産とは、自給自足とは、本当の美味しさとは、など、いろいろなことを考えさせられる、井氏のあか牛の取り組みです。

阿蘇の草、そして水。今ある資源を活用し、適切な環境を作り、消費者が美味しいと思う赤身の元気な牛を育てる。
井氏を代表とする産山村の畜産は、 放牧、採草、野焼き、飼肥などの適正な管理により、生物多様性の保全、草原の景観維持 や水源涵養にも貢献し、輸入飼料に頼らない今後の和牛飼養のモデルのひとつになっています。
また、そのあか牛が市場に受け入れられることで、地域経済への活性化にも期待が高まります。


多くの人々が好む「霜降り」の肉、それはそれとして、赤身の肉を好んでくれる人が増えていることを喜び、今を謙虚にとらえ、地道にあか牛の飼養に取り組んでいる井氏の姿勢は、おそらく日本各地の農村が抱える様々な問題のヒントになるのではないでしょうか。



そして、専門技術者賞は、「HAJIME」オーナーシェフの米田 肇氏に贈られました。
米田シェフは、多くの料理人に刺激を与えてくれるでしょう。元々、コンピュータエンジニアだったという異色の経歴をもつ米田シェフですが、ずっと昔から一流の料理人になりたいと思っていたそうです。
今年のアジアのベストレストラン50では11位に入り、ホームページをみると、英語のみならず、フランス語やポルトガル語など多言語展開されており、その活躍ぶりは国境を越えています。


専門技術者賞選考委員である『あまから手帖』編集顧問の門上武司氏は、「米田さんは、自分の仕事をもっと高みに上げるために、自分が何をしなければならないかを常に考えておられます。そのために、さまざまな、そして多くの書物にあたり、また料理人や生産者、ジャーナリストとコミュニケーションをかわすことによって、自分の仕事を考える。たとえば、自分が作る料理において、『塩をうつ』という一つの行為に対しても、細密な分析を加え、その行為が最適であるかどうかということを考える。そして、これまでいろいろな人たちがみてこなかった世界に向かって突き進もうという姿勢が、レストラン「HAJIME」のお皿の上に、そして空間に戻ってくる。その技術、姿勢に専門技術者賞を授与します」とコメントされています。


受賞に際して、米田さん自身は、チームへの感謝とともに、これまで「食」「料理人」そして「生命の進化」ということについて追及してきて、最近は、物理学や建築学、宇宙工学など様々なことと、「食べる」ということとのリンクをすごく感じていると話していらっしゃいました。その点において、より挑戦していきたいという米田シェフの進化は、まだまだ留まることを知らなさそうです。これからの活躍が、さらに楽しみです。

各賞の贈賞が終り、会場に集まられた列席者のみなさん全員での乾杯です。



乾杯の発声は、昨年専門技術者賞を受賞された「龍吟」の山本征治氏に、また歴代の受賞者も一緒に登壇していただき、今回の受賞をお祝いしました。



フォトセッションも終わり、受賞者をはじめ、お越しになられた食業界の第一線で活躍されるたくさん方々、みなさん食についてのお話はつきないようでした。



(写真左から:敬称略)門上武司、石毛直道、米田肇、八木久美子、井信行、辻芳樹

受賞されたみなさま、本当におめでとうございました。

※辻静雄食文化賞とは