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藤原 宏一郎さん「Boulangerie DONNER」 (ブーランジュリー・ドネ)

卒業生レポート

2013.10.25

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藤原 宏一郎さん Koichiro Fujiwara
[ エコール 辻 東京 ]辻製菓マスターカレッジ 2005年3月卒業
フランス校シャトー・ド・レクレール 製菓研究課程 2005年 春コース卒業
研修先:
Boulangerie du Centre (ブーランジュリー・デュ・サントル) <ジュラ地方>
Pâtisserie Daniel GIRAUD (ブーランジュリー・ダニエル・ジロー) <ヴァランス>

店名:Boulangerie DONNER (ブーランジュリー・ドネ)
オーナーシェフ
神奈川県海老名市上今泉3-1-6 コープ上今泉店内
℡ 046-259-8256
営業:9時~22時 (定休日:元旦)
HP: http://boulangerie-donner.com/

『フランス校は、職人のROOTS(ルーツ)』

フランス校の卒業生は、フランス料理・お菓子に止まらず様々な食の分野で活躍していますが、今回ご紹介する
卒業生が選んだのは「パン」の世界。

愛する地元・神奈川県の座間でブーランジュリーを経営する藤原宏一郎さんは、2005年春コース製菓研究課程を
修了した卒業生。藤原さんがパン職人になることを決めたのは中学生の頃でした。
夢を確実に手繰り寄せようと、高校卒業後はエコール 辻 東京で洋菓子、製パンの基礎をしっかり身に付けました。
その後進学したフランス校では、ヴァカンス中もドイツの有名製パン店を訪問する等積極的に各地へと出向きました。
研修先はもちろんブーランジュリー。一年を通し、本場のパン文化や技術を肌で感じる留学生活を過ごしました。

帰国後は、東京・神奈川の有名製パン店数軒で着実に経験を重ね、27歳で独立。現在のお店を始めて1年半が
経った今、まだまだ新米、と仕事へ貪欲に取組む姿勢を持っている傍ら、人生を楽しむことも忘れません。
「打ち込める仕事とプライベートの充実が人生と自身を豊かにする。そのバランスが商売に繋がっていれば
これ以上のことはないですね」と淡々と語るその口調と人生観は、人生の本質を捉えシンプルかつ豊かに生きる
フランス人と重なるところを感じました。藤原さんの今後の進化に注目です!
今回は現在のお店とフランス校時代について、お話を伺いました。

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コープ上今泉店店内の一角にある「ドネ」は、地元の人の日常の一部ともいえるパン屋さんです。
店舗は入口近くに位置し、採光が程よく入ります。スペースも広くゆとりがあります。
(右写真)正面のガラス窓の奥がラボラトワール(作業スペース)。

開業するに至った経緯と苦心されたこと
開業は、当時勤務していた製パン店の社長に紹介されたことがきっかけです。
店舗内店舗での独立ということで中には敬遠される方もいるかもしれませんが、私にとっては年齢的にも
一店舗目として始めるにしても非常に魅力的な条件だったため、すぐにその申し出を受けることにしました。

ただ、開店時期の半年前に紹介されたので、経営のノウハウはもちろんないまま、経理のことから商品構成、
スタッフ募集など全てを急ピッチで進めました。また、インストアーのパン屋の経験、知識も全くなかったため、
週一日の休みを有効に使い、先輩を紹介してもらったり、実際のインストアーベーカリーを視察したり、
開店までにできることは全てやり尽くしましたね。

お店のコンセプトと名前の由来
「DONNER (ドネ)」とは、フランス語で「あげる、渡す、与える」という意味です。
お客さんやスタッフ、もちろん私自身も含め、みんなに、パンを通じてワクワクハッピーな何か(人によって、豊かな
食生活だったり、経験だったり、憩いの場所だったり、生活の支えだったり、それぞれ異なると思いますが)を
与える場所であれたらいいな、という思いでつけました。

また、商品はあまり枠にとらわれず、菓子パンもルヴァン(酵母のパン)もヴィエノワズリーもやっています。
お客様のニーズに合わせて作ることを常に心掛けています。

パティシエでなく、パン職人を選んだ経緯・理由を教えてください。
中学生からパンの道に入ろうと思っていました。その頃から既に「サラリーマンには絶対ならない!」
と思っていましたね(笑)。
パンは、"粉、塩、水、イースト"というたったこれだけのシンプルな素材から無数の可能性が広がります。
その世界に魅力を感じ、興味を持ち始めました。
そして世界のパンやその歴史、パン職人たちについて調べていくうちに、「腕があれば世界中で食べていけるのでは
ないか」などと夢が膨らみました。
また、朝早くから陽気にパンを焼き上げる、そんなイメージが何ともいえなく素敵に感じたんですね。

パンは、菓子パンやデニッシュのように単体で食べるものもありますが、食事に添えたりお酒のお供にしたり、
サンドウィッチでテイクアウトも出来るなど、様々なシーンに用いられる幅の広い存在であることも大きな魅力の一つでした。
私は菓子も料理も好きなので、必然的に両方の要素を含んでいるパンを選んだのかもしれません。

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(写真左)作業場の様子。ここで毎日早朝から焼きたてのパンが作られています。
(写真右)店内には、常に約60種類ほどのパンが揃っています。お客様の目にわかりやすいように
紹介や説明、
パンのアレンジ方法、人気ランキングなどがポップに紹介されています。

藤原さんにとってお菓子とパンの大きな違いは何でしょうか?
お菓子とパンの大きな違いは、やはりパンは毎日食べるもの、というところだと思います。
また、仕事の面で言うと、パンは捏ねてから焼き上げるまでみんなで少しずつ手を加えて一つのパンにするので、
チーム力や一体感があって、とても「あたたかい」存在です。
そして、何より「パンは生き物!」。なので、菓子に比べてLIVE感がありますね。
製菓店にはない、料理人のような勢いが非常に面白いのですが、慣れるまではやや難しかったです。

ブーランジェとしてやりがいを最も感じられること
わざわざ遠方からうちのパンを買いにきてくれたり、私の知らないところで口コミを広げてくれたりと、
いつの間にか応援してくださる方々が増えていることを知った時、非常にやりがいを感じます。

仕事で常に心掛けていることやパン職人として大切だと思うことは何でしょうか?
自分の子供や恋人、大切な人に接するように、パンにも愛を持って、常に様子をうかがって、
手間隙をかけることだと思います。

今後の目標
お客様にとっても、スタッフにとっても、自分にとっても、魅力的な店を作ります!

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おいしそうなヴィエノワズリーからハード系の食事パンまで幅広い種類のパンが並んでいます。
もちろん家庭で定番のメロンパンやあんぱんなども人気商品の一つ。

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とりわけ毎日食べる食パンについては、必ず買いに来る常連さんも多いようです。

フランス校で得たもの
フランス校では、菓子やパンの身近さや、仕事に対しての情熱、そして人生の楽しみ方を教わりました。
フランス校という極上の環境を与えられ、一流とはこういうことだと見せつけられました。
究極を見られたことによって、現実的に今自分にできること、できないこと、この先どうしたいのか、どうするべきか
などの指針が立ちました。
中でも、感性は間違いなく鍛えられましたね。食材の組み合わせ、色の使い方、温度etc...自ら感じなくては
決して得られないものを習得しました。

今も記憶に残るシェフの言葉
1.『 C'est la vie 』 (セ・ラ・ヴィ!「これが人生というものだ」)
楽観的とも言えなくはないのだけれど、だからこそチャレンジでき、チャレンジするからこそ新しい物が生まれるのだと
思います。失敗してもいいと言わないけれど、失敗できるチャンスがあるなら失敗は経験した方がいい。
私自身も、部下や後輩には失敗させてあげられるチャンスを作ってあげたいと思っています。

2.『お前のステージはどこだ!!』
フランス校の恩師・吉村先生の言葉です。実習中、要領が悪く失敗が多くて落ち込んでいる私に対し、「自分の目指す
ところはどこなのか?今は修行中、将来自分の晴れ舞台が来るまでにできるようになれば良い」と叱咤激励してください
ました。社会人1年目、2年目につらくて落ち込んだ時に、私を奮い立たせ支えてくれたのもこの言葉でした。
日々奮闘する中でめげずに頑張って来られたのも、あの時の吉村先生の言葉のお陰です。
もうすぐ10年経ちますが、今でもあの時のワンシーンは鮮明に覚えており、吉村先生には感謝しています。

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(写真左)フランス校時代、仲間と一緒に。中央にいるシェフの左隣が藤原さん。
(写真右)外来講師で来てくださったフォンタネ氏とのツーショット。この日は助手を務めました。

卒業して思うフランス校・スタージュの一番の魅力は?
技術を学ぶのは当然のこととして、技術云々よりもむしろ、使った食材や道具、仕事や食べ物、文化に対しての価値観の
違いに気づいたり、学ぶことができたことでしょうか。
フランスが正しいとも日本のやり方が正しいとも思わないですが、両方知るからこその選択肢の広がりであったり、
自らの判断や理解ができる。さらに、それによってクリエイティブな発想が生まれてくるのです。

フランス校・スタージュ(実地研修)において印象に残っているエピソード
とにかく、よく食べたこと!休日でも食べ歩きに行ったり、シャトー内でもレストランでもモリモリ食べる!
日本での生活からしたら食べ過ぎかもしれないですが、食べるからこそわかること、気付くことがある!
なかには半年で8kg太るヤツもいましたね(笑)。
今思えば、ある意味で作ることよりも食べることの方が大切な1年だったような気もします。

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研修先で同僚とともに

フランス校は、職人のROOTS(ルーツ)

フランス校で得た経験が、今の私の中の食文化(フレンチを中心に)へと発展したのだと考えています。
フランス校は洗練され特別な環境ではあるけれども、海外で学んで腕を磨いた職人達もきっと同じ様な経験をし、
同じようにROOTSがあるのだと思います。そして私にとってのそれがまさしくフランス校で過ごした時間なのです。

フランス校を目指す後輩達へのメッセージ
「フランス校は一つの挑戦、大いに挑んでください。フランス校は一つの冒険、果敢に攻めてください」
Bonne chance!! (ボンヌ・ションス 「幸運を!」)