タクシーで15分ほど市内に向かって走り、薄暗い路地の中ほどにある店。店の前は舗装もされていないでこぼこ道で、車から降りて歩く時には足もとをよく見ていないと水たまりに突っ込んでしまう。

　店は入口に近い方から食器の洗い場で、一人のおばさんが石畳の上で働いていた。続いて調理場があり、ここをストーブ前と呼んでいいのだろうか、別のおばさんが一人で５〜６個のコンロ（燃料は炭と薪）の前に座り込み、すべての料理を作っていた。その後ろではさらに別のおばさんが客の注文を受けた料理の材料を準備し、ストーブ前に渡している。

　レストランはこの奥に広がっていて、手前がバーカウンターのようになっていて飲み物の準備をしている。そして年季の入った角ばった安いテーブルと椅子がこぎれいに並べられている。天井には扇風機が回っているだけで、クーラーなどは全く関係ないといった感じである。この時期は気温は高いが湿度が低いので、これでも熱さは十分しのげる。また天井と壁はあるとは言うものの、入口と奥には何も障害物がないので扇風機で風を送ってやれば熱がこもることはない。

　さてメニューを見て料理を注文した後、何気なく回りのコンクリート壁を見ていると何かこそこそと動くものがある。「トカゲだあ〜。」と思ったが、誰も気にする様子がない。初めての大衆的ベトナム料理を味わうには、最高の雰囲気を提供してくれる店である。

　ただ食事を終えて店を出た後、向かい側の同じような食堂の写真を撮り始めたとたん、子供たちが数人近寄って来て、お金をねだっていたのがとても印象に残る。結局、ベトナムにいる間このような子供たちには、どこのレストランや市場内の食堂に行っても出くわすことになってしまった。くれぐれもポケットの中は注意したいものだ。