<ミシュラン話> 其の二
■"ギッド・ルージュ(ミシュラン・ガイド)
フランス 2002版"(続)
●ミシュラン話其の二です。さすが食通の「バイブル」とまでいわれる"ギッド・ルージュ"、話題はつきません。実はほかに話題がないのでは?と言われそうですがそんなことはありません。ただ、2002年版"ギッド・ルージュ"は始めてフランス人以外の編集長の実質的な指揮のもとで発刊されたということもあり、何かと物議をかもしだしているのです。
●で、今回はフランスのガストロノミー系の雑誌『チュリエス・マガジン 4月号』に掲載された記事を紹介しようと思います。タイトルは<ミシュラン・ガイド2002年版の論争>というものです。その内容を抄訳してみましょう。
●<"ギッド・ルージュ2002版"の発刊とほぼ同時に、ミシュラン社は異例の記者会見を開いた。これは「ほぼ歴史的な事件」だと言えるほどである。"ギッド・ルージュ"は過去30年来、このような記者会見を実施したことは一度もない。列席したのは、ミシュラン社社長エドゥアール・ミシュラン、出版責任者のエマニュエル・ペニコウ、そして、"ギッド・ルージュ"の新任編集長のデレク・ブラウン。
エドゥアール・ミシュラン社長は開口一番ユーモアをこめて「これは"ギッド・ルージュ"を売却する会見ではありません」と述べた。誰一人としてそんなことは想像さえもしていなかっただろう。"ギッド・ルージュ"がミシュラン社の至宝であることは誰でもが知っているのだ。続いて本年度から新編集長に起用されたデレク・ブラウンを次のように紹介する。
「新編集長にデレク・ブラウン氏を迎えたのは、彼がイギリス人だからではありません。それは彼が私たちのスタッフの中でもとりわけフランスの、そしてヨーロッパのレストラン業界に通じているからなのです。しかも、氏は実に控えめで口の堅い人物です。」しかし、デレク・ブラウンが完璧にミシュラン・システムの中で育成され、前編集長ベルナール・ネジュランとともにフランスの数々のレストランを訪れ、ミシュランの調査、評価の秘伝をすべて自分のものとしている人物であるということは言及されることはなかった。ミシュラン社の全面的な信頼を得て編集長に就任したこのブラウン氏が始めて指揮をとったのが、この2002版なのである。「"ギッド・ルージュ"の星の評価はその店の料理だけに与えられるものです。レストランの内外装にも、その立地にも、ましてやオーナーの奥方が魅力的だからといって与えられるものではありません。」なるほど、星の評価は、料理の風味、創造性、そして正確さが評価されるというわけである。とは言え、少し奇妙に思われる部分をとりあげてみる。今年、新たに3つ星の評価を受けたレストラン『ルドワイアン』に関する"ギッド・ルージュ"の数行の叙述に目を通してみると「シャンゼリゼ公園のど真ん中に位置する特別な立地条件、その建築、そして過去の栄光」などが強調されている。3つ星の評価要素の中にレストランの立地や建造物としての価値が十分に関係していると考えることは不自然だろうか。>
●"ギッド・ルージュ"の調査員の審査基準はいったいどこにあるのでしょうか。あるいは星を獲得する方法があるのでしょうか。もうしばらくこの記事を読んでみることにしましょう。
●< デレク・ブラウンによると「星の評価は審査員によって与えられる。もちろん徹底的に議論した結果出される評価で、それは客観的かつ主観的な評価です。調査員は誰よりもホテル・レストラン業界に精通しており、彼らの判断はまちがいなく信頼できるものなのです。実際これが"ギッド・ルージュ"のもっとも大きな財産だと言えるでしょう。」>
ではいったい、評価基準はどういうものなのでしょうか?これに関しては「ミシュランの企業秘密」なので一切明らかにはできない、と述べています。
<"ギッド・ルージュ"は「自由に批評する権利がある」と考え、「フランスのレストラン業界に関しても独自のヴィジョンを持っている。」ただ、それを公開するつもりはない。要はこういった料理をすれば星がとれるなどという『ミシュラン用料理』なるものは存在していないということなのだ。このような言説のすべてを信じたいが、多くの著名なシェフたちが「星獲り競争」の中で、店をより豪華に改装することに心をくだいていることを否定することはできないだろう。ミシュランが高級フランス料理の変転、将来に無関係であると考えることは不可能である。>
例えばベルナール・ロワゾーのレストラン『コート・ドール』の3つ星もこのレストランの歴史的背景(かつて『コート・ドール』はフランス料理史に名前を刻んでいる偉大な料理人の一人アレクサンドル・デュメーヌの店だった)が重要な要素になっていたのではないだろうかとも推測しています。
●この記事を読んで思うのは、"ギッド・ルージュ"はやはりただのガイドブックではなく、ある種フランス料理の守護神的な役割を果たしているのではないかということです。フランス料理の歴史を守り、必要とあれば軌道修正を行い、独特のやり方ではっぱをかける、そういった役割も果たそうとしているのではないでしょうか。調査員の顔も、調査の方法も、審査基準も、すべてがベールに包まれている"ギッド・ルージュ"。今回の記者会見でも結局ベールに包まれた部分を開かすことなく、しっかりとベールを閉じたようです。
須山 泰秀