私が子供の頃は、出回るブドウの種類が少なく、小さく赤茶色の皮を付けたデラウェアが一般的でした。巨峰やマスカットは進物用としてか、特別な時でないと口にすることがありませんでした。その名残か、ブドウ狩りに行くたびに、ブドウ棚からたわわに垂れ下がる巨峰やマスカットを見つけると、目が釘付けになって笑いがとまらなくなります。
また、食べるときですが、粒をひとつずつ口にほおばり、口中で皮と種を果肉から取り分けるのは結構大変なことです。しかし、子供の頃は、出来ない子に対する優越感を感じる時でもありました。
この技は研修時代一緒に働いていたフランス人には驚きだったようです。
ブドウを一粒口に含んで種と皮を取り出して食べていると、怪訝な顔をしながら、何故種も皮も一緒に食べないのかとたずねられた事がありました。
フランス人は房のままぼりぼり音を立てながら袋も種も一緒に食べるのが当たり前のようで、大きな種は別にしても、果物の皮は殆ど食べてしまいます。
皮に栄養分がたっぷり含まれているというのが彼等の言い分でした。
ブドウの実は奬果(しょうか)と言われ多汁質でやわらかくなるのが特徴で、大きく分けるとヨーロッパブドウとアメリカブドウに大別されます。ヨーロッパブドウは黒海とカスピ海沿岸地域を起源にもち、ヨーロッパやアジアに伝播して改良されたブドウです。
アメリカブドウは北アメリカに分布する野生ブドウが起源です。
これらブドウも人種によって存在感が異なります。我々、日本人にとってはブドウは生食にする果物です。しかし、生産量の殆どをワインの原料に用いるヨーロッパ人にとっては、ブドウといえば美味しいワインを思い浮かべる事でしょう。
その為か、ヨーロッパでブドウを生で用いたお菓子を見かけるのは希なことです。実際、私が研修していた時にもブドウを用いたお菓子を見かけた事がありませんでした。是非、美味しいブドウを使ってお菓子を作ってみたく本を調べていると、キッシュ・オ・レザン(QUICHE AUX RAISINS)というお菓子がみつかりました。そして、このお菓子がブドウを使って作った初めてのものとなったのです。