柑橘類といえば蜜柑(マンダリン・オレンジ)を思い浮かべることと思いますが、ヨーロッパ等では、マンダリン・オレンジよりもオレンジの方が頻繁に食され、ジュースとしても用いられています。
さて、私が初めてオレンジを使ったお菓子を知ったのは、先代校長(辻静雄)に作って戴いた「クレープ・シュゼット」(CREPES
SUZETTE)です。
作り方をざっと説明します。たっぷりのバターに、オレンジの皮を擦り付けた角砂糖でキャラメルを作り、ここに絞りたてのオレンジ・ジュースを注ぎ込んでコクのあるソースを作っておきます。食べる際に、この中でクレープを煮込み、さらにブランディー、グラン・マルニエを注いでフランベして供します。
私にとっては初めての経験であり、お菓子に興味を抱く最初のきっかけになりました。また、お菓子作りの未知の世界への進入の始まりでもあったようにも思います。
研修当時、喉が乾いたので、とあるカフェで搾りたてのオレンジ・ジュース(JUS
D'ORANGE PRESSEE)を注文すると、目の前にトマト・ジュースが置かれました。愕然です!発音が悪く聞き間違ったのだと自分に言い聞かせながら、その苦手なトマト・ジュースを渋々口に含んだのですが、変な味!自分の知っているトマト・ジュースの味ではありません。瞬間、口いっぱいに広がったその香りと味を今でも覚えています。それがその当時、まだ日本に輸入されていなかったオレンジ(sanguine)だったのです。
また、ある日仕事場に眠い目をこすりながら行くと、目の前にオレンジの箱が壁のように立ちふさがっていたことがあります。安かったので大量に買ってジャムでも作るんだなと思っていたら、箱の中から出てくるのはオレンジの皮、皮、皮…。
どうしたかというと、まず、これらたくさんの皮を茹がいて柔らかくします。次に、一週間あまりかけて、はじめは薄く徐々に濃くしたシロップに漬けて、出来上がり。大変な仕事です。もちろん、研修当時の私の仕事の一部でした。でも、その甲斐あって、オレンジの持つ素晴らしい香り、苦み、渋みを生かした絶品を知ることが出来ました(ORANGE CONFITE)
。捨ててしまいそうな皮から生まれるのだから摩訶不思議!このオレンジ・ピールにチョコレート掛けすると、更に味が増し、食後酒に添えるとたまりません。
こうやってオレンジに関する思い出を思い返すと、断片的ですが意外に多いのです。ガレット・ドランジュ(GALETTE
D'ORANGE)も思い出深いお菓子のひとつです。また、食べ歩きで知ったレストラン・ピック(Pic)のオランジュ・スフレ・グラッセ(SOUFFLE GLACE A L'ORANGE)
もオレンジを使ったデザートの絶品だと思います。
柑橘類は多くの人に好まれる果物ですので、素晴らしいお菓子が、次から次へと生まれてきているのだと思います。今後、私のメニューブックにも柑橘類のお菓子はさらに増えていくことでしょう。