No.12 わさび

 寒さがきびしくなると、魚のおいしい季節となってきます。お刺身の食べ方は、生姜、わさびなどを添えてお醤油、ポン酢などに漬けて食べるというのが一般的ですね。同じ魚でもその食べ方を変えると幾通りにも楽しめます。

 そこで今回は、お刺身とは切っても切れない関係のわさびについてです。

 スーパーマーケット等でお刺身のパックを買うと、必ず小さな練りわさびがついてきます。それでも足りない場合はチューブ入りのものを別に買って使います。一方、お寿司屋さんなどではその店により、粉わさびを水で溶いたもの、冷凍の卸しわさび、生のわさびをすりおろしたもの、または混ぜ合わせたり、と様々な使い方をしているようです。

 あまり家庭で生のわさびを使っているという話は聞きません。そりゃあそうですよね、値段が高いですから、使い切れませんから。でも一度でいいですから良い魚が手に入った時、奮発して一本いかがですか。昆布とかつお節でとっただし汁がお互いの相乗効果ですばらしい味を演出するように、良い魚をさらにわさびが引き立ててくれるはずです。

 あんまり馴染みのない野菜ですから、こんなことを書いてもと思うのですが、実はわさびにも種類がたくさんあるのです。それぞれに長所、短所があり、色、香り、粘り、それに価格、と選ぶ条件は色々です。ということで、ちょっと難しい話になりそうで申し訳ないのですが、ご勘弁ください。

 わさびは上の絵の様な形をしており、水の中、すなわち田で育てられるものと、畑で育てられるものがあります。田とは言っても米を作る水田とは異なり、その中を四六時中湧き水が流れています。畑で育てられるものは、どちらかと言うと加工用に回されることが多いようです。一方水の中で育てられるものは、生での使用が中心となりますので、今回の話は田のわさび(沢わさび)についてです。

 すりおろして利用する根茎の部分は水の中で成長します。葉の部分は葉わさび、また花の時期は花わさびなどの名で生の野菜として店頭に並べられます。処理の方法については本サイトの調理の基本技法を参考にしていただくとして、田で育てられるわさびの中にも多くの種類があり、ここでは数ある中でも最も有名な「真妻(まづま)」という品種をご紹介します。

 わさび業界では有名なこの真妻、品質は折り紙付きだが育てるのが大変。良い真妻を作るには、さまざまな条件があるそうです。

 わさびにとってなんと言っても重要なのは水。水の中で育つので、この良し悪しが品質を左右します。良いわさび、特に真妻が出来る水とは、まずきれいであること、次に水温が年間を通じて12-14℃に保たれていることとなります。

 ということで、条件を満たす場所とは、きれいな湧き水があり、海抜400-600mで北向き斜面となるそうです。北向きという条件には、大陽があまり当たらないようにという意味があります。これらの条件を満たす所はありそうでなかなかないようで、現在真妻の生産地は非常に限られているようです。一番有名な所は静岡県の中伊豆です。その他と言いますと、同じ静岡県の御殿場、それから東北の一部ということです。

 中伊豆では、湧き水を堰き止めてわさび田を幾段にも造り、その中には木が植えられています。その下には緑色のわさびの葉が生い茂っています。この独特の景色の美しさが本などにも紹介されます。

 実はこの景色にはちゃんと意味があります。それは上に書いた水の温度に関わります。特に夏の間はいくら北向きの斜面でもやはり日の光が当たります。幾段にも続くわさび田の中を流れていくうちに、どんどん水温が上昇してしまうのです。そうなると、下の方のわさび田では良いわさびはできません。そこで、木を植え木陰を作ってやるのです。

 一方、同じ静岡県でも御殿場のわさび田の光景は、中伊豆のそれとは異なります。湧き水があり、環境はよく似ているものの、わさび田の造り方が違います。もっと合理的というのでしょうか、特に水の温度に関してそれぞれのわさび田の条件を均一にと工夫しています。

 中伊豆のわさび田が幾段にも続いているのに対して、御殿場のそれは上の写真のように最高でも3段程度、最後の田からでた水は横の川に流してしまいます。すなわち、川に対して直角にわさび田を造っているのです。また、木陰を作る代わりに、人工的に覆いをかける為の骨組みを造っています。こうすることで真妻を育てるための条件を、より厳密に当てはめようとしているのです。

 こんなことで、他のわさびが1年程度なのに対して、真妻は1年半から2年の歳月をかけて育てられ、市場へと出荷されています。まさにわさびの最高級品なのです。

 ここまで書くと、わさびは真妻でなければいけないように思ってしまうかもしれませんが、決してそういうことではありません。その他の品種にもそれぞれに香り、辛味、粘り、それに価格面と、良い所を持つものがたくさんあるのです。いずれにしても、粉を練ったものやチューブのものとは違った新鮮さを感じさせてくれることでしょう。