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 『マディソン郡の橋』  ロバート・ジェームズ・ウォラー
              原題 : The Bridges of Madison County



野菜のシチュー




(ロバート・ジェームス・ウォラー著/Warner Books)

●作者紹介

ロバート・ジェームス・ウォラー Robert James Waller(1939〜)。アメリカの作家。
アイオワ州ロックフォード生まれ。北アイオワ大学で25年間教職についていたが、1985年体調を崩して退職。エッセー集を2冊出版した後、小説『マディソン郡の橋』(192)を発表、ベストセラーとなった。経営学部の教授時代から、フォークシンガー、アマチュア写真家など多彩な顔を持つ。ほかに小説『スローワルツの川』(1993)、エッセイ集『マディソン郡の風に吹かれて』(1994)などがある。




Madison County,Iowa!
The Bridges of Madison County:The Movie
Madison County Cookbook

●作品紹介

『マディソン郡の橋』

1992年発表。小説としては処女作である。人生半ばを過ぎようとする二人の男女の出会いと、共にすごした4日間を描いた物語。

ワシントン州にすむ写真家ロバート・キンケイドは、屋根付きの橋を撮影するためアイオワ州ウィンターセットという小さな町をおとずれた。イタリアから嫁いできたフランチェスカ・ジョンソンは農夫の妻、二人の子の母としてこの町に暮らしていた。目的の橋への道をきくためにロバートがフランチェスカの目の前に立った瞬間から、二人は強く惹かれ合う。

「長いあいだ、わたしはあなたに向って、あなたはわたしに向って歩いてきたのです」「はるか昔から、この世に生まれる前から、わたしたちは互いに相手に向って旅をしていたのです」ロバートは後の手紙にこう書いている。互いの結びつきをこれほど確信しながら、
フランチェスカはこれまでの生活を捨てることを選ばず、ロバートは独りウィンターセットを去る。その後二人が会うことは二度となかったが、共にすごした短い時間が、互いの人生にどんな意味をもたらしたか、フランチェスカは子供たちに宛てた手紙に残した。



「静かな匂い」――「静かな料理」――読み手に伝わってくる音と香り

ロバートの「アイオワでの暮らしは気にいっていますか」という一言に「とどめ」を刺されたフランチェスカは「何年も前から喉まで出かかっていたが、一度も口にしたことがなかった言葉を告白してしまう。「これはわたしが少女のときに夢見ていた生活じゃないんです」――――共感を示したロバートにさらに好感を抱いたフランチェスカは夕食に誘う。
フランチェスカの「ポークチョップはお好きかしら?」という質問にロバートは「わたしは野菜だけでけっこうです。肉は食べないんです。もう何年も食べていないんですよ」と答えている。フランチェスカ自身も肉はあまり食べないのだと言い、ここで作られるのは、野菜だけのシチューである。フランチェスカは自宅の菜園でにんじん、パセリ、パースニップ、玉ねぎやかぶを取り入れ、ロバートはじゃがいもを運んでくる。二人で台所に立ち、野菜をさいの目に切り分ける。







フランチェスカが夕食に誘う前の部分に、「肉汁(グレイヴィ)をかけたジャガイモと赤身の肉を──人によっては日に三度も──食べるこの地方の住人とは対照的に、ロバート・キンケイドは果物と木の実と野菜しか食べないように見えた。強くてしなやかそうだわ、と彼女は思った」とある。家では肉のないメニューを試そうとすると非難の声が上がる、とフランチェスカは言っており、その後も再びロバートを観察して「毎朝ビスケットに肉汁をかけるこの土地の男達とは似ても似つかなかった」、と再三土地の食習慣や土地の男たちと比較したフランチェスカの目でロバートが描かれている。

二人の作ったシチューに肉などの動物性食品が使われていないことが、ロバートの「とても・・・静かな匂いだ」という言葉で表現されている。シチューは静かな匂いをはなちながら静かに煮え、「静かな料理」ができあがる。

大西 裕子