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野菜のシチュー

「マディソン郡の橋」ロバート・ジェームズ・ウォラー
(作品紹介のページへ)





| 作り方 |


具は野菜だけ、ブイヨンなどの出し汁も使わず、新鮮な野菜のうまみだけを生かしたシチュー。フランチェスカとロバートの作業をほぼそのまま再現した簡単な家庭料理です。 なお、ダンプリングは小説には作り方は出てきませんが、手作りにしてみました。





料理を再現した人 : フランス料理教授 分林真人

 「野菜のシチュー」という名で出てくるこの料理は、いかにも田舎の家庭の庭に植わっていそうな野菜をたっぷり使っています。野菜は存在を主張するように大きめに切り、じっくり煮込む。それも出し汁などは使わず、ただの水で。もちろんアイオワの自然豊かな環境の中の水で、日本の都会の水道水とはかなり違うでしょう。作品中、フランチェスカの家の裏庭でロバートが水浴びに使った「古い手押しポンプ」の井戸水がイメージとして浮かんできます。

シチューと呼んでいる所にも注目をしたいものです。野菜を液体で煮て作る料理といいますと、イタリアのミネストローネやフランスのポタージュ・キュルティヴァトゥールを思い出しますが、これらの場合小さめに切った野菜は浮き実として、たっぷりの液体を飲 むスープ。大ぶりに切った野菜を水で長時間煮込んで作るこの料理は、仕上がるころにはしっかりと煮詰まってとろみがついた液体の中に野菜がごろごろしている、やはり「シチュー」と呼ぶのにふさわしいものです。

用いる素材はほとんどなじみのものばかりですが、パースニップについてだけ触れておきましょう。形はにんじんをひとまわり大きくした感じで、色は黄みがかった白色。セロリやにんじんと同じセリ科で、だからというわけでもありませんが、セロリとにんじんの 中間といった印象の、特有の香りがあります。甘みはにんじんよりかなり強く、「砂糖にんじん」と呼ばれることもあるようです。火を通すと、生のときの香りからは想像もつかないほどまろやかな香りに仕上がり、濃厚な味を出してくれます。煮崩れることもなく大変扱いやすく重宝する野菜です。

野菜は、十分に時間をかけて煮込むことを念頭に、大きめに切ります。きれいに形を切り揃えておくと、口に含んだときの触感がよく、見た目にもきれいに仕上がります。一般に、野菜は種類によって火が通る時間が異なるので、切る大きさを変えたり、また鍋に入れるタイミングをずらしたりしますが、この料理ではすべて同じ大きさに切り、ほとんど同時に鍋に加えています。「野菜に火が通ったら出来上がり」ではなく、さらにじっくり煮て野菜に火が通ったあとのうまみや甘み、香りを液体に十分引き出してはじめて出来上がる料理だからです。十分注意しなくてはならないポイントは、かぶのように火通りが早く、煮溶けるほど柔らかくなる野菜があるため、強い火でグラグラと液体を煮立てないこと。
そして鍋の中を木杓子やおたまで混ぜないことです。

それぞれに個性のある野菜が、ひとつの鍋でじっくり煮込まれて、生のときからは想像のつかないまとまった味に仕上がります。

本来こうした料理は暖炉やストーブなどに鍋をかけておき、ほかの用事をしている間に 出来上がる、そんなあまり手間をかけない家庭料理の基本の一品でしょう。昔母親が火鉢の上にかけっぱなしにしていた煮豆を思い出させます。シチューを煮ている間の主人公た ちの楽しい語らいからも、温かさや、ゆったりとした時間の流れを感じさせる料理です。 一度お試しいただき、ゆっくりと流れてゆく時間の中で、楽しい語らいを添えてお召し上がりください。






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