www.tsuji.ac.jp 辻調グループ校 学校案内サイト www.tsujicho.com 辻調グループ校 総合サイト blog.tsuji.ac.jp/column/ 辻調グループ校 「食」のコラム



マカロン

「モンド」ル・クレジオ
(作品紹介のページへ)





| 作り方 |


 アーモンドパウダー、砂糖、卵白を混ぜ合わせてつくります。フランス各地に特徴あるものが見られますが、ここでは松の実をのせて、小説の舞台であるプロヴァンス地方らしさを出しました。





料理を再現した人 : 製菓専任教授 本山和伸

 この小説の舞台はフランス南東部、地中海に面したプロヴァンス地方の中心都市ニース。一年を通じて穏やかな気候で過ごしやすく、「コート・ダジュール」紺碧海岸の名で有名な、観光客を惹きつけてやまない土地です。特に夏になると、海水浴めあてのヴァカンス客で賑わいます。
 この温暖な気候のおかげで、プロヴァンス地方では果物の栽培が盛んです。ブドウやオレンジをはじめ、メロン、レモン、モモ、アプリコット、スイカ、イチゴ、サクランボなど種類も豊富です。またイチジクも、日本のものより少し小振りですが、中が赤紫色で甘みがあります。これらの果物は、そのまま生で食べるのはもちろん、ドライフルーツにしたり、砂糖漬け、ジャムにもします。 アーモンドの木もこの土地でよく育ちます。果物同様、この地方の糖菓の材料として欠かせず、何といっても独特のほろ苦さと甘さが身上です。また、松の実も忘れることはできません。南フランスでは、この香ばしくてコクのあるリッチで濃厚な素材を、料理に、菓子に、古くから使っていたようです。

 また同じプロヴァンス地方のグラースという町−ニースの西に位置し、映画祭で有名な海沿いのカンヌから少し内陸に入ったところにありますが−ここは香水のメッカとして知られ、ミモザやスミレ、ラヴェンダー、バラ、ジャスミンなど、ほとんど一年中花が絶えません。
 香水以外にも、花は料理や菓子に大活躍します。彩りや風味づけにはもちろん、スミレ、ミモザをはじめとしてさまざまな花を砂糖漬けにしますし、ラヴェンダーやタイムから取る蜂蜜は特にこの地方のものとして有名です。特にラヴェンダーの蜂蜜は香り高く、逸品といえるでしょう。また、ビターオレンジの花を水に浸して蒸留した液体を、お菓子の香りづけによく使います。

 この地方のお菓子には、生クリームのこってりした口当たりのものはほとんど見られず、先に挙げた果物、アーモンド、松の実、蜂蜜、オレンジの花水をよく使うのが特徴です。特に、アーモンド、果物の砂糖漬け、オレンジの花水で作る「カリソン」は、プロヴァンスに行かれた方が必ずエクス=アン=プロヴァンスの町に立ち寄っておみやげに買ってくる、といわれるほど有名なお菓子です。アーモンドとラヴェンダー風味の蜂蜜で作るヌガーもこの辺りの特産品です。

 小説に出てくるのは、松の実とアーモンドを使ったマカロンです。マカロンといえば、フランスの多くの地方でさまざまな特色を出したものが作られています。食べた感触が柔らかかったり固かったり、表面が艶やかなものもあればひび割れたものもあり、本当にいろいろな状態のものが見られますが、これは材料の配合割合や製法の違いによります。いずれにせよ、アーモンドが美味しくなければお菓子が生きてきません。

 今回は、ご覧になった方が自分でも作ってみようと思っていただけるように、パート・ダマンド・クリュ(粒のアーモンド、砂糖、卵白の混合物で、なめらかなペースト状にするのに専用のローラーが必要)を使わずに、既製のアーモンドパウダーを利用する配合にしています。松の実を表面に散らすのも、この地方独自のものでしょう。
 できあがりのしっとり感を補うために、生地を混ぜ合わせたら1時間ほど寝かせてから焼き上げました。また焼き立てでもおいしいですが、2日ほどおくと口当たりがいっそうしっとりします。
 写真では、小説のこの場面でもてなしているのがヴェトナム人であることから、ヴェトナムでよく飲まれているというハスのお茶を添えました。これが不思議と松の実の香ばしさと合うと思います。

 ぜひ一度作ってみて、あなたもマカロンを食べながら小説のなかの情景に想い耽ってみてはいかがでしょう。






辻調グループ 最新情報はこちらから