www.tsuji.ac.jp 辻調グループ校 学校案内サイト www.tsujicho.com 辻調グループ校 総合サイト blog.tsuji.ac.jp/column/ 辻調グループ校 「食」のコラム



兎のブレゼ

『兎』金井美恵子
(作品紹介のページへ)





| 作り方 |

フランス料理の調理法でいえばブレゼにあたる料理。丸ごとの兎に詰め物をして、付け合わせの野菜などと一緒に鍋に入れ、少量の液体(ワイン、ブイヨン)を加え、蓋をしてオーブンで蒸し煮します。ひとつの鍋ででき上がる豪快な家庭料理です。




| 作り方 |

丸ごとではなく、さばいてからブレゼしました。手間はいくらかかかりますが、食べやすくでき上がります。フランスでは、ここで使ったような飼兎(家兎)は鶏や鳩などと一緒に「家禽」として扱われます。肉質も鶏肉に似てあっさりとしています。





料理を再現した人 : フランス料理教授 分林真人

 「待ちぼうけ」という童謡をご記憶でしょうか。野良仕事にはげんでいた農夫が、たまたま手に入った兎に味をしめ、仕事を投げ出してしまうというあの歌は、兎を食するという前提でのはなしです。ところが、近年の日本では兎を食する習慣はほぼ途絶えたと言ってよいほど、食材としてとらえることがなくなってしまいました。そのため、今回の料理作成にあたって、多少の抵抗があったのは事実です。


 兎は西洋料理をする料理人にとってはごく一般的な食材です。ヨーロッパ各地にそれぞれの調理法で料理が存在し、簡単な煮込みなどは大抵は「おばあちゃん風」などの名前で家庭の味の定番料理となっています。
 野生の兎は、フランスではリエーヴルと呼ばれる野兎と、ラパン・ド・ガレンヌ(穴兎)の2種類がいて、後者の穴兎を人間が飼い慣らし、食料として飼育し続けてきたものが家兎だといわれています。これがみなさんもよく御存知の白くて目の紅いかわいい兎です。


  「えっ!!」あれを食べるのと思われる方もあるでしょう。でももともと食材として飼われるようになったものなのです。泳いでいる魚を〆めて活け造りにしたら美味しそうというのに、見た目がかわいいからと兎を食することに抵抗を示すのは少し食に関する一貫性がないのでは、とも思いますが、これも食習慣の違いによるのでしょうか?

 人間は色々な生物の犠牲の上に食生活が成り立っています。植物だって生きていることに変わりはありません。もちろん尊い生命を断って料理するのですから、本当に美味しく作ってあげないとそれこそかわいそうです。屠殺された兎を目の前にすると、皆においしいと言っていただけるように調理するのが料理人の責任であると痛感いたします。

 今回の小説についていえば、いささか残酷と思われる部分もありますが、全体に夢物語的にとらえるのがよいと考えます。例えば、兎の屠殺の場面では「白い毛皮の下から血と脂肪に包まれた薔薇色の肉が・・・・・・」というくだりがあるのですが、料理人の目からするとこうした表現にはやや詩的な誇張が感じられます。

 さて、食材としての兎ですが、家兎は毛皮が白いものが多く、肉はごく淡いピンク色です。穴兎は薄茶色の毛皮で肉の色は家兎より赤みが濃く、野兎は茶褐色の毛皮にかなり黒っぽい赤色の肉で、家兎が家禽とされるのに対して、穴兎と野兎は野鳥獣(ジビエ)に分類されます。

再現した料理に使った家兎の肉は、鶏肉に似た食感でありながら、その何倍ものコクとうまみを持っています。ヨーロッパでは価格も安く家庭でもかなり頻繁に食されます。なだいなだ氏が著書の中で、日本でももっと兎を食べるべきだと言われていますが、全くその通りで、食材としてたいへん優れているのです。

 もも肉は肉質が締まっていて歯ごたえもあり、火を通してもぱさつくことはなく煮込み、ローストなどに最適。背肉は淡泊で柔らかく、高級食材として扱われます。フランスのレストランでは骨をはずして詰め物をしたり、ロースの部分だけをやっと火が入る程度に焼いて供したりします。鶏のささみをもっときめ細かくした感じですが、火を通しても鶏のようにぱさつく感じがありません。
 前足は肉が少ないため、骨付きのままで煮込んだり、身だけをミンチやすり身にして、詰め物、テリーヌ、パテなどに使います。さらに肝臓、腎臓なども料理に使います。

  小説の中には、兎のほかに、鳩の焼き料理、内臓のペーストのゼリー寄せ、果物のコンポートなどおいしそうなものがたくさん登場するので、そちらも作って並べてみました。鳩やうずらなど小型の鳥を丸ごとローストするとき、フランスではよくこのようにブドウの葉で包みます。コンポートは、シロップにワインや香辛料を加えた煮汁で果物を柔らかく煮たものです。小ぶりの洋梨、ドライアプリコット、干しプラムで作ってみました。内臓のペーストはゼリー寄せになっていて口あたりはよいですが、風味は濃厚で、さらにサワークリームがたっぷりかかっています。
 白ワインを飲みながらオードブルに生の貝を食べ、ペーストを食べ、兎を半羽に、鳩は1人で半羽でしょうか1羽でしょうか。赤ワインを飲み、デザートも食べてココアを飲んで・・・・・・いかがでしょう、あなたは最後まで食べきれますか。







辻調グループ 最新情報はこちらから