食後酒(Digestif:ディジェスティフ)に向いているのは、アルコール度数が高く、香りの良い蒸留酒(Branntwein:ブラントヴァイン)や甘口のリキュール(Likör:リキューァ)などで、食事の後に、余韻を楽しむために飲まれている。また、それらは満腹になった胃を刺激し、消化を促進するとも信じられている。
今回は、蒸留酒の主な種類と、専用のグラスについて紹介する。
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★蒸留酒の種類
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◆ゲトライデブラント(Getreidebrand)
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コルン(右)と ドッペルコルン(左) |
原材料は、小麦(Weizen:ヴァイツェン)やライ麦(Roggen:ロッゲン)、カラス麦(Hafer:ハーファー)、蕎麦(Buchweizen:ブッフヴァイツェン)などの澱粉を含む「穀物(Getreide:ゲトライデ)」である。
コルン(Korn)は、アルコール度数32%vol.以上、コルンブラント(Kornbrand)は37,5%vol.以上と決められていて、香味成分や着色料などの添加物は、一切認められていない。
コルンブラントは、ドッペルコルン(Doppelkorn)やエーデルコルン(Edelkorn)とも呼ばれる。
産地はドイツ北西部に集中していて、特にノルトライン・ヴェストファーレン州で多く製造されている。消費量もドイツ北部の方が多い。
ビールとコルンを同時に注文して、交互に飲む習慣があると聞くが、南部では見掛けたことがない。
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◆クノッレンブラント(Knollenbrand)
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「Knolle(クノッレ)」とは、塊茎・球根のことで、ジャガイモ(Kartoffel:カルトッフェル)や菊芋(Topinambur:トピナムブーァ)がそれにあたる。
蒸留酒「トピナムブーァ:Topinambur」は、「トピ:Topi」または「ロースラー:Rossler」の愛称でも親しまれている。馬(Ross)に与える餌だったことから、バーデン地方では、菊芋のことを「Ross-Erdapfel(ロース・エァトアプフェル)」とも呼ぶ。「エァトアプフェル」とは、直訳すると「大地のリンゴ」で、ジャガイモを示す南部方言である。野趣溢れる独特な味で、微かに土の香りがする。 無色透明なものと、薬草が加えられている赤いトピナムプーァがある。
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◆ヴルツェルブラント(Wurzelbrand)
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上記のイラストは 「ブルートヴルツ」 |
「Wurzel(ヴルツェル)」は、植物の根のことである。
独特な土の香りのする、黄または紫リンドウの根(Enzianwurzel:エンツィーアンヴルツェル)や、セリ科のカワラボウフウ属のマイスターヴルツ(Meisterwurz)、乾燥させた根茎を切ると赤いことから「血の根」の名前で呼ばれるバラ科キジムシロ属のブルートヴルツ(Blutwurz)、セリ科のベーァヴルツ(Bärwurz)などがある。 何れも高山植物の根で、バイエルンの森やアルペンなどドイツ、オーストリアとスイスの国境に近い山岳地域で昔から造られていて、薬効があると信じられている。
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◆ヴァインブラント(Weinbrand)
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「ヴァインブラント(Weinbrand)」は、ワイン(Wein:ヴァイン)の蒸留酒である。原料は100%ワインでなければならず、最低1年以上の熟成期間が必要とされる。1000リットル以下の小単位で、オークの樽で熟成させる場合には、6ヶ月が下限となる。
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◆トレスターブラント(Tresterbrand)
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ワインを醸造する際に残される「ブドウの絞り粕(Traubentrester:トラウベントレスター)」を原料とした蒸留酒である。
フランスでは「マール(Marc)」、イタリアでは「Grappa(グラッパ)」が有名である。ドイツでは、「トレスターブラント(Tresterbrand)」または「トレスター(Trester)」の名称が使用される。 写真は、どちらもトラミーナー(Traminer)」という品種のブドウの絞り粕を原料としているが、右は無色透明、左は醸造後に樽内で熟成させているので、琥珀色をしている。
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◆オプストブラントとオプストガイスト(Obstbrand und Obstgeist)
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「キルシュヴァッサー」 |
果物の総称は、オプスト(Obst)またはフルヒト(Frucht)と言う。
リンゴや洋ナシなどの「ケルンオプスト(Kernobst:仁果類)」、サクランボやアプリコット、プラムなどの「シュタインオプスト(Steinobst:核果類)」、イチゴなどのベリー類やブドウが属する「ベーァレンオプスト(Beerenobst)」に大別することができる。
これらの果物をマイシュ(Maisch)という原汁に加工して、発酵させた後に蒸留した酒は、「オプストブラント(Obstbrand)」や「オプストヴァッサー(Obstwasser)」と呼ばれる。
果物によっては、果糖が少なめで、マイシュを使用する製造過程に合わないものもある。その場合には、アルコールに細かく切った果物を漬け込んで、芳香成分を移してから蒸留する。これは「オプストガイスト(Obstgeist)」と呼ばれる。代表的なのは、ヒムベーァガイスト(Himbeergeist)や、ブロムベーァガイスト(Brombeergeist)などである。
オプストブラントは、最低37,5%vol.のアルコールを含まなくてはならず、殆どの場合、果物の種類別に製造される。また個々の品種別に造られることも少なくない。
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*ケルンオプストブラント(Kernobstbrand)
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「オプストラー」 |
「ケルンオプスト(Kernobst:仁果類)」に分類されるのは、リンゴ(Apfel:アプフェル)や洋ナシ(Birne:ビルネ)、マルメロ(Quitte:クヴィッテ)などである。
洋ナシの中では、「Williams Christ(ヴィリアムス・クリスト)」という品種が特に珍重される。 リンゴと洋ナシを組み合わせてマイシュに加工した後で蒸留した酒は、「オプストヴァッサー(Obstwasser)」、または「オプストラー(Obstler)」と呼ばれる。
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*シュタインオプストブラント(Steinobstbrand)
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「プフラウメンブラント」(左)と 「ミラベッレンヴァッサー」(右) |
スイートチェリー(Süßkirsche:ジュスキルシェ)やサワーチェリー(Sauerkirsche:ザウァーキルシェ)、ミラベル(Mirabelle:ミラベッレ)やプラム(Pflaume:プフラウメ)、セイヨウスモモの一種(ツヴェツィゲ:Zwetschge)やアプリコット(Aprikose:アプリコーゼ)などが、「シュタインオプスト(Steinobst核果類)」に属する。
シュタインオプストの仲間には、蒸留酒に向いているものが多いが、桃(Pfirsich:プフィルジッヒ)の様に、蒸留酒にするには香りが弱過ぎ、生食の方がずっと価値が高い果物もある。
世界的に有名なのが、「キルシュヴァッサー(Kirschwasser)」で、シュヴァルツヴァルト(黒い森)地方の特産である。
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*ベーァレンオプストブラント(Beerenobstbrand)
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「ヒムベーァ ガイスト」 |
「ベーァレンオプスト(Beerenobst)」に分類されるのは、イチゴ(Erdbeere:エァトベーァレ)、キイチゴ(Himbeere:ヒムベーァレ)、クロイチゴ(Brombeere:ブロムベーァレ)、コケモモ(Heidelbeere:ハイデルベーァレ)、セイヨウスグリ(Stachelbeere:シュタッヒェルベーァレ)、フサスグリ(Johannisbeere:ヨハニスベーァレ)、ニワトコ(Holunder:ホルンダー)やブドウ(Weintraube:ヴァイントラウベ)などである。
「ヒムベーァガイスト(Himbeergeist)」の様に、特別に手を掛けて加工する価値がある種類もあるが、ベーァレンオプストの中には、生食向きで、蒸留に向いていてない種類も多い。その代表はイチゴである。また、フサスグリやニワトコでは、黒い品種のみが蒸留に適していると言われている。
この他、「ヴィルトフルヒト(Wildfrucht)」と呼ばれる野生の果物からも、沢山の種類の蒸留酒が造られている。 青黒い実をつけるスピノサスモモ(Schlehdorn:シュレードルン)からは「シュレーンブラント(Schlehenbrand)」、楕円形の赤い実のセイヨウサンシュユ(Kornelkirsche:コールネルキルシェ)からは「ディルンドルブラント(Dirndlbrand)」が造られる。
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★蒸留酒の保管
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太陽光を避け、閉ざされた冷暗所で、瓶を「立てた状態」で保管する。開封後は必ずしっかりと栓をし直すことが重要である。
「ベーァレンブラント」の場合は、一般的に開封後でも1年以内に飲みきれば良い。ビルネンブラント、アプフェルブラントやクヴィッテンヴァッサーなどの「ケァンオプスト」の蒸留酒は、2〜4年間であればその味わいが保たれる。
キルシュヴァッサー、またはミラッベレンヴァッサーなどの「シュタインオプストブラント」は、大抵の場合、数年間の保管後でもその風味を保ち続ける。場合によってはその後更に熟成することもある。
それに反して「オプストガイスト」は、オプストヴァッサーよりも早く香りを失ってしまう。また「ガイスト」は一度ビン詰めされると、その後、熟成などの良い意味での変化は起こらない。
一度開封したオプストブラントやベーァレンブラントの瓶は、空気中の酸素との接触によって、少しずつ変化してしまう。稀にしか飲まない場合は、なるべく小さな瓶を購入することを薦める。開封後、長期に渡って飲む機会がなかった場合には、瓶を何度か傾けて、瓶の中に揮発してしまった成分を液体に再び戻してやると良い。
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★蒸留酒を飲む際の適切な温度
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コルンなどの穀物蒸留酒は、一般的に良く冷やし、一気に飲み干すことが多い。
これに対して、オプストブラントは軽く冷やした状態でサーヴィスする。芳香が広がり難くなくなるため、冷やし過ぎない様に注意が必要である。
オプストガイストは10〜12℃が最適な温度である。シュタインオプストブラントは14〜16℃でサーヴィスする。洋ナシの蒸留酒ヴィリアムスの適温は、もう少し高めで16〜18℃である。
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★蒸留酒専用グラス
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◆シュタムパー(Stamper)
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「シュタムパー(Stamper)」または、ドイツ南部やオーストリアでは「シュタムペーァル(Stamperl)」とも呼ばれる火酒用の小さなグラスで、その容量は2cl(20ml)。
それ自体に独特の香りがないコルンなどを、一気に飲み干す場合には適しているかも知れないが、グラスの口が広がっているために、香りが直ぐに逃げ去ってしまい、時間を掛けて芳香を楽しむことが難しい。
そのためオプストブラントの愛好家は、このグラスの使用を避けるという。
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◆オプストブラントグラス(Obstbrandglas:果物の蒸留酒用グラス)
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オプストブラントを正しく味わうための専用グラス。脚付きで、胴の部分が膨らんだチューリップ、もしくは洋ナシ型が理想的である。
グラスの膨らんだ部分で、注いだ液体の表面積が広がるが、途中で一旦窄まっているので、香気が一気に逃げ去ってしまう心配はない。また、上部が煙突の役目をするので、グラスの中央に集まったアロマが、自然に鼻腔に導かれる。
このタイプのグラスに注ぐ場合は、容量の3分の1までが上限である。
写真左はグラスと揃いのカラフ(Karaffe:カラーフェ)。
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