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連載コラム 今日は何飲む?
いろんな出会いがあります。意外な出会い、運命的な出会い。出会いからは何かが生まれます。このコラムはそんな“出会い”の話です。出会いを求めている主人公はワインや日本酒などのアルコール飲料。相手は料理、時としてフレンチ、イタリアンあるいは日本料理かも知れません。どんな巧妙な出会いが料理人の手で演出されるか。ぜひ楽しみにしてください。
木乃婦(前編)
『木乃婦』は開業65年になる京料理の店。旬の会席から仕出し・出張料理まで、お客様のあらゆる需要に応えることのできるお店です。今回の出会いを演出していただいた高橋拓児氏は初代から受け継いだ伝統をしっかりと守りつつ、新たな日本料理の地平を目指している若き3代目です。自らソムリエの資格をもち、日本料理の店では珍しいワイン献立なるものも提供されています。また、世界に日本料理の正しい形を知らしめることを目的とした「日本料理アカデミー」の事務局も担当し、幅広く活動されています。その新たな「開かれた」日本料理のエスプリがどのような料理をワインに合わせてくるのか、実に楽しみな時間が待っています。


主人公
1. 勝沼甲州樽発酵 2003年(勝沼醸造)
品種は甲州。
日本古来の甲州品種で造り、フレンチオーク材の樽で熟成発酵させた、繊細で優雅な口当たりの白ワイン。
勝沼甲州樽発酵 2003年(勝沼醸造)
2. シャンボール=ミュジニー 2001年(ミシェル・グロ)
品種はピノ・ノワール。
腰のあるほどよい酸味とスパイシーなアロマが広がる、上質でしなやかなブルゴーニュ産赤ワイン。
シャンボール=ミュジニー 2001年(ミシェル・グロ)

出会いを演出する人
京料理『木乃婦』(京都・仏光寺)
高橋 拓児 専務取締役(3代目) ソムリエ


出会った料理
蒸し鮑と蟹のジュレがけ、キャビアのせ
平目の薄切りとアンコウの肝
白子と蛤の吸い物
近江牛の幽庵地漬け焼き、生海胆のせ
フカヒレと胡麻豆腐の小鍋仕立て
焼き河豚の混ぜご飯
ココナツ・アイスクリーム、トリュフ・アイスクリーム、晩白柚(ばんぺいゆ)


「今日は何飲む?」野次馬隊
Y:本業は某広告制作会社のクリエイティヴ・ディレクター。日本ペンクラブ協会会員。ワイン関係の著作も多く、クラッシック音楽への造詣も深い。著作に『今日からちょっとワイン通』『武満徹対談集』『現代ワインの挑戦者たち』がある。
KK:辻調グループ校日本料理教授。日本料理だけにとどまらず西洋料理にも大いなる興味を持ち、開かれた感性ですべての料理を見据えることができる逸材。日本料理の説明を求めるとフランス語で答える習性あり。
M:才能豊かな女性。辻調グループ校のスタッフのひとり。いろいろな仕掛けを企む人。食べることと飲むこととヴィオラを演奏することをこよなく愛する。とりわけ飲むことは・・・
S:男性。どちらかというと晩熟型(悪く言えば進化が遅い)。趣味はアイロンがけと靴磨き。このコラムの担当者。大の猫好き。


●1本目のワイン:勝沼甲州樽発酵 2003年(勝沼醸造)

S:さて、今回は日本料理とワインの出会いという、このコラムとしては始めての試みです。

Y:ま、よほど合わないもの以外は大丈夫だと思いますがね。数の子とワインなんて言われるとちょっと勘弁していただきたい、とは思いますが(笑)。

S:ただ、日本料理の味のベースになっている出汁の風味とか醤油の味が邪魔になるのでは、という懸念が常にあるのですが。

Y:でも、醤油も乳酸発酵ですしね。

S:端的に言って日本料理とワインは合うのでしょうか?

KK:日本酒と言うのは結構個性が強いので、逆に日本酒と日本料理が合わないのでは、と僕は思っているのです。

Y:特に最近の、高級と言われる吟醸酒系の酒は香りが強すぎるのでしょうね。なんか「私だけ見て」って女性のような感じがしますね(笑)。

M:(笑)。

KK:確かに、あるある(笑)。
(白ワインを味わって)


Y:このワインを飲むのは初めてです。

KK:料理を作っていただく高橋さんは、昨年ソムリエの資格を取られたのですよ。

S:今日はどの料理をこの白ワインに合わせられたのでしょう?

KK:そうですね。そのあたりを少し聞いてみましょうか?

高橋氏登場
S:どうも今日はすいません。

高橋:今日はですね。ワインに合わせるということで鰹出汁をまったく使いませんでした。昆布と動物系のものを使いまして、一品目のジュレも昆布出汁で作っています。後、お造りは平目の薄造りとアン肝の薄切りに芽葱を添えたものをポン酢で食べていただきます。お吸い物は蛤の潮仕立てで、河豚の白子と蛤のお吸い物になっています。後は赤ワイン用で…。

KK:では、そこまでを白ワインに合わせるということですね。

高橋:そうです。ま、その中で一番合うのを見出していただければ、と。赤ワインには近江牛のフィレを幽庵地漬けにしまして、焼いたものに生海胆を合わせてみました。後はフカヒレと胡麻豆腐の小鍋仕立てを赤ワインに合わせていただこうと思っています。

KK:フカヒレと胡麻豆腐の小鍋仕立てはこの店の名物料理です。

Y:この白ワインですけれど、甲州ワインの中でわざわざこのボトルを選ばれたのには何か理由があるのですか?

高橋:これはですね…(笑)うちのワインリストのラインアップは私が好きなものを選んでいるのですけれど、甲州種を使っている中でも腰がやわらかい感じがしまして、和食には合うかなと思いまして選んでいるということです。

Y:わかりました。新樽はそんなになくて、古樽なのですかね?

高橋:半分ぐらいだと思います。

Y:飲んでみよう。そうするとわかるかも知れない。

高橋:そうですね。飲んでみてください。では、後ほどお邪魔します。


● 料理一品目:蒸し鮑と蟹のジュレがけ、キャビアのせ

KK:この料理は鰹を用いていないって仰ってましたけれど、黄身酢の中に少しだけ用いたりはしていますよ。

Y:クリオコンセントレーションって言って、いったん果汁を凍結させると水分から凍るじゃないですか、で、それを絞ると濃縮した果汁を得ることができるという方法を用いている。甲州の場合には完熟させると酸がやわらかくなってしまう、という問題があるので、これは恐らくそれほど完熟していない甲州品種をクリオコンセントレーションして、氷結、濃縮して、酸味を強く出しているのです。

S:このレベルのワインが日本でも作られているのですね。

Y:一種の流行と言えるかも知れません。ただ、人工的な操作を加えるのがよいのか、悪いのかは別の話かも知れないですね。

S:少し苦みというか、渋みというかを感じるのですが…。

Y:甲州種はフランスのセパージュでいうとグリ種と呼ばれる少しピンクがかった品種です。この品種はその表皮からタンニンというか、渋みは必ず出てきます。甲州種の一番難しいところは、香りを出そうとすると渋みが必ず出てきてしまうところです。ただ、このワインの場合はクリオコンセントレーションしている上に、酵母をかき混ぜていると思います。その作業によって軽い酸化が起こって、皮の渋みが抑えられていると思います。

蒸し鮑と蟹のジュレがけ、キャビアのせS:なるほど。では、料理にいきますか。

KK:日本料理のコースの場合は、どうしてもこういうぼやっーとした風味から入っていきます。

S:そうすると日本料理のコース料理の風味の曲線を描くとすれば、どこかで上昇するのですか?

KK:風味の曲線ということからすると真っ平だと思います。だから欧米人の方が食べられると、すべて鰹節の風味だって言われるのだと思います。じゃあ、いったい日本料理のコースで何がメイン・ディッシュですか、と聞かれたら、僕は個人的な意見ですがご飯だと答えます。

S:でもそうなると、日本料理のお店は、どこも鰹節を風味のベースとして料理をつくるわけですよね。その場合、それぞれの店舗の料理の相違っていうのはどこから生じてくるのですか?

KK:あえて言うならば「盛り付け」あるいは「見せ方」かも知れません。

S:となると、やはり「目」で味わう部分が大きいということになるのですね。

KK:そういうことです。要は「視覚」ですね。ですからよく言われるように、「目で食べさせる」というのはそこだと思います。

S:この料理とワインは普通に合うような気がします。

Y:ところで日本料理にキャビアという素材はどうなのでしょう?

KK:僕は賛成です。使い方もいろいろあると思います。ただ、それ以前にキャビアという素材をしっかりと知ることが重要でしょうね。

S:どうですか?この料理とワインは?

蒸し鮑と蟹のジュレがけ、キャビアのせY:キャビアだけが少し気になる。キャビアって意外とワインと合わせるのが難しいです。ワインと合わせるとどうしてもキャビアの持つ淡水魚卵独特の香りが立つことが多くて。その臭さっていうのがどちらかというと淀んだ沼のような匂いですからね。

KK:この料理の場合、鰹をほとんど用いていないから、まだましなのではないですか。これで鰹の風味があると魚卵の臭さがさらにぶつかると思います。

S:酸味はいかがですか?

Y:酸味はまったく問題ないですね。

KK:昆布はグルタミン酸で旨み成分が強いから、よくまとまっていますね。そこに葛でジュレを作ってあるでしょ。だからいっそう味がまとまるのでしょう。

M:美味しいですね。私は日本の酢というか、いわゆる酢っぱい風味と白ワインを合わせると白ワインが苦くなるような気がします。それは酸が抑えられているということで大丈夫なんですか?

Y:これもやはり多少苦くなりますよ。ただ、このワインの場合、苦みも美味しさのうちに入るので、それが強調されてもまったく問題ないですね。むしろ、よいのではないでしょうか。

M:なるほど。かえって特徴が出るということになるのですね。

Y:それとこのワインは、樽からくる甘さのニュアンスの強いことが合わせやすい理由かも知れません。

KK:僕はとても相乗効果があると思いますね。ワインだけ飲んだときにけっこう個性が強いなって思いました。料理を食べるにつれてその個性が少し和らいで、ちょうどよい状態になっていったように感じました。結果としては料理もワインもさらに美味しくなったように思います。

Y:確かにバランスが取れています。

KK:あえてポイントを言うなら、確かにキャビアでしょうね。

S:最近、日本料理ではこういった西洋素材を使うのは一般的ですか?

KK:使っているところはありますね。でも中途半端な知識で使ってしまうと、料理そのものを駄目にしてしまうでしょうね。

S:このワインは単一で飲むより、料理と一緒のほうが美味しいですね。

Y:それはそうですね。ワインだけ飲むと樽の風味が強くて、まるでアメリカンオークの樽を用いたようなヴァニラの香りとかが出ていますよね。でも、フレンチオークですよね。

S:樽の材質で、ある種の特徴的な風味をワインに与えることができるということですね。

Y:もちろん樽の香りだけが引き立ってしまったらわけがわからないですけれども、基本的に樽はとても大切ですね。ブドウそのものの力と樽のニュアンスをどのぐらいにまとめるかっていうところが難しいですね。ブドウが十分強ければ、樽も十分強くやってあげればいいけれど、ブドウが弱いときに樽を強くしてしまうとブドウの風味が駄目になってしまう。

S:ということはその年の気候などを考えて、どの樽に仕込むかとか、新樽の率を減らすかとかを調整するわけですね。

KK:なるほどね。でも、毎年仕込んでいくと樽も変わりますよね。

Y:ですから2年目の樽を使う場合と3年目の樽を使う場合などがあるわけです。当然、古樽を使うほうが「樽の風味」のニュアンスが弱くなってくるわけです。

M:奥が深いですね。


● 料理二品目:平目の薄造りとアンコウの肝

平目の薄造りとアンコウの肝Y:きれいな盛り付けですね。

KK:上にのっているのは芽葱ですね。

Y:平目でアンコウの肝を巻いたほうがいいですかね。

KK:そうですね。いずれにしろ淡白な魚なので、巻いても、別々でもいいですね。

S:う〜ん、美味しいです。

KK:アンコウの肝はペーストにしても美味しいでしょうね。

S:このアンコウの肝はどのように処理してあるのですか?

KK:まず水に漬けて血抜きをして、酒塩といいまして、酒と塩の中に漬けて臭みを抜きます。そして、薄皮をすべて取り除きます。で、それをラップで巻いて蒸します。

S:これは平目でアンコウの肝を巻いて食べたほうが美味しいですね。

Y:ほんとうに。

S:この料理とワインはどんなものでしょう? 私は問題ないと思いますが。

Y:ポン酢がポイントですね。

KK:先程の料理の黄身酢のほうが酸味を強く感じましたよね。

Y:うん、この酸味のほうがやさしいですね。

KK:それはたっぷりとつけてくださいよっていう意味です。

Y:やはりアンコウの肝の脂があるのでワインの果実味がのびやかになりますね。とてもなめらかに伸びますね。そういう意味では先程の料理より相性がよいですね。

S:ということはやはりこのアンコウの肝がポイントですか。

Y:肝とこのやさしく仕上げられたポン酢でしょう。

S:酸っぱさがぶつかることはないのですね。

Y:この酸味がもうほんの少し強いとこれほど果実味は伸びないでしょう。実に微妙なところで合わせていると思います。酸の美味しさがこのワインの命ですから、それが抑えられるほど強いとね。

S:風味の相乗効果的にいうと、先程の料理と同様にこの料理とワインも相性がよいということに?

Y:先ほどの料理だと脂がなかったものですから、少し、えぐみが立ったと感じたのですけれど、この料理は肝の脂がとてもよい効果になって、えぐみを完全に抑えますね。逆に旨みに変えてしまいます。このワインがとても艶やかになりますね。

S:この料理とワインはどちらの風味をも高め合うということですね。

Y:そうです。やはり見事なものですね。

KK:ポン酢の酸味の加減とこの肝の薄さと、ですね。平目はもう少し厚くても変わらないと思いますが、肝の薄さは大事です。この薄さだと口の中で溶けるでしょ。

Y:この平目の縁側部分だとそのままでもワインと合うのは、やはり脂分でしょうね。

KK:このアンコウの肝を少し炙ってもいいかも知れません。

S:炙るとワインとの相性はどうなるのでしょう?

Y:その場合は、もう少し上質の白ワインが欲しいですね(笑)。


● 料理三品目:白子と蛤の吸い物

白子と蛤の吸い物Y:このお出汁はどのように取られたのでしょう?

M:鰹は使われていないですよね?

KK:これは蛤と水と酒ですね。それに昆布を加えて。

S:この吸い物とも白ワインを合わせられているのですよね。

Y:この河豚の白子にワインを合わせると、ものすごく樽の香りがたってきます。

M:さきほどの料理とは逆ですね。

S:白子は炙ってありますね。確かに先程とは別のワインを飲んでいるような感じがしますね。

Y:このお吸い物はやはり、吟醸酒ではない普通の純米酒のほうが合うかも知れません。

KK:そうですね。

S:白ワインは少し難しいと?

Y:細かく追求するとね。でも普通に飲んでいる分には何の問題もないと思いますよ。

M:本当に別の種類のワインを飲んでいるような印象ですね。

KK:液体の料理とワインとは、合わせることができるのでしょうか? 液体同士なので難しいように思うのですけれど…。

S:確かにフランス料理でもポタージュとかにワインを合わせるのはちょっと、って感じがあります。

M:コンソメなどにはワインは飲みますか?

S:何も飲まないのではないでしょうか。やはり液体とは難しいように思います。

Y:そうですね。少し難しいかも知れませんね。とはいえ飲みますけれど、僕は(笑)。


前編では高橋氏の「演出」がぴたりとはまり、白ワインと料理は絶妙の相性に終わりました。 後編は、日本料理に合わせるのは白ワインより難しいといわれる赤ワインの登場です。どんな料理技術を用いて相性のよさを作り上げてこられるか、そして、最後に何を語られるかを楽しんでください。

木乃婦出会いの舞台

木乃婦

〒600-8445
京都市下京区新町通仏光寺下ル
岩戸山町416
Tel.075-352-0001(代)
Fax 075-361-0789

営業時間:11:30〜14:30 17:00〜19:30(L.O.)
定休日:不定休
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人物 須山 泰秀
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