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連載コラム とっておきのヨーロッパだより
辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。
ブルターニュに生きる海の庭師たち
  つい先日まで研修していたレストランで毎日使用していた牡蠣がブルターニュ産でした。どのように作られているのだろうと思い、牡蠣の有名産地の1つ、カンカルに行ってきました。牡蠣といえば辛口の白ワイン、シャブリが合うといわれているので、途中シャブリに寄り、ワインを1本買い、カンカルの町に到着したのは、ちょうど夕方3時。徐々に眼下に広がってくる海岸線、イメージ通りに青々と広がる海・・・が、ないじゃないか!遠くまで伸びる砂地の上に置き去りにされたように、座り込んだ漁船がところどころに。ここは、あの有名なモンサンミッシェルの対岸にあたるので、干満潮の差が激しく、1日のうち必ずこうして水のなくなる時間帯が存在するのです。

満潮時のカンカル湾   潮が引くと・・・

満潮時のカンカル湾

 

潮が引くと・・・


  今回訪れたのは、レ・パルク・サン・クルベールLes Parcs Saint Kerber社。牡蠣の品評会で何度も金賞を受賞している養殖業者です。お世話になったのは社長のフランソワ=ジョゼフ・ピショーFrançois-Joseph PICHOT氏。施設を案内してもらいながら、色々と説明をしていただきました。カンカル湾では潮の満ち引きが2kmにわたり起こります。そのために藻が繁殖しやすく、プランクトンが豊富で、水温は冬には5.6℃、夏でも19.2℃なので、牡蠣の成長に適していて、この養殖場では年間150トン収穫があります。では、作業工程を説明しましょう。

creuse(マガキ)   plate(ヨーロッパヒラガキ)

creuse(マガキ)

 

plate(ヨーロッパヒラガキ)


  牡蠣には大きく分けて2種類のタイプがあります。クルーズCreuseと呼ばれる、下がくぼんだ日本でもよく目にするマガキと、プラットPlateやブロンBelonと呼ばれる平べったい形の牡蠣、ヨーロッパヒラガキがあります。この2つは繁殖の仕方が異なります。牡蠣は雌雄同体で毎年自分の性を交互に変化させていきます。プラットは水温が18℃になると体内で孵化させた幼体を1度に50万〜150万匹産みます。クルーズは20℃から21℃の水温で、1度に2000万〜1000億個の卵を産み出し、海中で受精後48時間で0.1mmの幼体が生まれます。この天文学的な数字であっても成体にまで成長するものは12個ほど。これらはプランクトンのように漂いながら成長して、クルーズで3週間、プラットは8日間で0.3mmになり、この時期から何かに付着して海の底での生活が始まります。

captage用の瓦   くっついた牡蠣を1つ1つに分ける   網に入れた牡蠣は高棚に並べる

captage用の瓦

 

くっついた牡蠣を
1つ1つに分ける

 

網に入れた牡蠣は
高棚に並べる


キャプタージュ Captage(根付け作業)
  まず、牡蠣が根付く場所を提供します。これらはコレクトゥールCollecteurと呼ばれ、プラットには石灰質の瓦、クルーズには鉄の棒に古くなったホタテ貝か牡蠣の殻、もしくはスレートの板を刺したものを海に沈めます。牡蠣の出産の時期を見定めて沈めるのですが、早すぎれば海草が付着するし、遅すぎれば何も付かないので、沈める時期が大事になります。今では科学の発達でその時期を知るのは簡単ですが、昔は勘と経験で行っていました。これらは7〜8月の作業になります。

デザンフィラージュ Désenfilage(稚貝の回収)
  9ヵ月後、つまり次の年の春に稚貝をコレクトゥールから外します。

デトロカージュDétroquage(貝を1つ1つに分ける作業)
  2つ以上の貝がくっつきあっているので、それをデマンショワールDémanchoireと呼ばれるナイフを使い、手作業で1つ1つに分けていきます。若い貝殻は壊れやすいので慎重に行います。

スマージュ・エ・ミ・ザン・ポシュSemage et mise en poches(放流)
  この時稚貝はおよそ1グラムで、プラットの場合、岸に近すぎると感染症にかかりやすくなるので、沖合いの養殖場の泥土に1ヘクタールあたり2〜3トンほど撒きます。生後18ヶ月がたつと10gほどに成長しているので、1度回収して新しい土地に1ヘクタールあたり5〜7トンほど撒きます。その後、ほとんどは2〜4年成長させます。4年ものでだいたいの大きさは50〜80g。1トンの稚貝から20〜30トンの牡蠣が取れます。
  クルーズも昔はプラットと同様に撒いていたそうですが、今ではコレクトゥールから外した後、網袋に入れ、50cmほどの高さの棚に並べて養殖しています。始めはひとつの袋に600個入れ、生後30ヶ月に成長させたら、今度は180個に詰め直し、また海に戻して大抵は5年物に成長させます。この間、年に3〜4回それぞれの袋をひっくり返す作業をします。そうしないと、貝殻が網にくっついたり、ひとつの大きな塊に集まってしまうのです。汽水域の棚に並べられた牡蠣たちは干潮時には太陽の光を浴び、水がないために自らの中に海水を溜め込むことを覚えます。ピショー氏曰く、「牡蠣の成長に大事なのは、太陽と強すぎない塩水。まるで、花を育てるのと一緒だね。土地の整備もするし、だから、僕らはジャルディニエ・ド・ラ・メールjardinier de la mer(海の庭師)って呼ばれているんだ。」

収穫作業   選別機   No.0000。0が4つもついている超大物。

収穫作業

 

選別機

 

No.0000。0が4つもついている超大物。


レコルトRécolte(収穫)
  見事に成長した牡蠣は、干潮時を狙って収穫し、アトリエに運ぶ。

キャリブラージュCalibrage(選別作業)
  牡蠣を大きさごとに分類。2つ以上くっついているものはこの時点でもう1度、デトロカージュdétroquageします。牡蠣の大きさは数字で表しますが、No.3、2、1、0と数字が小さくなれば貝の大きさは大きくなります。昔は手作業で時間のかかっていた作業も、カメラとレーザーを使った機械で1分間に270個を分別し、2つ以上くっついた牡蠣、空になっているものは自動的に除かれます。


トロンパージュTrompage(殺菌作業)
  選別した牡蠣は、水温を4℃に保った海水に1週間浸し、酸素を送り込んで殻の周りに付いた雑菌を死滅させます。この温度帯で牡蠣は次第に口を閉じていき、最終的にぴっちりと口を閉じるのです。

酸素を送り込んだ水槽   箱詰め作業   こうして世界各地へ

酸素を送り込んだ水槽

 

箱詰め作業

 

こうして世界各地へ


アンバラージュEmballage(梱包作業)
  ベルトコンベアーで流れてきた牡蠣を箱の中に詰めていきます。詰める際に1つ1つ、殻同士を叩いて口がしっかり閉まっているかを確認します。もし口が開いていたら、乾いた音がするので、これらを取り分けて、また数ヶ月海に戻します。箱詰めで大事なのが、殻のくぼんでいるほうを下にして箱にピッチリと詰めることと、最後に上から海藻を敷き詰めることです。こうすると牡蠣は口をピッチリ閉じ、長持ちします。さらに、「カンカルの海は干満の差が激しいから牡蠣自身の筋肉が発達して、海水を溜め込むからなかなか口を開けないからね。だいたい出荷して10日間は生きているよ。だから、フランスだけでなく世界中に空輸してるんだ」。

  うーん、見ているだけでは体に悪い、ちょっと味見をさせてもらいたいなぁ。と思っていたら、「味見してみるかい?」 待っていましたとばかりに、殻を開けるとたっぷりの海水があふれ、身も肉厚で殻いっぱいに詰まっている。日本の牡蠣のイメージは乳白色だが、これは軽い青緑色を帯びた透き通った色。唇を尖がらせてツルンと口に運ぶと広がるヨードの味。もう最高。 「うちの牡蠣はTSARSKAYA(サスカヤ)と呼んでいるんだ。昔、カンカルの牡蠣はフランスの貴族たちの食卓にも上っていたけど、なによりロシアの皇帝(ツァーtsar)の大好物だったから、ロシア皇帝の真珠の意味で名前をつけたんだ。」   ええ、まさしく小さな宝石。こうなるとワインもほしくなってくる。やっぱり、牡蠣にはシャブリですよねと尋ねると、「ああ、シャブリもいいけど。ロワールの白や辛口のボルドーも良く合うよ。甘すぎたり、フルーティ過ぎるのは良くないね。まぁ、僕はシャンパーニュが1番好きだなぁ」との答え。

天然の牡蠣を見つけた!

天然の牡蠣を見つけた!

  お礼を言い、帰りに海岸線を歩くとあちらこちらに牡蠣を売る露店が並んでいるではないですか。そこで、見つけたユイトル・ソヴァージュHuître sauvageなるもの。最近は数が少なくなってきている珍しい天然の牡蠣に出会いました。その場で牡蠣を開けてくれるので、潮風を感じながら食べる味は最高。これはクルーズでしたが、カンカルにはピエ・ド・シュヴァルpied de cheval(馬の蹄)と呼ばれる天然のプラットもあり、No.0000の上のサイズで、大きいものではkgにまで成長する牡蠣があります。秋、冬の一定期間しか出回らないので、残念ながら今回は出会えませんでした。
  よく牡蠣を「海のミルク」といいますが、カンカルの牡蠣の濃厚さは「海のフォア・グラ」と言っても過言ではないでしょう。産地で潮風を感じながら食べる味。牡蠣好きはこれを求めにブルターニュを目指してはいかがでしょうか。私は、今度はピエ・ド・シュヴァルを求めに行くでしょう。

〈レ・パルク・サン・クルベールLes Parcs Saint Kerber〉
Les Parcs Saint Kerber内、博物館

Les Parcs Saint Kerber内、
博物館

L’Aurore 35260 CANCALE
Tel 02.99.89.65.29/Fax 02.99.89.82.74
Saint-kerber@huitres-francaises.com
敷地内に牡蠣と貝の博物館を併設。
見学は、夏季は毎日11時、15時、17時にフランス語で、14時に英語、16時にドイツ語で案内。9月、10月、2月〜6月は平日の15時から、フランス語のみ。

今回の取材にあたり、下記で働いている辻調グループの卒業生、才神香織さんと齋藤圭さんに仲介役で協力をいただきました。ありがとうございました。
〈ブレッツ・カフェBreizh café〉
7 quai Thomas 35260 CANCALE
Tel 02.99.89.61.76
http://www.breizhcafe.jp




コラム担当

辻調グループ校 西洋料理担当
人物 三浦 和也
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