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連載コラム とっておきのヨーロッパだより
辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。
太陽王の菜園 POTAGER DU ROI
  いつの頃からか、ここフランスにもいわゆる「健康ブーム」が到来し、料理に使われる野菜の量はレストランや家庭でも増えたようです。もともと農業国であるフランスの野菜や果物の味は濃くおいしいし、種類も多く「恵まれているなあ」と思うのですが、野菜消費量が増えたと思われる最近でも、食事の際「何でこんなに野菜が少ないのかねえ」と思うことが私にはしばしばあります。ならば昔のフランス人はどのような食生活をおくっていたのでしょう、肉ばかりで野菜や果物なんてほとんど入っていない食事ばかりだったのかしら、と思いきや、とある文献に「ルイ14世は、肉は少しかじるだけで残し、何よりもスープ、サラダ、そして果物を好んだ」との記述を発見しました。
王の菜園

王の菜園

ルイ14世には「肉を貪り食っていそうな人」というような偏見を抱いていた私は驚き、ほかでも情報を探すと、「自分の食べたい野菜や果物を食卓に出せるように、有能な園芸家ジャン=バティスト・ド・ラ・カンティニを雇い菜園を作らせた」とのこと。「太陽王」と呼ばれ、当時、権力をほしいままにしていたルイ14世のつくった菜園は、9ヘクタールもの広さがあります。それが今でもほぼ当時の形のまま残されているとのことなので、少しでも当時にタイムスリップできるかとヴェルサイユ宮殿の隣にあるその菜園を訪れてみました。
  私が訪れたのは夏休みでした。まず道に迷い、ヴェルサイユ宮殿そのものにたどり着いてしまうと、そこには人・人・人。インフォメーションセンターで「ポタジェ・デュ・ロワPOTAGER DU ROI(王の菜園)はどこですか」ときくのにもかなり待たされ、暑い中、早くもぐったりしてしまいましたが、ちょっと歩いて菜園に到着するととても静か、そこには人などほとんどいませんでした。「ここってみんなそんなに興味ないところなのかなあ」と思いながら入場券を購入しようと中に入ると、受付(というか簡易テーブルがあるだけ)のおじさんも「わ、人が来た」というような驚いた反応。しかし無愛想というわけではなく親切な方でした。頼めば土日にはガイドがついて案内してくれるようでしたが、この日は残念ながら平日だったので自分なりに見学してみました(団体だと平日でもガイドを頼めるようで、この日も団体客がガイド付きで見学していました)。
ラ・カンティニ像

ラ・カンティニ像

  菜園に入ってすぐに見える銅像はルイ14世のものではなく、ルイ14世の意向に従ってこの菜園を造ったジャン=バティスト・ド・ラ・カンティニのものです。この人は元々法律家でしたが、イタリアを旅行した際にイタリア庭園の魅力に取り付かれ、その後、園芸を深く学ぶことになります。元々才能があったのでしょうか、色々なところで庭師としての名を上げ、その名はルイ14世の耳にも入りました。王の食べたい野菜や果物を、食べたい時期に収穫できる菜園を造ることを任されたラ・カンティニは、あらゆる技術を駆使し(小規模の温室栽培や厩肥を使用等)、菜園を造り上げました。そこではそんな時代から冬にアスパラガスやイチゴを食べることができたようです。ラ・カンティニはこの成功により、農学者の第一人者として後世に名を残し、1687年にはルイ14世により貴族の位が与えられました。
  9ヘクタールの菜園は噴水を中心にきっちりと区画されており、当時では珍しい温室の跡(今は使われてない)や、ルイ14世がもっとも好んだ果物といわれるイチジク園の跡(こちらも今はイチジクは育てられていない)など、当時の雰囲気を残すものや、今現在も野菜や果物が育てられている区画(菜園のほとんど)などで構成されています。
  こちらの菜園は現在、国立庭園高等学校l'Ecole nationale superieure du paysageが菜園の管理と栽培を行っており、学校の生徒が作っている畑や学校が品種改良研究を行っている畑のある区画もありました。菜園ができた当時から形をある程度保って栽培されている作物、現在研究・開発されている作物をあわせ、ここで栽培されている野菜は約50種類、果物は約300種類にのぼります。
  野菜のエリアから訪ねました。ウリ科の作物が栽培されているエリアは「今の見所」にも示されていたのでそこへ行ってみるとカボチャ、キュウリ、ズッキーニや、トマト、ナスなども栽培されていました。それぞれの種類の数も相当なものです。「昔の野菜」というエリアには、現在ほとんど食べる機会のない野菜が育てられています。近年、昔の野菜を料理に復活させる風潮がありますが(ルタバガrutabagaというスウェーデンカブやトピナンブールtopinambourというキクイモなどがよく見られる)、ここにあるものはめったに見られなくなったものです。ぱっと見た感じ、現在の野菜とあまりかわらないのですが(カボチャや葉菜など)味が違ったりするようです。
珍しい白いカボチャ

珍しい白いカボチャ

  また、ここでは普段見ることの少ないような形の野菜も見ることができました。トマトには長細いものや、ナスのように下膨れのもの、プチトマトがブドウの房のようになっているようなものなどいろいろな形が見られ、カボチャは特に「これは食用ではないのでは?」と思うようなおもちゃのようなものもたくさんあります。写真の白いカボチャは特に珍しい品種で「夜中、月明かりで白光りするような色」と説明されていました。これらは全て食用で、味も研究されており食べてもおいしいとのことです。
日本のリンゴ「むつ」

日本のリンゴ「むつ」

  果物に関してここでの見所はリンゴとナシです。種類はリンゴがおよそ200種類、ナシが100種類。リンゴのエリアには昔の品種と現在の品種が混在しています。世界各国のリンゴも育てており、日本の「むつ」もありました。ここで私が笑ってしまったのは、この菜園を手がけたラ・カンティ二はリンゴに対する情熱が全くない、というかむしろリンゴが嫌いだった、という話です。当時彼がリンゴとナシの区画を作ろうとしたときに提案した各品種数は、ナシが100種類以上にのぼるのに対してリンゴはたった7種類。食べごろを過ぎたリンゴの味やにおいが我慢できなかったそうですが、それにしてもこの差別はなんなのでしょう。残念ながら彼の意向に逆らい(?)、現在ここで育てられているリンゴの品種はナシの品種の数を越えています。
Louise bonne d'avranches

Louise bonne d'avranches

  ナシのエリアでは育てられている品種の70種類ほどが昔から作られているもので、現在でも食されているものが多いです。写真のルイーズ・ボンヌ・ダヴランシュLouise bonne d'avranchesというナシは1780年につくられたもので、有名なウィリアムスWilliamsも1796年から存在していたそうです。また、ここで品種の多さに加えて面白いのは木の剪定の仕方です。写真のナシの木は平面に横長に枝を張り巡らせています。これは当時のヴェルサイユ宮殿の庭園のように「美しい庭」を追求してつくられたものです。機能性よりも美しさ。壁に支柱を張り、そこをつたってぐんぐん伸びているナシの木も鑑賞用です。木を無理やりねじ曲げている感じが私には痛々しく見え、「美しさ」の基準が西洋人(または昔の人)とは違うのかな、と感じますが、仕事としては大変凝っているし、「よくまあ、ここまで」と感心してしまいます。

剪定されたナシの木   壁をつたって伸びるナシの木も

剪定されたナシの木

 

壁をつたって伸びるナシの木も


  これらの野菜や果物の一部は入り口付近のコーナーで販売されており、新鮮な野菜や果物、またはそれらで作ったジャムやジュースなどの加工品を買うことができます。見学中、近くにいた団体客のガイドさんが「ここで売っているルバーブのネクターの味といったら素晴らしいです!こんなにおいしいネクターは他にありません」と話していたのが聞こえたので、そちらを購入してみました。薄いピンク色で確かにおいしそうです。ルバーブ自体あまり食する機会もないので興味津々に味を見てみると、「すっぱい・・・そして青臭い・・・」という印象でした。食べ慣れていないものだからか、それともガイドさんの好みと私の好みが合わなかったのか。しかし「ルイ14世の時代の味」といわれればなんとなく納得できそうです(そうではないとは思いますが)。小説や映画で思い描くルイ14世の時代を少しだけ覗けたようで、興味深い訪問でした。




コラム担当

辻調グループフランス校 教務部
人物 松本 美希
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