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連載コラム とっておきのヨーロッパだより
辻調グループ校には、フランス・リヨン近郊にフランス料理とお菓子を学ぶフランス校があります。そこに勤務している職員が、旅行者とはまた違った視点から、ヨーロッパの日常生活をお届けします。
夏 山小屋で作るチーズ サレール
  オーベルニュ地方は、大きな山が連なる(カンタル山塊)フランスの中南部一帯。そんな中で作られているのが、大きな山のチーズ。雪で閉ざされる山岳地帯では、このチーズが冬を越すための貴重なタンパク源となる。
  今回訪れたのは、トラディション・サレールを作っている、ファーブル夫妻の農家。サレールはリヨンから西南西約350km。車で約5時間のところに位置する。
2頭の牛にトランジュマンスのシンボルの花束をつける

2頭の牛にトランジュマンスの
シンボルの花束をつける

  サレールというチーズは、重さ35〜50kg、サレール牛などの乳で(トラディション・サレールの場合はサレール牛の乳のみ)、4月15日〜11月15日までの期間に製造が限定されている(このほかの期間に作るチーズはカンタルという)。
  朝8時30分。農家に到着したときには、すでに出発の準備が始まっており、2頭の牛がトランジュマンスtranshumance(移牧)のシンボルの花束を、頭につけてもらっているところだった。
  やがて、男たちの掛け声とともにいっせいに牛たちは外に勢いよく走り出した。山に行くのは何度目の経験なんだろう。うれしくて、わくわくしているよう。行儀よく1列に並んで、小走り混じりに早歩きをする。ぽんぽんと背中をなでてやると、じんわりと汗ばんでいるところは人間と同じだ! 牛も汗をかくんだ、と思うと、親近感がわいてきた。かわいい 周りは真っ青な緑でいっぱい。そこに白、黄、青と小さなかわいらしい花が咲き乱れ、青い草の香りや甘酸っぱい花の匂いが漂ってくる。牛たちは道草をして、草を食べたり、木に体をこすりつけたりするが、列を乱すと、男たちの木の杖で、パシッと一発やられる。途中で、小さな町の広場にいったん牛たちは集められた。そこにはたくさんの人も集まり、この夏、山での無事と成功を祈り、神父さんの祈祷を受けた。
村の中心を通り、村人の声援を受ける牛たち

村の中心を通り、
村人の声援を受ける牛たち

  いざ山に向かって出発。山までは約13kmの道のりがある。40頭あまりの牛の群れが、民家の間の細い道を占領し行列を作って通り過ぎる。首に大きな鈴をつけ、ガラン・ゴロン・ガラン・ゴロンと、40頭分の鈴の音は半端じゃなくやかましい。これはもうこの辺りでは、この季節の風物詩となっているのだろう。沿道の家では、男たちのためにワインやジュースを家の前に用意して、拍手をしながら、応援してくれる。「ほんとに賑やかよね」なんて言いながら。
  こうして歩くこと約2時間。山の頂上に向かう道に移る。といっても、道はなだらかで、あたり一面広大な高原が広がる。標高1010mまで上ると、そこからはトランジュマンスの敷地として柵がめぐらされており、その中をさらにいくつかの土地所有者別に細かく区切られている。そこで飼われているのは、馬や牛(乳製品や食肉用)などさまざま。高原を牛とともに歩くこと1時間ようやく目的地のビュロン(buron)が見えてきた。
トランジュマンスの敷地を示す看板。ここから先、馬、牛、子牛などを放し飼い ようやく到着。一目散に草を食べ出す牛たち これぞ本場のアリゴ! マッチョなおにいちゃんが大きな木杓子で混ぜている

トランジュマンスの敷地を示す看板。ここから先、馬、牛、子牛などを放し飼い

ようやく到着。
一目散に草を食べ出す牛たち

これぞ本場のアリゴ! マッチョなおにいちゃんが大きな木杓子で混ぜている

  ビュロンはオーベルニュ地方のチーズ作りをするための山小屋のことをいう。中を見せてもらうと、2階には男たちの寝室があり(夏の間、彼らは山から下ることなく、ずっとここで牛たちとともに生活しながらチーズ作りをする)、1階にはチーズを作る道具がある製造場と、チーズの熟成庫、キッチンがある。そして仕切りの奥には、子牛の小屋がある。親牛は、5月中旬〜8月の終わりまで、夜もずっと外で放し飼いにされる。こうしてリラックスして、夏の新鮮な緑の葉や花を食べた牛からとれる牛乳で作ったチーズは、カロチンが多く含まれ、色が黄色くなり、そしてなんともいえないコクと甘みが出る。
  さて、ビュロンに到着したのは午後1時。女の人たちは車で先回りして、ビュロンの中の支度や、食事の準備をしていた。まず、アペリティフはリンドウの根から作られるサレールという地元のお酒。そして昼食は、ソーシソン(ソーセージ)、リエット、鶏のローストに、付け合せはなんとアリゴ。アリゴは、じゃがいものピュレと、チーズを作る過程で出来るトム(後出チーズの作り方を参照)を混ぜたオーベルニュ地方の名物料理。レストランでは食べたことはあるが、こうして目の前で作ってもらったものはぜんぜん味が違う。そして最後の締めはもちろん自家製のチーズ。去年の8月に作ったサレールと、今年の1月に作ったカンタル。どちらもほんのりと苦味があり、サレールはコクが強く、野性味あふれる牛の味がした。
  みんなでにぎやかに食事をした後には、早速、乳搾りが始まった。子牛たちが小屋から外に出され、母親の元に行き、乳を飲む。それと同時に男たちは乳を搾る。お尻に木製の腰掛けをはめて、バケツを足の間に挟み、なれた手つきで手早く搾っていく。これを毎朝毎晩、雨の日も同じように行う。40頭の牛から1日にとれる乳量は、朝400リットル、夜200リットルの合計600リットル。これで1日2個のチーズを作ることができる。
絞りたての温かい牛乳に凝乳酵素を加える。1時間放置すると柔らかく固まる 棒の先に目の粗い網がついている器具でカイエを細かく切る。乳清が出てくる しばらく放置するとカイエが底に沈澱。板を使って混ぜると、ある程度の塊にまとまる

絞りたての温かい牛乳に凝乳酵素を加える。1時間放置すると柔らかく固まる

棒の先に目の粗い網がついている器具でカイエを細かく切る。
乳清が出てくる

しばらく放置するとカイエが底に沈澱。板を使って混ぜると、
ある程度の塊にまとまる

  搾った乳は木製の大きな容器に集める(木製の容器を使うことに決められている。木の容器は菌の播種の役目があるという)。そこに凝乳酵素を加える。1時間後、フルフルとやわらかく固まったカイエができる。それを小さな塊に細かく切り分け、乳清を外に出やすくする。次に、ところどころ直径3cmくらいの穴が開いた大きな板を使って、底から優しくかき混ぜ、細かく散乱しているカイエをできるだけひとつにまとめる。乳清を取り除く(乳清からは、生クリームを作る)。
乳清を取り除く。これも再利用 カイエは布で包み、プレス 水分を十分に抜くため、カイエを刻んで向きを変えて再びプレス。この操作を6〜10回繰り返す

乳清を取り除く。これも再利用

カイエは布で包み、プレス

水分を十分に抜くため、カイエを刻んで向きを変えて再びプレス。この操作を6〜10回繰り返す

十分に水分が切れた塊(トムという)。まだ塩味はなく、いろいろな料理に使う

十分に水分が切れた塊(トムという)。まだ塩味はなく、いろいろな料理に使う

  次に、布の上に取りだし、その布で包み込み、プーセという圧搾機で圧力をかける。途中、大きな塊をカットして余分な水分をさらに切る。この操作を6〜10回繰り返す(ここでできるチーズをトムという)。そして、トムを1日寝かせる。
  次に、トムの重さを量り、機械にかけて細かく粉砕する。塩を加えて混ぜ、3時間置く。そして、型詰めする。型に薄い麻布を敷きこみ、そこに型一杯に詰める。再び重石をして圧力をかける。この状態で2日間置く。途中、日付を刻印した赤い板をはめ込む(赤いプラックはサレールの象徴。カンタルは、このプラックが銀色に変わる)。2日間のプレッセが終わるとカーブに移され、アフィナージュ(熟成)が始まる。塩が下にたまるので熟成の途中でチーズを反転させる。
チーズの型に型詰めし、再びプレス サレールの証明の赤いプラックをはめる カーブに移して熟成。2週間目くらいからカビが生え始める

チーズの型に型詰めし、
再びプレス

サレールの証明の
赤いプラックをはめる

カーブに移して熟成。2週間目くらいからカビが生え始める

  このようにして、男たちはひと夏を牛たちとともにビュロンで過ごす。チーズは1個40kgほどある上、ほとんどが手作業で本当に体力がいる。ビュロンの中は電気がなく、アルコールランプでの生活。昼間でもうす暗い。台所とチーズ作りをする場所がすぐ隣なので、部屋の中は、常に床がぬれていてじめっと湿っている。決して衛生的とはいえないが、これぞ伝統的な昔ながらのチーズ作り。ほんの1滴のミルクも無駄にすることなく、重労働なのに、ていねいに一つ一つの作業をするのに心がこもっているのが伝わってきた。自分のチーズに対する自信と誇りを感じた。
トランジュマンスの祭りでファーブル夫人が大盛況の中、チーズを販売

トランジュマンスの祭りでファーブル夫人が大盛況の中、チーズを販売

  翌日は、村でトランジュマンスの祭りがあった。その日は10組の牛の群れが、時間をずらして、トランジュマンスに上るとのこと。チーズやアリゴ、トリュファード(炒めたジャガイモにベーコン、パセリ、トムを加え、塩、こしょうで味付けしたもの。アリゴとともにオーベルニュ地方の地方料理)などの屋台もぎっしりと軒を連ねていた。この日は、非常に天気もよく、大勢の観光客でにぎわった。ファーブル夫妻のお店も大盛況。お母さんが笑顔一杯にチーズを売っている姿が、とっても生き生きしていて素敵だった。


コラム担当

辻調グループ校 フランス校 調理部
人物 徳井 友紀子
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