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連載コラム ビバ!!ベバレッジ
人間は水を口にしないと数日しか生命を維持できません。何でも体の70%以上が水分だとか・・・・それはさておいても、おいしい料理には、おいしい飲み物をあわせたいものです。もちろん食事中だけではなく、寒い日には一杯のコーヒーで体を温め、夜の静寂にもの思う時はブランデーをチビリチビリ。はたまた友人との愉しい会話を盛り上げる生ビール。夫婦で想い出話をする時のダージリンティー・・・・さまざまな場面で皆さんの傍らに、さりげなく登場するのはどんな『飲みもの』でしょうか。このコラムではそんな『飲みもの』の素顔にスポットを当てていきます。決してミズ臭い話ではありません。 チャんと読んでください。
日本酒造りの1年〜醸造
   田植え、稲刈りに続き、今回はいよいよ仕込みです。山野酒造さんでは通常、仕込みの見学は出来ませんが、特別にお願いをして仕込み現場を見せていただきました。訪問したのは11月末で、冬の仕込みが始まったばかりです。四季醸造と言われて1年中酒を造っているのは大手の蔵だけで、小さな蔵は気温が低く、発酵の温度管理がしやすい冬に醸造を行います。ですから杜氏さん(※1)は秋が深まってから酒蔵にやってきます。

   酒蔵の一日の作業は、前日午後に洗っておいた米を朝一番に蒸す作業から始まり、その米の一部を使った麹米作り、発酵中の(仕込み中の)タンクに麹米や蒸し米を加える作業を午前中に行います。午後からは明日蒸す米の洗米、酒母(しゅぼ)作り、発酵中のタンクの温度管理と成分分析などを行います。今回はわかりやすいように醸造工程どおりにレポートしていきます。


秒単位の正確な作業です。

秒単位の正確な作業です。

(1)洗米
   作業はまず洗米からです。今回の米は55%精米で、丁寧に扱わないと米が割れるので、袋に入れて手で洗います。4人で同時に45秒間洗い、15秒間ストップ、また45秒間洗った後にすすぎをし、水に漬けます。洗う時間と漬ける時間により、米の給水率を調整します。蒸したときに最適な硬さに仕上げるために、きっちりと時間を計って洗います。


大量の蒸米。

大量の蒸米。

(2)米を蒸す
   早朝6時半くらいから、前日の午後に洗った米を蒸し器で蒸し始めます。8時半ごろ、蔵人さんたちの朝食が終わると同時に米が蒸しあがります。蒸し米は麹米や酒母を作るのに使われます。その日に使用する分を朝にまとめて蒸すため、米と米の間に網のようなものを敷いて何層かにして重ねて蒸し、蒸しあがったら用途別に分けます。


蒸米を冷まして麹菌を振りかけます。

蒸米を冷まして麹菌を振りかけます。

湿度、温度管理された麹室。

湿度、温度管理された麹室。

(3)麹米を作る
   麹米用の米は蒸しあがったら広げて冷まし、麹菌を振りかけます。その後、湿度や温度が調整された「麹室(こうじむろ)」に入れて麹菌を増やします。麹室は二重扉になっていて、雑菌が繁殖しないように管理されており、2日後くらいには麹菌が生えた「こふきいも」のような麹米が出来あがります。
   酒は、糖分が酵母の働きでアルコールと炭酸ガスに分解されて作られます。米には糖分がないので、まず米の持つでんぷんを糖に変えなければなりません。これを行うのが麹菌です。そのために、麹菌にえさである蒸し米を与えて大量に増殖させる必要があります。
   麹米作りは仕込みの中で最重要工程です。雑菌の繁殖などを防ぐため、麹室は部外者は絶対に入室禁止です。日本酒造りには繊細な細菌管理が必要で、蔵人たちも仕込み期間中は用心のために納豆は食べないそうです。納豆を作る菌のほうが酵母菌より強いといわれるためです。春にも訪れましたが、作業期間外でも雑菌を入れないために消毒してあり、麹室には入室が出来ませんでした。


杜氏の浅沼さんが酒母造りをされます。

杜氏の浅沼さんが酒母造りをされます。

大型タンクの液面では激しい発酵状態が見られます。

大型タンクの液面では
激しい発酵状態が見られます。

おでこの怪我が痛々しい濱田さん。櫂入れ作業です。

おでこの怪我が痛々しい濱田さん。
櫂入れ作業です。

(4)酒母を作る
   蒸し米の一部を400リットルの小さなタンクに入れ、数日前に作った麹米、水、酵母を加えて酵母を増殖させます。これが日本酒のベースとなる「酒母」です。

 (5)仕込みと発酵
   数日間かけて酒母の酵母を増やし、大きな7000リットルタンクに移します。ここに水、蒸し米、麹米を加えると酵母の働きで本格的な発酵が始まり、糖分が分解されてアルコールと炭酸ガスが発生します。この段階のものを「もろみ」と言います。ここにさらに数回に分けて麹米と冷ました蒸し米を加えていきます。
   この作業は日本酒に特徴的な醸造方法です。ワインはブドウジュースに酵母を加えると発酵が始まり、ジュースの糖分がなくなって発酵が終われば辛口ワインとなります。これを「単発酵」といい、単純な醸造工程です。しかし、日本酒では酵母に一度に糖分を与えるのではなく、蒸し米と麹米を数回に分けて加えます。これにより、「麹菌が蒸し米のでんぷんを糖化する」、「酵母が糖分を分解してアルコールを作る(発酵)」という2つの工程がひとつのタンク内で同時に行われます。これが「並行複発酵」といわれる複雑な工程です。この発酵法のおかげで日本酒はほかの醸造酒に見られない高いアルコール度を生み出すことに成功しました(※2)。この工程は平安時代に確立されたといわれています。なお、大昔は穀物を口で噛み、唾液に含まれる酵素によってでんぷんを糖化して酒造りがされていました。
   タンク内では発酵が進み、アルコールと炭酸ガスが発生します。炭酸ガスが発生すると蒸し米が浮いてくるので、櫂でかき混ぜます。


ホースをつないだ冷水器に水を流し、液体を薄めることなく、流した水によって温度を下げます。

ホースをつないだ冷水器に水を流し、
液体を薄めることなく、
流した水によって温度を下げます。

(6)温度管理
   発酵中は同時に温度管理を行います。温度管理は非常に重要で、酵母が活動する(発酵)と発熱してタンク内の温度が上がります。温度が上がりすぎると香りが飛んだり、酵母が死んでしまったりします。吟醸酒のような酒は特に華やかな香りが大事ですから、低温でゆっくりと時間をかけて発酵させます。

   酒母用の小さなタンクであれば氷を入れた容器をタンク内に入れて温度を下げます。発酵用の大きなタンクであればホースにつないだ冷水器に水を流したり、タンクの周りにホースで巻いて水を流すなどして温度上昇を防ぎます。

   このほか、タンク内の酒の管理と成分分析も行います。発酵中の酒を少量取り出して、温度やアルコール度、酸、糖分、アミノ酸などのデータを分析します。そして、酒の状態によって発酵温度を調整したり、発酵の終了時期を推測します。


日本酒の発酵の工程

左から杜氏の浅沼さん、蔵人の千葉さんと濱田さん、コラム執筆の中谷。皆さんお世話になりました。

左から杜氏の浅沼さん、
蔵人の千葉さんと濱田さん、
コラム執筆の中谷。
皆さんお世話になりました。

  今回は発酵までの日本酒の醸造工程を簡単に説明しました。
   しかし、実際にはもっと細かい工程がたくさんあります。ですから日本酒は世界一造るのが難しい酒と言っても過言ではありません。これらの複雑な作業や細菌類の活動などすべてを管理し、おいしい酒を造るのは「杜氏」の知識と経験です。山野酒造さんで杜氏を務めておられる浅沼政司さんも、「40年やっているが、日本酒造りは簡単じゃない」とおっしゃっていました。
   訪問した時期はまだ暖かく、本醸造などの酒が仕込まれていました。吟醸酒などは年が明けていよいよ寒くなってからが仕込みの本番だそうです。それらの酒は低温でゆっくりと発酵させ、吟醸香と呼ばれる甘い、メロンのようなフルーツの香りがあるのが特徴です。次回は3月末の吟醸酒の搾りをレポートします。出来たての新酒を味見してきます。

※1 杜氏について
通常、杜氏は農家の方で、春から秋まで地元で米作りをし、農閑期である冬は杜氏として酒造りをされる方が多いです。その出身地から岩手の「南部杜氏」、福井の「越前杜氏」などといわれ、各杜氏によって造る酒に特徴があります。

※2 醸造酒のアルコール度
ビールは5度前後、ワインは通常12〜13度前後であることを考えると、20度になる日本酒(原酒)のアルコール度はずば抜けて高いことがわかります。普通は原酒のまま売られることは少なく、食事に合わせやすく飲みやすい16度くらいに調整して販売されています。ブランデーやウイスキーはアルコール度が40度ほどありますが、これは蒸留を行ってアルコールを濃縮したためで、酵母菌が大量にアルコールを作り出したのではありません。



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