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ここ数年、世界のグルメたちが注目しているスペインの食事情。進化するヌエバ・コシーナ・エスパニョラ(新スペイン料理)、スペインワインのイメージを一新するボデガ(ワイナリー)、変容するタパス(ピンチョス)と、話題には事欠かない。先頭を切るのは若い世代のニューリーダーたち。しかし、器は変わってもそこにはいつもスペインのエスプリが潜んでいる。いまやフランスやイタリアにまで強い影響を及ぼし始めたスペイン料理、その今を取り上げる。レシピでは、筆者がおすすめするスペインの代表的な家庭料理を紹介。 |
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私が働いていたマドリッドのレストラン「サラカインZalacain」(当時ミシュランの三ツ星)では、水曜日の昼の賄いは必ずローストチキンと決まっていて、一週間の食事の中で一番豪華でした。飲み物はミネラルウォーターだけでなく、バルデペーニャスValdepeñasの赤ワインを1人1/2本まで自由に飲むことができ、非常に心豊かに昼食を取ることができました。 賄いは一番若い、見習いのパキート(通称パコ)がシェフの指導のもと、汗水流して一生懸命作っていました。水曜日の素材は鶏と決まっていましたが、ソースや付け合わせ、調理法については毎回シェフからリクエストがあり、前日の火曜日になるとパキートは使えそうな材料を冷蔵庫で探したり、作り方や段取りの確認をして、楽しそうに、あるときは心配そうな面持ちで準備をしていました。鶏は1人1/2羽と決まっていて、掃除のおばさんや洗い場のおじさん、パティシエ、パン職人、材料管理のおじいちゃん、サービス(給仕)の人数まで入れると、20羽近い鶏を焼いていたのを思い出します。
しかし夜の賄いはというと、レストランでは当然出てきてしまう残り物の再利用がほとんどでした。 私の働いていた冬場の時期のメインディッシュはジビエだったので、お客様が残した雉のローストのもも肉(お客様は胸肉を食べる)や、余ったアミューズのビーツのサラダ、根セロリのマヨネーズ和え、カナッペに使っていたサーモンのタルタル、余分に作っておいたセップ茸のスープなどと、固くなったパンがラインナップでした。変化の乏しさから、おにぎりやラーメンを思い浮かべたこともあります。それぞれ、どれも充分おいしいのですが、毎日続くと飽きの来るもので、賄いを食べずに近くのバルでサンドイッチをつまんでビールで流し込み、夜の仕事についたこともあります。
しかし、地方出身の家庭を持たない若い料理人も多く働いていたので、その辺りのところはシェフも良く心得ていて、時々、夜の賄い用に鰯などを別に魚屋さんに注文してくれていました。一番びっくりした賄いは、アロス・ア・ラ・クバーナ(キューバ風米料理)で、ご飯(オリーブ油で玉ねぎと米を炒めて作る白いピラフ)に目玉焼きとトマト・ソースを添え、付け合わせがバナナのソテー(フライ)でした。
そうこうする内に私の短い研修期間も終わりに近づき、帰国する前にマドリッド名物のコシード(スペイン風のリッチなポトフ)を食べたいと思い、シェフに相談すると、コシードは水曜日の昼に食べるもの、観光客が行くような店ではなく、マドリッドっ子たちが行くような真っ当な店で食べたほうが勉強になるとのアドバイス。 しかし営業日に休みをもらうわけにもいかず、帰国の準備に追われて、他の店を探す時間もなくコシードを諦めていました。そんな時、客席でサービスして戻ってきたハモン(生ハム)が骨だけになって下がってきました。すると、シェフは仕込み責任者のアンヘルを呼び、なにやらひそひそと…。そして次の日、見慣れないものが、大きな鍋とともにガス台の火口にかかっているのでびっくり。コシードを作るための生ハムの骨のカルド(出し汁)でした。ここまでくれば、シェフの心遣いに感謝、感謝、感謝。涙が止まらず、胸が詰まって、暫くムーチャス・グラシアス(どうもありがとうございます)の言葉が出てきませんでした。最後の賄いで、スペイン人のやさしさと心意気にお腹も心も満たされたのです。
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さて、同僚のパコが作ってくれたローストチキンの中で最も印象深く、さっぱりしておいしかったレモン風味のローストチキンを、フライパン1枚でできるようにアレンジしてみました。もし、ひな鶏が手に入れば、フライパンにちょうど合う大きさなので、1人1羽で作ってみてください。レモンの香りとやさしい酸味が鶏の癖やしつこさやを消してくれるので、あっという間に平らげられます。手軽に作るのであれば、骨付きの鶏もも肉を使ってもできますので、是非チャレンジしてみてください。 |
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