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連載コラム Food風土エスパーニャ
ここ数年、世界のグルメたちが注目しているスペインの食事情。進化するヌエバ・コシーナ・エスパニョラ(新スペイン料理)、スペインワインのイメージを一新するボデガ(ワイナリー)、変容するタパス(ピンチョス)と、話題には事欠かない。先頭を切るのは若い世代のニューリーダーたち。しかし、器は変わってもそこにはいつもスペインのエスプリが潜んでいる。いまやフランスやイタリアにまで強い影響を及ぼし始めたスペイン料理、その今を取り上げる。レシピでは、筆者がおすすめするスペインの代表的な家庭料理を紹介。
シェリー酒
 「シェリー酒」と言う響きは、私には「アペリティフ(食前酒)」と聞こえます。しかしシェリー(スペイン語ではヘレスjerez)はれっきとしたワインの仲間です。そして辛口からデザート用の甘口まで、つまり食前酒だけではなく食中、食後まで飲める、色々な種類があります。
  ずいぶん前のことですが、イギリスの有名なお菓子、トライフルを作ったときに原書のレシピにシェリーと書かれていたので、辛口のシェリーを使ったことがあります。あまりおいしいとは感じなかったのですが、私がシェリーのタイプに甘口のクリームやペドロ・ヒメネスがあることを知らなかったことが原因と後日わかりました。シェリーに対する理解不足を痛感したものでした。
  もうひとつよく耳にするのは「シェリーは酒精強化ワイン」という言葉です。これは何を意味するのでしょうか。簡単に言えば、製造過程で蒸留アルコールを添加するということです。そして、シェリーに関してはそのヒストリーが面白いのです。

 英国とシェリーの関係についてお話ししましょう。フランスのボルドー地区は12〜14世紀まで英国領でした。英国本土ではボルドーでできたワインを好んで盛んに飲んでいました。(後にこれを《クラレット》と呼ぶようになるのです。)1339年に英仏の間で「百年戦争」が勃発しました。フランスとの交易は断たれ、美味しいワインが飲めなくなりました。英国はワインを探して南下をします。そしてスペインの「カディス港」へ行き、周辺のヘレスのワインに目をつけたのです(ヘレスの葡萄栽培は紀元前から行われていたようです)。
  酒精強化がなぜ、いつ頃から行われるようになったかについては諸説ありますが、ひとつ面白い説があります。
  「百年戦争」も終わり、ヨーロッパは大航海時代を迎え、新天地を求めて各国が航海に出ます。航海に欠かすことのできない酒(ワイン)を長い航海中に腐敗させない工夫がなされました。ワインにブランデーを加えた、それが酒精強化ワイン、というわけです。なお、酒精強化ワインとしてはシェリーだけではなくマデラ、ポルト、マルサラなどが有名です。
  英国も遅まきながら17世紀にはインドに「東インド会社」を設立、航海中の人気のお酒がシェリーでした。こういう歴史があって英国ではシェリーがポピュラーな飲み物なのだとか。加えて、1707年イングランドとスコットランドが連合条約を結び一つになると、スコットランドのウイスキーに《麦芽税》が科せられるようになりました。スコッチ・ウイスキーの自由な製造が難しくなり、ますますシェリーの人気が増しました。

 現在のシェリーの産出地は、スペイン南部アンダルシアの港町カディスに近い、ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ、サンルーカル・デ・バラメーダ、エル・プエルト・デ・サンタ・マリアの3つの町の周辺です。海岸に近いため比較的温暖で、土壌は石灰質、粘土質、砂質の3つに分かれ、シェリーを作る葡萄パロミノ種、ペドロ・ヒメネス種、モスカテル種には石灰質土壌が適しています。
  昔は収穫した葡萄を天日に干し、糖度を増してから足で踏んで圧搾していましたが、現在は収穫した葡萄はそのまま圧搾機にかけられます。次にアルコール発酵をさせますが、ステンレスタンクか、古いところでは樽で行います。アルコール発酵の終わった発酵液は樽に詰めるのですが、ここからがシェリー独特のつくり方になります。
  樽に発酵液を移すときに樽を満タンにせず(600リットルの樽に500リットルほどしか入れない)、空気に触れさせて熟成します。その際同じ葡萄から作った蒸留酒を15%まで加えます。これはワインの腐敗を防ぐためです。(これが酒精強化ワインと呼ばれるもの)
  そしてクラス分けをしていきます。大きく2つのタイプに分けます。

タイプ1 《フィノ》
発酵中のワインの表面に酵母によって膜がつきます。これを《フロール》と言います。これにより腐敗と渇変が抑えられるのです。結果、クリアーな辛口に仕上がります。
タイプ《オロローソ》
《フロール》が付かないタイプはさらに18%までアルコールを加えます(腐敗防止)。空気に触れながら酸化熟成します。辛口で、酸味とアルコール分が強く感じられます。
 熟成は《エル・システマ・デ・クリアデラ・イ・ソレラ》という特別な方法で行われます。樽を3段くらい積んで熟成させますが、一番下の樽を《ソレラ》と呼び、これは瓶詰めにできる状態のものです。2段目より上は《クリアデラ》と呼び、熟成中のシェリーです。ただ、《ソレラ》も全部を瓶に詰めるのではなく1/3程度しか抜き取りません。抜き取った同量だけすぐ上の《クリアデラ》から足します。さらにそのすぐ上から下へと順番に足していきます。これがいつでも同じ状態のものをつくり出せる方法なのです。このシステムを《ソレラ・システム》といいます。わかりやすく言うと、古いシェリーに新しいシェリーを足して熟成させるのです。

 その他、さまざまなタイプや製造法に分けられますが、以下が代表的なものです。
タイプ3 《マンサニーリャ》
フィノ・タイプの1種です。辛口サッパリ系です。サンルーカルでつくられます。
タイプ4 《ペイル・クリーム》
フィノに甘みを加えたもの。濃縮ジュースやドライフルーツを感じさせる甘みがあります。
タイプ5 《ペドロ・ヒメネス》
ペドロ・ヒメネスという葡萄からつくられる甘いシェリー酒です。葡萄を乾かして糖分を凝縮してつくられるので、貴腐ワインと似た感じもありますが、もう少し甘いかもしれません。
 最後に私の一番好きなタイプのシェリーをご紹介しましょう。料理に合わせるのでなく、ホッと寛ぐときにもってこいのお酒です。
タイプ6 《アモンティリャード》
フィノを樽で熟成させたもの。写真のものは熟成期間が30年。ブランデーのような輝きを持った、カラメルのような美しい熟成色をしています。フロールや焦がしたナッツ、紹興酒やアマレットのような刺激臭があります。ややきつい酸味としっかりした苦みがあり、かなり辛口で、あとからアルコールの強さを感じます。


このコラムのレシピ

コラム担当

レシピ セルド・コン・トマテ

辻調グループ校 西洋料理教授
人物 肥田順
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