No.4 若布

 食事の楽しみ方の中に、「目で楽しむ」というのがあります。それは盛り付け方であったり、彩りであったりするわけです。その中でも食卓の前の人の目に飛び込んでくる色は、ときに食欲をかき立てたり、また逆に減退させたりもします。

 食材の中にはその色が加工段階や調理段階でさまざまに変化するものがあります。たとえば、エビやカニなどは加熱すると赤くなり、野菜は鮮やかな緑色に仕上がります。一方調理段階では、色鮮やかに仕上げるため、あるいは色鮮やかなまま保存するための工夫も行われます。たとえば、塩を加えるとか。

 ワカメも鮮やかな緑色を演出するためには、加工段階、調理段階ともに工夫と注意を必要とする食材の一つです。今回はそのワカメについてのお話です。

 ワカメの魅力といえば、すぐれた栄養面の他、独特の歯ごたえ、それに鮮やかな緑色。

 一時期ですが、生のまま出回ることがあります。場所によって差はありますが、早春(1〜3月)がその時期にあたります。これを湯に放った瞬間、ワカメは褐色から鮮やかな緑色へと華麗な変身を見せてくれます。

 その他の時期といえば、保存用に加工されたものを利用するしかありません。乾燥ワカメ、なかでも一番素朴な素干しがその始まりと考えられますが、当初は色のことなどあまり意識されなかったのではないでしょうか。現在では、原料のワカメが天然ものから養殖ものへと変わり、輸入物も増え、加工法も乾燥から塩蔵へと移ってきています。しかし、様々な工夫が加えられた、ちょっと変わった加工品も特産品として売られています。鳴門の灰干しワカメ、長崎のもみワカメ、山陰から北陸に至る地域には板ワカメが、とその加工法は手作業から機械へと変化しつつも受け継がれています。

 中でも色に注目してみると、鳴門の灰干しワカメは非常に興味深く、化学的にも証明される伝統的な製法には驚くしかない、という感じです。一見使い道の無さそうな灰を使って独特の緑色を保つという、研究しても考え出せないようなことが伝統的に行われているのです。

 一方、その後に開発された塩蔵わかめボイルして色出ししてから塩漬けした商品が主流となり、色合いを大事にする現在のニーズを表しています。さらに、「手間のかからないもの」へのニーズからカットワカメが開発され、手軽さは満たされた感がありますが、時には生のワカメや各地で受け継がれている乾燥品も試してみてください。

 最後に、ワカメには繁殖に関わるメカブと呼ばれる部分があります。あまりなじみが無いかもしれませんが、ヒダ状の変わった形をしており、そのままもしくは細かく刻んで売られています。是非試してみてください。





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