CAREER

卒業生インタビュー

生産者とともに旬の食材の魅力を追求する日々のなかで、
フランス料理の「本質」を再認識。

PROFILE
宮城県生まれ。辻調グループ フランス校を卒業後、東京・パリ・台湾などの有名店で研鑽を積み、2012年にフランス・ブルゴーニュ地方ヨンヌ県『レ・ボン・ザンファン』のシェフに就任。2014年、同県シャブリに『オ・フィル・デュ・ザング』開業。その1年目にミシュランのビブグルマンを獲得。2020年2月、『SUGALABO V』のエグゼクティブシェフに就任。

『SUGALABO V』エグゼクティブシェフ

永浜良さん

「つくるのが楽しい」と感じた、高校時代のアルバイトが原点。

高校生の頃に、飲食店でアルバイトをしていました。そのなかで「料理をつくるのは楽しい」と感じるようになったのが、料理の道に進もうと考えたきっかけです。自分の将来について考えた時、例えば大きな会社の一員として働いている自分を想像しても、そこにやりがいのようなものは見出せなかった。長い人生のなかで、長い時間を占めるのが仕事ですし、それなら自分が本当にやりたいことをしていたいと思って、「将来は料理人になる」と、高校生のうちに決意を固めました。
当時のアルバイト先では、高校を卒業したらすぐにレストランなどに就職することを勧めてくれた人もいました。でも私は「いきなり現場で働くより、その前に学校できちんと学んでおきたい」と考え、辻調グループに進学したのです。「調理師学校だったら辻調グループが一番」と周囲からも聞いていたので、「だったら、そこに行くしかない」と感じて、迷うことなく選びました。実際に入学後も、その期待を裏切られるようなことはなかったですね。

何百年もつくり続けられてきた料理を学ぶ価値とは。

学校では、いろいろなフォンやソースについてなど、フランス料理の基礎となる知識や技法をしっかりと学びとることができました。いまの仕事のなかでも、味のベースと言いますか、学校で身につけた基本的なフランス料理のテクニックがすごく活かされているなと感じています。
クラシックなフランス料理について、深く学べたのも良かったですね。ただ、学校で教わっていた当時は、私にはその価値がよく理解できていなかった。最近の学生たちのなかにも「なぜ今の時代に、こんなクラシックなフランス料理の勉強が必要なんだろう?」と疑問を感じたり、戸惑ったりしている人がいるかもしれません。でも私自身、仕事としてずっとフランス料理と向き合い続けるなかで、改めてクラシックを学ぶ意義や価値を実感できていますよ。何百年間もつくり続けられているものからは、見た目ではわからない「味の本質」が学びとれる。SNSが普及して料理の評価が見た目に大きく左右されがちな今だからこそ、学生たちにもその「本質」を追求してもらいたいですね。形式が決まっていて脈々と受け継がれている日本料理と比べると、フランス料理にはそこまでかっちりとした形式はなく、最近ではフュージョン料理ともごっちゃになって「何がフランス料理なのか?」がよくわからなくなりつつあります。これからの時代に正統なフランス料理を継承していくためにも、辻調グループが学生たちに徹底してクラシックを教え続けていることは非常に有意義だと感じますよ。
私自身、今の仕事では「日本の旬の食材を使いつつ、クラシックなフランス料理をつくっている」という感覚を、自分のなかでは持っています。例えば最近では、京都・舞鶴産の天然の岩牡蠣を普通にポシェしてシャンパンのソースで仕上げてキャビアと合わせる、といったクラシックな手法を試みたのですが、この時に「キャビアがこんなにもシャンパンと牡蠣の汁と合うなんて!」と、改めて新鮮な驚きに包まれました。古くからつくり続けられているフランス料理の技法や組合せがいかに優れているかを、再認識できた瞬間です。

フランス留学が、その後の人生に大きな影響を。

学生時代を振り返ってみると、やはり自分にとって一番の転機になったのはフランス校への留学だったと感じます。学校を卒業してすぐに就職するのでなく、「若いうちに視野を広げておこう」と考え、思い切って挑戦してみたのですが、とても良い経験ができました。フランス校の先生には「煮詰めることで味の核ができていく」というフランス料理の骨格となる技法を徹底的に叩き込んでもらえましたし、現地のお店での研修もすごくためになった。何より、行く前と行った後と比べて、単純にフランス料理とフランスのことが「好き」という気持ちが、より強くなりましたね。日本に帰ってからも、「もう一度行きたいな」っていう思いにさせてくれた。それで、実際にまた行ったんです。26歳からずっと、11年間。最初はパリのレストランで働いて、その後、ワインの生産地として名高いブルゴーニュ地方のシャブリという街で自分の店を開業し、5年ほど経営していました。このようにフランスで積み重ねた私の料理人としての歩みも、辻調グループに入学していなければ絶対になかったことだと思うんですよ。素晴らしいきっかけをくれた学校に、心から感謝しています。

料理人を介して、生産者とお客様が思いを伝え合えるように。

今のお店では、私自身がスタッフたちと一緒に産地を訪れ、旬の食材を厳選しています。そうした際にいつも胸を打たれるのは、強い情熱やこだわりを持ってつくられている生産者がたくさんいらっしゃるということ。「生産者のみなさんのこの思いを、実際に料理を食べるお客様にも伝えたい」。いつしか私は、そう考えるようになりました。例えば調理したお客様にお出しする時に「この蓮根は、生産者の方が早朝から泥沼に入って、1日かけて掘り出したものなんですよ」と、そんな熱い思いで取り組まれている生産者がいるという事実を、シンプルに「伝えたい」という気持ちが私のなかに自然と湧き起こるんですよ。
かつての私はお客様とのコミュニケーションにさほど積極的ではありませんでしたが、今はできるだけお客様と顔を合わせ、お客様が口にされている食材の生産者のこだわりや思いなどを、言葉にして伝えることを心がけています。同時に、料理を食べたお客様の反応を、生産者にも届けてゆく。その声が、生産者のみなさんのさらなる励みにも結びつくでしょうから。生産者とお客様との間に立って積極的なコミュニケーションを図り、それぞれの思いを繋いでゆくのも、これからの料理人の役割だと私は考えます。料理を学んでいる学生のみなさんにも、今のうちからコミュニケーション能力を高めることを意識してもらいたいですね。

長く食べ継がれてきた食材を、繋ぎ残すための力に。

先日、和歌山の農園を訪れた時の話です。そこでは何十種類もの柑橘類を生産されているのですが、そのなかで私やスタッフから最も注目を集めたのが、江戸時代からつくられている”三宝柑”という果物でした。えぐみや酸味が強く、種もたくさんあって食べづらい。今の一般的な消費者ニーズである「甘くて、皮が薄くて、剥きやすくて、種がなくて」というのと、まったくの真逆なんです。そんなわけで最近では生産者が少なくなってきていると聞き、私は思いました。「なくなってほしくないな」と。クセの強い果物ですが、その個性が愛され、数百年前に和歌山城内で発見されてから現在まで、ずっと食べ続けられてきたものなのですから。なんとかうまく料理に使えないかと、考えを巡らせています。そうしてこの三宝柑の個性を、魅力としてお客様に伝えていきたい。長くつくられてきた食材を繋ぎ残していくのも、料理人の役割なのです。

土地の人に愛され、土地の人を愛する店を、日本でも。

料理人としてやっていけるという自信が持てるようになったのは、シャブリで独立してからですね。ワインの名産地という土地柄、世界中からお客様が訪れるのですが、酒蔵での試飲の予約をする前に、先に私の店の予約を入れてくれるお客様が増えて…。そうしたなかで土地の人々ともすごく良い関係が築けて、「土地の人に愛され、土地の人を愛する店」として繁盛させることができ、大きな手応えを得ました。
いずれは日本でも、シャブリでやっていたような店を開きたい。土地の人と「愛し、愛され」という関係が築ける店を。都心ではなく、地方でと考えています。“半径30km圏内でとれた食材しか使わない店”にしたいですね。今すぐというつもりはありませんので、しばらくは「食材探しの旅」をしながら、自分の理想にかなう土地も探していこうと思います。

『SUGALABO V』(大阪・心斎橋)

ルイ・ヴィトンと『SUGALABO』(東京・オーナーシェフ須賀洋介氏)とのコラボ運営による完全予約制のフレンチレストラン。「食材探しの旅」と称して永浜シェフ自身が生産者のもとに足を運んで選び抜いた食材を用いたフランス料理を提供。

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