辻調理師専門学校 辻製菓専門学校 通信教育部 ブログ

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製菓受講日記 ⑩ 発酵生地

今回のテーマは・・・ 

第16課 発酵生地   



まずは「ババ・オ・ロム」と「サヴァラン」から  

しかし、一度ぐらいすんなりと、材料の調達から最後の仕上げまで心安らかに終われるお菓子はないのだろうか。「失敗なの? 失敗なの?」というドキドキに絶えず悩まされることなく、静かに楽しいお菓子作りをできないものか。もちろん、こんな不安は私の修業が足りないせいである。それはわかりきったことなのだが、今までの「あれ、ちょっと膨らみがたりないかも」とか「うーん、クリームがちょっとダマになっちゃったかな」程度の心労ではなく、今回は「完全に失敗? やりなおし?!」と冷や汗をかくようなピンチに陥ったので、こんな心境になっているのだ。まったく、お菓子作りの道は長く、険しいのです。

私は、生イーストを使ったお菓子を本格的に作ったことは今までなくて、へー、どんな感じかなあ、と緊張してまずはDVDの授業から。なーんだ、イースト菓子は初めてだけど、イタリア暮らし13年、もはやイタリアンなママと化している私にとって、生イーストはお手の物じゃないか。そう、イタリアで暮らし、食べざかりの子供を持つ私は、結構日常的にピッツァやフォカッチャを作るからなのだ。


生イーストはイタリアではビール酵母のものが一般的。新鮮なものならアルコール臭はないし、材料の混ぜ方なども特に難しいテクニックは必要なさそう、というわけで、まず挑戦したのは「ババ・オ・ロム」と「サヴァラン」。フランスパン用の小麦粉、などというものがイタリアに売っているはずもなく、考えた結果、強力粉の代わりにいつも代用している、GRANO DUROグラノ・ドゥーロ=硬質小麦粉を使うことにする。硬質小麦はスパゲッティに代表される乾燥パスタの原料として有名だが、グルテンを多く含むので、ピッツァやパン作りにも活用される。モチモチと仕上がるのが特徴で、最近はことに人気が高い。私は折り込みパイなどもこの硬質小麦粉で作って、だいたいうまくいっていた。


ところが、水に溶かした生イーストにこの硬質小麦粉、そして砂糖、卵、溶かしバターを混ぜた生地は、なんだかとても水っぽい。映像ではもう少し固めだったような印象なのに、私の生地はかなり液体状だ。これはきっと、硬質小麦粉の粒子が粗いせいで、水分の吸い込み具合などが違うからではないだろうか? だからって、私の知識で適当に水分量を調節したって、うまくお菓子ができあがるとは思えない。ええい、このまま発酵させちゃえ! と、オイルヒーターの側に置いてみる。ピッツァを作る時も、発酵はここが定位置でいつもうまくいっているのだ。もちろん我が家にはホイロはないし、大きなナイロン袋も入手できなかったので、大きな鍋に生地を入れ、ラップをかけた。これなら2倍以上に生地が膨らんでもラップに生地がくっついてしまうことはないだろうという計算だ。


しかし予定の30分が経過しても、なんとなく少し膨らんだかなー? という程度で、2倍に膨らむなんて全然程遠い感じ。1時間たっても状態は同じ。ああ、やっぱり硬質小麦粉ではだめなの? それともビール酵母がだめなの? と焦りながらふと、思い出した。いや、待てよ、いつもピッツァの生地を仕込む時も、2倍に膨らむまでには半日近くかかるではないか。先生のレシピとはちょっと違ってしまうけれど、イタリアではこれしか材料がないのだからしかたがない。それにババはもともとイタリアのお菓子である。イタリアの材料で作れないはずがない。硬質小麦粉しかなかった南イタリアのお菓子だもの、オリジナルは硬質小麦粉で作っていたはず! とポジティブに考え、作業を続行することに。


思った通り、数時間待つと、ふっくらと美しく生地は膨らんだ。フィンガーテストも、生地の質感がちょっと違うような気がするけれど、弾力感などはなかなかいい感じだ。できあがった生地は半分に分け、ババとサヴァランの両方を作ることにした。サヴァランの型はないので、プリン型に低めに生地を流し入れてよしとする。一度発酵した生地は、今度は型に入れてからもすぐに2次発酵を始め、型からいい感じで盛り上がってきたのでオーブンへ。焼きあがりも上々。前半の焦りの割にはなかなかいいできではないの。3日後、シロップとラム酒をしみこませ、完成。アプリコットジャムがちょっと濃かったせいで、塗った後、刷毛の跡が残ってしまったのがちょっと残念だったが、心配した割にはいいできで大満足。



粉を変えて「ブリオッシュ・オ・フリュイ・コンフィ」に挑戦


一度目の焦りを教訓に、今度は硬質小麦粉ではなく、マニトバ粉を使って「ブリオッシュ・オ・フリュイ・コンフィ」を作ってみることにする。マニトバ粉はイタリアでは最近ピッツァに最適! と、プロのピザ職人からも高く評価を得ている軟質小麦の一種。グルテンが豊富なのと柔らかく仕上がるのが特徴とかで、ナポリ風ピッツァの職人は硬質小麦粉にマニトバ粉をミックスして使っているらしい。


ところが、メランジュールで生地の材料を混ぜても、一向にまとまってこない。やっぱり水っぽいのは硬質小麦粉を使ったババの生地と同じなのだ。うーむ、どうしよう。このまま発酵させてしまおうか、どうしようか悩んでいるうちに、娘に夕食を催促され、メランジュールに生地を入れたまま、パスタをゆで始める。半ば諦めて、30分ほどほったらかしにした後メランジュールの中を見てみると、おや、少し膨らんでいる。ためにしに回転させてみると、ペッタンペッタンという音がして、生地がまとまって動くようになっている。本当はこんなことしちゃいけないに決まっているが、とりあえず、表面が乾燥することもなく生地がうまくまとまったので、ボウルに移し替え発酵へ。今回はすでにメランジュールの中で発酵が始まっていたため、15分もすると完全に2倍に膨らんでいた。麺台に出してペタンペタンとガスを抜く作業も、プワプワと赤ちゃんのお尻のように柔らかで気持ちいい。先日のババを作った時の暗い気持ちはすっかりどこへやら、発酵生地ってかわいい!と上機嫌な私。折りたたんで冷蔵庫で休ませ、翌日、仕上げ作業へ。


今回私は、ドライフルーツ類をドライ・イチジクをメインに、ほんの少しのレーズンと刻んだクルミだけでまとめてみた。イタリアにはレモンピールもアンゼリカも一般に売られていないからだ。唯一、スーパーの製菓材料コーナーに売られているレモンとオレンジとチェリーの砂糖漬けは、刻んだものがパックされていて、あまりおいしそうではないし。


しっかりと発酵した生地を伸ばし、上出来のクレーム・フランジパーヌを塗り、その上にラム酒に漬けこんだドライ・イチジクとレーズン、クルミを散らす。グルグルと巻いて輪切りにし、型に敷き詰める。おもちゃの組み立てをしているような楽しさだ。生地がさらに膨らんで型の中で輪切りの生地がキツキツになったら、オーブンへ。ああ、これでテキストと同じような美しいブリオッシュができるのだ、やっぱりお菓子作りは楽しいなあ。ところが...。  

オーブンの中へ入れて40分経過した時点で、かなりきれいに焼き色が付き、膨らんでいたのだが、DVDでは型から出して側面の焼き色を確かめていたのを思い出し、私のもチェックしてみる。先生のよりずいぶん白い、もう少し焼いたほうがいいかも。しかしこの後私は出かけなければいけない用事があった。計算では出かける前に焼きあがるはずだったのだが、子供のころから算数の苦手な私は、こんなところでも計算ミスをした。もう時間切れだ。少し白いけどもう焼けているような気もする、でも中が生だったらどうしよう、と葛藤した結果、タイマーを10分セットしてもう少し焼くことにする。そしてそのまま出かけてしまった私。

帰ってきてみると、ガーン。形は美しく盛り上がってはいるが、表面がかなり黒く焦げてしまったブリオッシュがオーブンの中で私を待っていた。焦げたところを削って、ジャムとフォンダンを塗ったらとてもおいしそうに仕上がった(と思ったけれど、写真で見ると焦げを隠そうとフォンダンを塗りすぎているのがバレバレですね)。切って食べてみても、なかなかおいしい。ただ、少し乾いた食感なのは焼きすぎのせいだろうか、それともタイマーの切れたオーブンの中にずっと放置されていたせいか、はたまたマニトバ粉のせいか。もう一度焼いてみないとわからない。どちらにせよ、焼いたまま出かけるなんて言語道断。


心静かにお菓子作りを楽しめる日は、いつかやってくるのだろうか。





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