通信教育部ブログ

受講生日記

日本料理 第5課・第6課「直火焼き」



 日本料理人を題材にした映画やドラマで「焼き方は日本料理の花形」というのをよく聞く。作り話の中のことだから、どこまで正確かどうかはわからないけれど、通信講座のテキストにも以下のように書いてあるから、けっこう本当のことなのかもしれない。 

「焼くという操作は、食材の表面と中心温度の差が大きくなるため、温度管理が難しく熟練の腕を要するが、表面を焼き固めてうまみを凝縮させ、焼き目をつけて香ばしい風味を与える手法は他にない。焼き物は、会席料理において椀、刺に並んで中心的な料理である」 

通信教育のテキストは2課分がセットになっていて、1ヶ月で2課を勉強するというシステム。つまり今回はやっと3ヶ月目というわけなのだが、3ヶ月目にしていきなり、中心的な料理を学んじゃうのだ。まじか?と焦る気分と、どんどん難しい技術を学べるという嬉しい気分が入り混じる。 
 

というわけで直火焼きです。 

イタリアで日本料理技術講座を受講する私の、最大の難関は、なんと言っても材料を揃えること。体験記の1回目から書いているように、実は私は平成15年に一年間、通信教育の日本料理技術講座を受講し、修了した。なんと17年も経って平成から令和になった今、また受講しようと思ったのは、イタリアで日本料理を教えたり、不定期のイベントなどで日本料理を提供したりしているだけの私は、技術がいい加減になったりしていないか、忘れてしまっていることはないか、そして日本料理の技術の新しい流れを知らないのではないか、と心配になったからだ。 
それで去年の秋から再度受講を始めたのだが、やっぱり最大の難関は材料を揃えることであった。  
 

がんばって受講を修了すると、修了証が授与される 

  
1ヵ月のテキストとDVDは2課分が収録されている
  

17年前は、イタリアのトリノという街では、日本料理店は街に1軒しかなく、中華食材店で売っているキッコーマン醤油ぐらいが唯一日本製の食材で、あとは中国や韓国製の海苔や酒がちょっとある程度。例えばみりんなんて絶対なかったから、酒に砂糖を混ぜて代用したり、日本から持ってきた希少な食材を使わなければ、まともな日本料理なんて全然作れなかった。ちなみにトリノは小さな田舎町ではなくて、イタリアで4番目に大きな都市。  

17年後の今は、町中に数え切れないほどのジャパニーズレストランがある。最近の世界的な和食ブームにのっかって、雨後の筍のようにどんどんドンオープンしたのだ。ただしそのほとんどは中国人の経営、外国人の寿司職人、というなんちゃってジャパニーズ。とはいえ、それだけ日本料理の人気が上がったので、日本人経営の食材店もできたし、中華食材店の品揃えも格段にアップした。みりんもあるし納豆だって売っている。日本の苗を持ってきてイタリアで栽培しているコシヒカリや秋田小町もある。 

とはいえ、やっぱり辻調のレシピで、最高峰の日本料理を作ろうと思えば、足りないものばかりだ。なんといっても日本ならではの魚や野菜、薬味などを揃えることが大変だ。テキスト通りの魚を揃えるのはまず不可能なので、似た大きさ、肉質や味、脂の乗り方などが似た魚を探す。私がいつも買いに行く市場の魚屋のお兄さんに、どんな料理を作りたいかを説明して相談に乗ってもらったり。 


   

道具もない。鍋や包丁、ざるなどは、17年前に受講した時に、いいものをいろいろ揃えたので一通りあるけれど、直火焼き用の鉄串がなかなか見つからない。こちらで簡単に手に入るバーベキュー用のものはもっと太くて、繊細な身の魚に突き刺したら、身が壊れてしまいそうだ。17年前はどうしたんだろう? 

そして何と言っても、直火用の焼き床がない。でもこれは日本で受講している人だって、普通の家庭用キッチンでは難しいのではないか。どうしたらいいか決められないまま、魚を買いに行った。 
 

まず「まながつお 味噌漬け焼き」。 

まながつおを一尾まるごと購入して捌いてみたかったけど、イタリアの私はOMBERINA BOCCADOROオンベリーナ・ボッカドーロという魚を選んだ。ネットで検索するとニベ科の魚とある。脂がのってるけど身は白くて、上品な味だと魚屋さんのおにいさん。彼のいう「上品」ってどんな感じかな? と思いながらも、いろいろ試してみるしかないので切ってもらう。 

 

イタリアの魚屋さんでは、普通魚は丸ごと売られていて、小型のものならその場で三枚におろしてもらう。大型の魚だったら「ソテーにしたいから3枚ね」なんて言って注文すると、1センチぐらいの厚さに輪切りに切ってくれる。中骨もそのまま、ザクッと輪切りだ。だから日本風の切り身にしたい時は、その輪切りの真ん中を貫いている骨を切り取って、上身と下身の二つに切り分けなくてはならない。でも今回、私が買いに行った時は、尾の方3分の1ぐらいが残っていたので、ラッキー!切らなくていいからそのままちょうだい、と言って買う。よかった、これで三枚おろしの形が作れる。 



三枚おろしにしたら薄く振り塩をする。反対の手を添えて塩を振るという意味が、DVDで見ているだけではちょっとよくわからなかった私。でも、実際にやってみると、腹の膨らんだ場所など、真上からではよく塩が回らない部分にも反対の手に当てるようにして塩を振るとすごく上手くいく。先達たちの知恵には本当に驚く。 



味噌床のレシピは4人分の材料なのに、白粗味噌1kg、甘酒200g、みりん、酒が各100mlという贅沢な配合。イタリアの私には普通の白味噌しか手に入らない、甘酒もない。しかも貴重な味噌を1キロなんて使えない。なので、量をかなり減らし、甘酒の代わりに冷蔵庫にあった塩麹と砂糖を少し加えて、なんとなくこんな感じ、という味噌床を作ってみる。 



毎日練り直しながら3日漬けるところ、翌日にはなんだか魚がすっかり漬かった感じに見える。もう一日、合計二日漬けて焼いてみることにした。金串がないので、竹串に刺してガスコンロに直接かざしてみると、あっという間に串が焼けて、グラグラになってしまった。当たり前だよね。笑 

仕方ながないので、魚焼き器に入れてみる。みりんを刷毛で塗って乾かしてツヤを出すなんて、すごい! 料亭の技って感じだ。 

焼き上がりはとても美味しかったけれど、ちょっと焦げが強く、そして塩分が強過ぎた。塩麹の塩分のせいかもしれない。次回はイタリアでも手に入る乾燥麹で甘酒を作るところから挑戦しなくては。 


 


次に「かます利休焼き」 

かますはイタリアでも時々見かけるけれど、とてもマイナーでタイムリーに手に入れるのは難しそう。それで今回は、細長いNASELLOナゼッロという魚を選んだ。 


 
タラの仲間らしいけれど、身がもっとデリケートで、イタリアの人は病人や赤ちゃんにさっと茹でて身をほぐし、オリーブオイルと塩を振って食べさせたり、三枚におろしてフライにしたりする。

利休焼きを選んだのは、両つま折串打ちというのをやってみたかったから。 



でも竹串では、形はそれらしく打てたけど、焼いているうちにやっぱり焦げてしまった。 



それで魚の外に出ている串はハサミで切って、串が打たれたままのナゼッロを魚焼き器で焼いた。美味しく焼けるのだが、やっぱり焦げる。日本製の魚焼き器は熱源が近過ぎるのかもしれない。焼き床を作りたいなあ。ガス代にレンガを置いてみるというのはどうだろう? でもガスの火が直接当たるというのはどうなんだろう? 

 


  

実は5課、6課を始めた直後に、イタリアはコロナウィルスの影響でロックダウンになり、外出は食べ物を買うぐらいしか許可されないという日々が2ヶ月続いた。それで魚を焼くのに使える細い金串を捜し歩くこともできなかった。解除になって探しに出かけ、最近やっと、最適な細さの金串が見つかった。魚屋さんに行って、MOLOモーロという小型の魚を買ってみた。 

 

日本語ではプラスダラ。聞いたことありますか?? これもタラの仲間らしい。これで踊り串(のぼり串)の練習をしたかったのだ。 

魚の頭を手前、腹左に持ち、目のところからグサッと入れる。きゃー、料理って残酷、と思いながら、魚が踊るような形にうまく串が打てて、喜んでいる私も残酷だ。  





せっかく串が手に入り、うまくさせたので、今日は魚焼き器でなくガスで直火で焼いてみる。火が直接当たるので焦げてしまう部分もあったけど、脂が落ちて火に当たって、ジュージューと美味しそうな音と香ばしい匂いが上がる。味も上々だ。ただし手で持って焼いているので、鮎の塩焼きのように頭まで完全に火を通すのは無理だった。 






いつかイタリアで自家製焼き台を作り、美味しい焼き魚をイタリアの人に食べさせてみたいなあ、と思う第5課、6課でありました。

 

 

リアルな声をお届け
修了生の方向け
修了生お知らせ メール登録