CAREER

卒業生インタビュー

「個性」や「本当のおいしさ」を迷いなく突き詰めてゆけるのは、
在学時に伝統菓子を学べたからこそ。

PROFILE
新潟県生まれ。辻調グループ卒業後、国内の有名パティスリーでの経験を経て、2004年に渡仏。モンペリエ『ジャルダン デ サンス』、ポイヤック『コルディアンバージュ』、パリ『アストランス』などのレストランやパティスリーで様々な技術を学ぶ。2008年に帰国し、『ランベリー』シェフパティシエに就任。2010年7月に自らの店『リベルターブル』をオープン。

『リベルターブル』オーナーパティシエ

森田一頼さん

お菓子の世界でトップになる。その近道が辻調グループだった。

姉が大学で絵を描く勉強をしていて、その影響もあって私自身もアートに興味を持っていました。また、子どもの頃から母が料理をつくるのをいつも見たり手伝ったりしていたので、「何かをつくる」ということにはずっと面白さを感じていましたね。そうしたなかで「将来は料理の道に進もうか」と考えたこともありました。でも自分がつくったものをアートの一つとして表現しようとするなら、料理よりお菓子のほうが自由度が高いのではないかと考え、パティシエを志すようになったのです。
高校卒業後に上京し、「まず社会を学ぼう」とそれから1年間はカフェやレストランでアルバイトをしました。そうして現場で働くうちに「やっぱり基本からしっかりとお菓子づくりを学びたい」という思いが強くなっていったんです。世界的に展開しているフランスの料理学校が日本で開講していた3ヵ月間の製菓コースに通ってみましたが、ちゃんと一年間学校に通ってしっかり学びたいと感じました。「お菓子教室のような感覚でなく、もっと現場に近い環境で学びたい」。そんな私の望みをかなえてくれたのが、辻調グループだったのです。オープンキャンパスに参加してみて「ここなら」と実感しました。何より、パティシエを志した時から「お菓子の世界でトップになる」と心に決めていた自分にとって、そこへの一番の近道と感じられたことが、この学校を選んだ大きな決め手となりました。

伝統を熟知しているから、 応用に「深み」が出せる。

学校では、お菓子に関するすべてを見せてもらい、教えてもらえたと感じています。例えば、お菓子の基本的な材料といえば小麦粉や卵、バターなどですが、そうした同じ材料を使ってのバリエーションや広がりについて、深く学びました。最も意義深く感じられたのは、フランスの伝統的なお菓子について学べたこと。それらのお菓子のほとんどは、現在の日本のパティスリーなどではつくられていません。でもそうしたクラシックなお菓子を学ぶことは、フランスの文化を理解するうえで絶対に必要ですし、味覚を構築するうえでも欠かせません。実際、クラシックを知っているか知らないかで、応用時の深みがまったく違ってきますからね。そうした学びは今の自分のなかにも生き続け、店のスタッフたちにもその重要性をしっかりと伝えていますよ。

「勉強の仕方」をつかんだことが卒業後の成長の原動力に。

食材の扱い方というところでは、すべてのお菓子づくりは繋がっていて、いろんなことに応用できる。そうした理解を深めていくなかで「勉強の仕方」そのものがわかり、それが卒業後、自分の創造性や臨機応変性を伸ばしていくうえでの大きなエンジンになったと思います。実際に就職後は、20代前半の若い時期から「自分で新しい商品を考える」といった自らの考えが求められる環境で働いていましたからね。そうしたなかで、学校で身につけた基本と応用力を発揮でき、さらに成長を重ねていくことができました。今振り返ってみると、学生時代に「勉強の仕方」をつかめるかどうかが、その後の成長に大きな差として表れるのではないかと思います。
その後フランスに渡った時も、向こうで技術を学んだという感覚はありません。基本的なことは日本で身につけて、フランスでは現地の食材を使った実践を通して、想像していた以上に自由度が大きいことに気づくなど、すごく視野を広げることができました。文化としてのお菓子に対する考え方も深まりましたし、一緒に働く人の生活などにも目を向けられるようになった。学生時代にクラシックなどの基本や「勉強の仕方」を学んだからこそ、フランスでの体験からこうした多くの気づきや視野の広がりが得られたのかもしれません。

生涯を通しての「仲間」となる大切な友人たちと出会えた。

辻調グループに行って良かったと感じることは、他にもあります。かけがえのない友人たちと出会えたことです。学校時代に仲の良かった4人が、全員、ずっとこの業界で仕事を続けているんですよ。今でも連絡を取り合って、会って話もしています。一人ひとりが、自分にとって本当に大切な存在ですね。高校までの同級生だとか、同じ職場で働いた同期のスタッフだとか、そういう人たちとは違う、本当の意味で何でも話せて理解し合える仲間です。これから先もずっと続く私たちのこの関係の、最初のきっかけとなる出会いをくれた学校に、心から感謝しています。

中途半端は通用しない。「専門的」「個性的」を追求。

これからの食の世界で生き残れるのは、専門性や個性を極めた職人か、強い資本力で多店舗展開できるような企業か、その二極だと思います。中途半端なものは通用しませんし、生き残れない。コンビニのスイーツにも相応の需要があるのですから、私たちのようなパティシエは「専門的」で「個性的」なお菓子をどこまでも追求することで存在意義を示していかなければ。そう考えて、日々課題感をもって挑戦し続けています。 専門性を磨いていくためには、学校で学んだ伝統菓子といった基本や「勉強の仕方」が大切だということも、改めて実感しています。それらをおさえたうえで、臨機応変性、創造性、芸術性などをコネクトさせていかないと、これからの時代に求められるパティシエとしての専門性や個性を極めていくのは難しいでしょうね。
スタッフに指導する際には「まず基本をしっかりおさえる」ということを重視しています。できるだけ言語化して教えることを意識し、さらに現場で一緒に手を動かして「見せて教える」ことを心がけていますよ。私自身が働き始めたばかりの頃は直接教えてもらえる機会は少なかったですが、今の人たちには隣で一緒にベストなものをつくって見せてあげることが必要だと感じますから。
「本当においしいもの」って世の中に少ないと思うんです。だから、そこを妥協せずに突き詰めたい。自分のお店を10年ほどやってきて、そうした思いが最近、ますます強くこみあげるようになってきました。売れているけれど「本当においしい」とは感じられないお店って、結構あるんですよ。だからと言って、それが正解みたいな世の中はイヤなんです、私は。うちは今一店舗だけですが、そこで発信できる「本当においしいもの」を、徹底的に突き詰めたいというのが、このところ一番強く思い続けていることです。

自分の感性を信じて「おいしさ」を突き詰めてゆく。

最も幸せを感じるのは、お客様の笑顔を見ることができた時ですね。単純かも知れませんが、やっぱり一番うれしい瞬間ですよ。そしてこの私自身が感じている幸せを、スタッフとも共有できた時の喜びは、格別と言えるでしょうね。お客様が喜んでくださっているということがスタッフまで伝わる場面は少ないのですが、そこを共有できて、スタッフたちが「やって良かった」「頑張って良かった」と思ってくれていることが、私自身にとっても大きな喜びや手応えに繋がります。
だからこそ、今後もスタッフたちとともに、この店の専門性や個性を突き詰めていく努力を重ね続けていきたい。「これでやっていける」と思ったことはありません。うちはまだまだもっと良い店になると思いますし、もしこのまま変化しなかったとしたら、10年後も同じようにお客様に来ていただけるかどうかはわかりませんよ。ですから日々、問題点を探って改善に取り組み、自分が満足できるものに近づけていく。学生時代に身につけた基本をベースに、その後もずっと磨き続けてきた、自分自身の創造性や感性を信じて。
たとえ一流と評されるようになっても、こうした努力を絶やすことはありません。それを苦に感じず、むしろ心から楽しいと思うのは、やっぱりお菓子づくりが好きだからでしょうね。何年向き合い続けてきても、まだまだわからないことがあったり、改善できる部分が見つかったり。それがお菓子の世界の魅力であり、「お菓子ってすごい!」と私がずっと新鮮な喜びを抱き続けている理由です。

『リベルターブル』(東京・赤坂)

自由な発想、記憶に残るクリエイティブ”をコンセプトに、数々の新たな味覚に出会える数々のスイーツを提供。伝統的な手法を大切に守りながら、森田氏の独自の感性から創り出される、優美かつ唯一無二な味わいが高く評価され続けているパティスリーです。

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