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食のコラム&レシピ

【半歩プロの西洋料理】夜中の缶詰

01<西洋>半歩プロの西洋料理

2009.09.09

<【半歩プロの西洋料理】ってどんなコラム??>

ある週末の事です、一人の若者が仕事を終えて帰宅したようです、なんだかお疲れ様子。


若者の両手の爪が、やや伸び気味です。きっと爪を切る暇もなかったくらい忙しかったのでしょう。でも今切ってはいけませんよ。「夜に爪を切ると親の死に目に会えない」という言い伝えがありますから。夜に爪を切ると「夜爪(世詰め)」といって早死にするので、死に目に会えないという迷信なのですけど。という事で爪を切るのはまた明日にしてください。今夜はお疲れのようなので一杯飲んで寝てくださいね。


おいおい今日は爪切りの話かって?いえいえ「つめ」は「つめ」でも「缶づめ」の話です。


さて、一杯飲んでと言ったものの、何か食べるものが欲しいですよね?今から何か作るのは面倒だし、買い物に行くのも面倒だと思います。そんな時、彼は台所に買い置きの缶詰があった事を思い出したのでした。



非常用に買った物なのか、それとも貰い物か。すぐに食べられるものが欲しい今こそ非常時です、開けちゃいましょう。


中に調理した食品が入っている「缶詰」。直接食卓に上がる事はめったにないと思いますが、少なからず皆さんも、お世話になっているのではないでしょうか。今日はその「缶詰」の歴史を簡単にご紹介しましょう。


容器入りの保存食を考案したのはフランスのニコラ・アペール氏、19世紀初頭に新しい保存食品として「瓶詰」を開発したのが始まり。アペール氏は、科学者ではなく料理人であり菓子職人。パリで菓子店を営む傍ら、食品の保存の研究をしていました。やがて彼は当時(18世紀)の食品の保存法(乾燥、塩漬、燻製など)に味や食感の面で不満を感じ、試行錯誤の末、食品を容器に詰めて加熱して密封する「瓶詰」を開発しました。これが缶詰の第一歩となったのです。


「瓶詰」の技術は、その後イギリスへ渡り、ピーター・デュランド氏により、ブリキ製容器に食品を入れる「缶詰」へと発展。瓶よりも軽く、割れる危険性もないので容器入りの保存食の主流となったのです。隣国イギリスにしてやられた感もありますが、アペール氏の功績は技術そのものより、開発した技術を公表し普及させたところにあるという見方もあるようです。ただ「瓶詰」が廃れたかというと、そうでもなく。母国フランスではアンチョビー、オリーブ、ゆでた野菜など多くの瓶詰商品が売られています。またフォワ・グラなどの高級食材では、中身が見え重量感もある「瓶詰」が主流です。


開発当時の缶詰はかなり頑丈にできていたので、19世紀半ばまでは「のみとハンマーで開封すること」と記載されていて、缶を開けるのは困難な作業だったのです。その後、容器は薄くなり、缶の蓋に縁がついたことにより、缶切りも開発され、開缶の手間は大幅に楽になりました。もし昔のような缶だったら、今夜の彼のように気軽に「これ食べよう」なんて気にはならないでしょう。さらに現代ではプルトップの付いた缶が多く見られ、缶切りがなくても開けられるようにもなり、最近では「花見に缶詰を持っていったけど、缶切り忘れた」なんてお茶目な話もすっかり聞かなくなりました。


そうそう、彼が今まさに開けようとしているこの缶もプルトップ付き。しかも今夜は爪を切っていないので、とても開けやすそうです。



若者が選んだ「缶詰」は《オイルサーディン、オリーブオイル風味》



油っこくてビールと良く合います。「それでは今週もお疲れ様でした!」という感じでしょうか、とりあえずのビールを一口いってください、そしてサーディンを一口。


缶詰は容器を密封後に高温で加熱するため、魚を丸ごと加工した場合、骨まで軟らかくなりカルシウム分も多く摂取できるのです。素材の持ち味が封じ込められる利点もありますが、逆に悪い味も閉じ込めてしまうこともあります。なので、素材はしっかりと下処理されています。そのまま食べるだけでも充分ですが、缶詰を開けただけではなんとも侘しいと思う方。パスタと和えてはいかがでしょう。にんにくと唐辛子で香りを付けたオリーブ油にオイルサーディンを加え、ゆであがったパスタを投入し、仕上げにいわしの漬かっていたオイルを少々加えよく和える・・・


でも今日はお疲れのようですね、そのまま頂くようです。



それにしても「缶詰(カンヅメ)」と言う言葉、締め切り前の作家を部屋に閉じ込めて書かせる時にも使いましたね。


夜中に缶詰・・・。あれあれ?夜中に「カンヅメ」にされて死に目に会えなくなったりしませんよね。


<コラム担当者>


白服の似合う男 外園 伸


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ツナのタルト

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