REPORT

代表 辻芳樹 WEBマガジン

Vol.3『四川飯店グループ』オーナーシェフ 陳建一

02 会う

2011.02.11

■落ち込んでいても、元気がなくても、顔にださないのがプロだろう?■

辻:職人というものはいろんな要素を持つべきでしょうか?

陳:それはその人の性格でしょうね。僕の場合は職人だけれどサービスマンでもある。根本はお客様が店に足を
運んで下さるにはいろんな要素があるわけですよ。「料理が美味しい」「サービスの笑顔が素敵だ」とかね。
     こういったいろんな意味でお客さまは満足されるわけだから、方程式もなければ、マニュアルもありません。何故かって言うと今日ここに集まっている皆さんも誰ひとり同じ洋服を着ていないでしょ。人の嗜好は
    そういうものなんですよ。

辻:そういう感覚は料理人も持っていたほうがいいでしょうか?

陳:少なくとも僕は自分の弟子にはそういう風に教育しています。今は店の組織の中で僕が「長」だから、あなたが僕と一緒にいる間は従ってくれ、と。調理場でやってはいけないことは、調理場はお客さまから見えないからと言って、仮に朝家で嫌なことがあっとして、その料理人が憂鬱そうな表情で材料を刻んでいるとしますよね。そんな料理食べたくないでしょ?僕は絶対に食べたくないと思いますよ。

辻:常に人として安定した気持ちで料理を作らなければ?

陳:とは言っても人だから嫌なときも、憂鬱なときもありますよ。僕だってある。 でも、プロフェッショナルってどういうことか考えてみてください。顔に出してはだめですよ。やっぱり店に入ったとき、一生懸命作った料理を食べたいですよ。僕は今店やっているんだからそんな料理は出したくないって思っています。
でも、人間だからね、そういう時もあるでしょ。 じゃあ、そういう時はどうするか?「ごめんなさい」って、これの繰り返しだよ。

辻:そのことは料理のジャンル関係なく言えることですよね。

陳:何料理なんて関係ないですよ。すべてです。だから集中力はとても大切ですよね。プロなんだから。

辻:陳さんはとてつもないアレンジャーだし、エンターテイメント性も持っていらっしゃるし、でも、よく考えてみると教育者なんですよね。

陳:自分ではそんなことわからないですね。ただ、僕は自分の弟子たちが幸せになって欲しいし、巣立って欲しいと思っています。

辻:教えれば教えるほど自分は空っぽになっていきますよね?するとさらに勉強しますよね。そういったときはどういう勉強を?他の料理からも学ぶことはありますか?

陳:いっぱいありますよ。友人もいっぱいいますしね。日本料理の方やフランス料理の方と一緒に仕事すると仕込みを見ることができますから。そこで目にした技術やアイデアを応用するんですよ。

辻:これからの料理人はひとつの料理だけではなく、いろんな料理を学ぶべきでしょうか?

陳:学ぶべきです。そして、料理を楽しむべきです。とにかく楽しまないと面白くないよ。

辻:でも、生きていく手段として料理をしているという人もいるんですよね。

陳:そりゃ、そうでしょう。当たり前の話ですよ。でも、もし出来るのなら楽しく仕事やったほうがいいでしょう?僕は絶対そう思います。可能なればそういう仕事ができる職場がいいと思う。

辻:最初そういう気持ちをもって取り組んでいっても何年かたてば忘れてしまうことが多いでしょ。

陳:確かに。人間ってそういうものだからね。でも、その度に向上心を新たにして取り組んでいくということの繰り返しだと思いますよ。うちの店が厳しいのはランチタイムとディナータイムだけ。この時間は“全員集中”ですよ。

辻:今、日本全国に何店舗展開されていますか?

陳:18店舗です。

辻:ほぅっ~。ジャンル別にはどうなっているんですか?

陳:麻婆豆腐専門店や赤坂の本店のようなジャンル、といろいろ分けています。

辻:やはり四川料理?

陳:四川料理中心ですね。

辻:四川料理の強みっていうのはお惣菜的な部分でしょうね。

陳:中国料理っていうのは麺1杯からツバメの巣やふかひれの姿煮のような超高級料理までてがけますから、ジャンルは広いですよ

辻:利益的にはどのジャンルの店が一番出ますか?

陳:利益的には麻婆豆腐専門店のような単品店が出ますよね。

■メディアの影響■

辻:そういったジャンルの店を成功に導けるのも「陳さんのブランド」を築かれたからだと思うのですが、15年前頃にメディアに初めて露出される時は悩まれました? 例えば料理人であるのにTVに出るというようなことですが・・・

陳:全然そういうことはありませんでした。ただ、僕はこういう性格なのでバラエティ番組系からオファーがけっこうあったんですよ。でも、内容的にお断りしたものもありました。

辻:「料理の鉄人」に出演されるきっかけは?

陳:きっかけは岸朝子さんですよ。「半年だからがんばってやりなさい」と、で、「あなたはもう少し異なるジャンルの人と付き合わないと駄目よ」って説得されて出演したのです。

辻:最後まで出演されたんですよね?

陳:この性格だから最後までやりましたよ。それに勝ち負けなんか全然気にしていなかったですから。料理の世界に勝ったも負けたもないですよ。そのことがわかっていたから平気であそこにいられたんですよ。

辻:でも、非常に勉強になったのでは?

陳:勉強しないとあの場にいるのは無理だね。出演している間は本当に勉強しましたね、だからよかったですよ。僕の場合は何かがないと勉強しないタイプですから。

辻:お店のPRにもなるから出演されたんですよね?

陳:結果的にはそうなりましたね。お客さまの数がすごかったですからね。皆に言いましたよ「これは絶対に自分た
ちの力だと思うな。これがメディアの力だ」って。お客さまの期待が半端じゃないですからね。
わずかのミスも許されない。

辻:本当に勝ち負け関係なく、社員たちの訓練にはなった、と。

陳:皆でがんばろうって、まちがいもあるだろうけど仕様がない、パーフェクトはないんだからって。僕はパーフェクトなんて目指していませんから、8分ぐらいがちょうどいいです。パーフェクト目指すと疲れますよ。2割ほどどこかボケッとしていたらいいって。全てのお客さまが満足いくような店をやろうと思うとと疲れてしまいますよ。身体壊しちゃうよ。

<『四川飯店グループ』オーナーシェフ 陳健一氏>次回の更新は2月18日(金)を予定しています。