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Vol.5『Toshi Yoroizuka』オーナーシェフ 鎧塚俊彦
2011年01月14日

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2011年1月14日 by suyama

■僕が常にスタッフたちに言っていること■

辻:次の質問ですが、人材についてです。どのようにスタッフの方々を育てられていますか?

鎧塚:僕には独特の価値観があるらしいです。スタッフたちからも「面白い」って言われますが、例えば店の窓ガラス、これを「拭いておいてくれる?」とオーダーを出した場合、その一言でピシッとそのガラスを拭ける人は皆さんの中でも5人ぐらいしかいないと思います。「これ、きれいになってないね。拭いた?」って訊きますと大抵の人は「拭きました」って答えます。
「拭いてくれる」って言えば単に拭けばいいと思っている人がほとんどですよね。窓ガラスを拭くとはどういうことか、それは窓ガラスを単に拭くのではなく、きれいにするということじゃないですか。この当たり前のことが当たり前にできる人は本当に数少ないです。これがきちんとできる人は必ずいい菓子を作ることができます。
僕の店ではお客さまに対しても同様の考え方をさせています。スタッフはまず接客担当にします。
寒い中、店の前に並んでくださっているお客さまを前にして「寒い中お待たせしましてすいません」と声をかける、
暑いときに子供さんを抱いて待たれているお客さまがいらっしゃれば「暑いなかすいまぜん。もう少しお待ちください」という言葉を自然にかけることができる。こんなことはマニュアルに書くことではないですよ。こういう言葉が自然と発せられるように教育していく必要があるし、そういう言葉が自然と出てくる人は不思議といい菓子が必ず作れます。
「人としてすごくきちんとしている。けどいい菓子は作れない」ということは絶対にありません。入職して3年、4年は手先が器用で世渡り上手なタイプが伸びます。でも、10年、20年たつと淘汰されて、人としてきちんとした者が伸びてきます。このことはうちのスタッフには何度も繰り返し言っています。僕にしても何の才能もありませんが、たくさんの人たちに助けていただいてここまできたんです。
ただひとつ言えることは自分で逃げ道を用意している人は助けてもらえないでしょうね。自分で逃げ道を断って
「ここでしか生きられない」って必死になっているから、その姿を見ている人たちが「よし、助けてやろう」って考えるんですよ。スタッフたちにはこういうことを徹底的に教えています。

辻:お話をうかがっていると要はコミュニケーションの大切さだと思うのですが、そのことを教えていくのはなかなか大変だと思うのですが・・・

鎧塚:確かにそうです。ですから僕は何度も何度も繰り返し言います。
この人物は何度言っても駄目だということはありません。ずっと言い続けます。それが僕の仕事だと思っています。
ですから「あいつは言わないとわからない」とか言うじゃないですか、でも、人は言わないとわからないですよ。若い人たち側も同様で「自分のことをわかってもらえない」と言いますが、超能力者じゃないですからわからないですよ。言わないと駄目です。
じゃあ、僕の店の接客は完璧か、というと、そうでもないんですよ。敬語なんてまちがってもいいんですよ。
もちろんきちんとした言葉を用いる必要があるのですが、仮に用いた敬語が誤っていてもそこに真心が入っていればお客様はわかってくださいます。


     

辻:大切なのは姿勢ですよね。ところで辞めないのはどのようなタイプのスタッフですか?

鎧塚:賢い人、器用な人は続かない。けっこう辞めますね。

辻:皆さんそう仰いますね。

鎧塚:なぜかと言いますと僕ら、職人の世界って理不尽なことが多いんですよ。世の中理不尽なことが多いです。
中でも特に職人の世界は多いと思います。その理不尽な世界にある程度耐えていくからこそ、その先に見えてくることがあると思うんです。これから将来皆さんは「自分は料理人、あるいはパティシエに向いていない。才能がない」と感じることがあると思います。でも、向いている人などいないと思います。だから僕のように鈍くさい人間は「どうせ何しても向いていないのだから、俺はこの道で生きていく」という気持ちになるのですが、何をしても器用で、常に
脚光を浴びてきた人は同じように感じたときに「他のことをすればうまくいくのじゃないか」って考えるんですよ。
でも、他のことをやっても同じように感じる時が来ます、するとまた他のことをやる、という風に転々としていてもひとつの大きなことを成し遂げることはできないですよ。

辻:よくわかります。話が少し変わりますが僕は鎧塚さんの疲れた表情って見たことがないんですよ。いつも爽やかで安定されていますよね。気性としては爽やかなほうなのですか?

鎧塚:けっこう外面がいいんでしょうね。外面がいいやつは内面(うちづら)が厳しいですよね、ですから僕も店では
怒ることもありますよ。ただ、自分自身で美化するわけじゃないですがあまりネチネチとはしていないですね。怒ればドカンと怒りますが、その後引っ張ることはありません。

辻:製菓業界では他の人とはちがうことをするというのは難しいことなのですか?

鎧塚:そんなことはないと思います。

辻:なんとなく邪魔したりとか、批判したりとか・・・

鎧塚:僕はそういうことに疎いんですよ。

辻:余り気にされない?

鎧塚:気にしないんです。僕は人を嫌うことがないので、僕も嫌われないだろうと思うことにしています。そうでないと疑心暗鬼になってしまいますから。それでも僕を目の敵にするという人がいればそれはしようがないということですね。

辻:日本ってまだまだ年功序列が残っています。また、製菓だけでなくひとつの業界においてその枠からはみ出したりすることを善しとしない傾向があると思うのですが、個人的な意見でけっこうですが、鎧塚さんにとればどの部分をしっかり守る、また、どの部分なら壊してもいいと思われますか?

鎧塚:若い人たちには「格好つけるな」って言いたいですね。20代前半までは持って生まれたパーツで生きていけるじゃないですか、でも、30代、40代になるとその人の内面的な部分が出てきて、持ってうまれたものがいくらよくてもそんなものはどんどん色あせていきます。
今の若い人たちって「燃えない、熱くならない」とよく言われるじゃないですか。僕は少しちがうと思うんです。本当は熱くなりたいし、燃えたい、でも、一生懸命やればやるほど巧くいかなかったときに傷つき方が大きいじゃないですか。それを怖がっているんですよ。だから一生懸命やらない振りをしているんですよ。
「俺はまだ本気だしていないから、失敗しても大丈夫よ」って感じでしょう。でも、僕にしてみれば「ふざけんな!」って感じですよ。もっとのたうちまわって傷つかないと駄目ですよ。
コンクールにしても、負けたら恥だと思う人たちがいますが、ものすごく悔しいことですが、恥ではないですよ。でも、一生懸命やって成功するかというと長い目でみると確かにそうですが、短いスパンでみるとそれほど簡単ではありません。人生、そんなに巧くはいかないですよ。
ただ、そういうことを怖れていてはだめだと思います。だからそういう感覚を取っ払って我武者羅にやりたいことをやっていって欲しいですね。それでドーンと失敗してそこからまた這い上がって新たに始めて欲しいです。そして、強くなるんですよ。負けることは恥ではないですから。

辻:すごく人を育てるがお上手に見受けられますよ。

鎧塚:いやーどうですかね。

辻:多店舗展開は考えてられない?

鎧塚:考えてないです。

辻:自分が育てた人たちがもっと活躍する場をご自身で作っていこうと考えることは?

鎧塚:ないです。なぜか「育ててあげる」という言葉自体があまり好きではないですね。現在の『Toshi Yoroizuka』で僕は監督という意識はなくて、エースで4番でっていう意識で毎日やっているんです。その僕の姿を見ていて皆育ってくれると信じているんです。

辻:自分で自分の人生を築けってことですよね。

鎧塚:そうです。自分が動けなくなったら話は別ですが、動けるうちは自分ががんがんとやってその姿を見て、育って欲しいですね。後は何かあればもちろん助けるけど、基本的には自分の足で歩け、みたいなところはあります。

■パティシエ以外でやりたい職業はありますか?■

辻:最後にいくつかの質問をよろしいですか?まず、パティシエ以外でやりたい職業があるとすればそれはなんですか?

鎧塚:なんですかねぇー僕には考えられないですけど、あのーこの間ちょっと引っ張り込まれて舞台をやったんですよ。

(笑)

高知で演劇やったんですよ。秋元康さんに無理やり引っ張りこまれたんですよ。そしたらけっこう面白かったんですよ。もちろんもうやらないですよ(笑)

辻:やはり他人の反応を見るのがお好きなんですよ。

鎧塚:少し自慢話になるんですがいいですか?倍賞千恵子(女優)さんに「あなたは演技に向いてる」って言われました。

(笑)

いや、もうしないですよ。でも、表現が好きなのであれはあれで楽しかったなというのはあります。

辻:自慢話はもういいですか?(笑)じゃあ、絶対につきたくない職業は?

鎧塚:何かな?弁護士。僕はもめごと嫌なんですよ。でも、商売しているので時には弁護士さんのところに相談いくじゃないですか、顧問弁護士じゃないですよ。たまにですよね。だけど弁護士さんは毎日そういう内容の仕事をしているわけじゃないですか。毎日、もめごとを持ってこられるわけですよ。そんなの嫌でしょう。

辻:死ぬ前にもう一度食べたいお菓子は?

鎧塚:僕は自分のケーキを食べたいですね。

辻:やっぱり自分のこと大好きなんですね(笑)

(笑)

鎧塚:でも、自分のケーキを美味しいと思うから作っているわけですから。

辻:ここに来ていただく方は絶対に自分に自信があるんですよ。

鎧塚:いや、そんなことないですよ。辻口さんほどじゃないですよ。

(笑)

辻:そうですか、自分のどのようなお菓子?

鎧塚:マドレーヌとか、ババとかも好きですし・・・。もし、料理といわれると他の何かが思い浮かびますが、お菓子だとやはりそうですかねぇ。

辻:鎧塚さんは先ほどから何度も自分には才能がない、と仰っています。ま、僕はとてつもなく才能があると思っているのですが、では鎧塚さんにとって才能がある人ってどういう人でしょう?

鎧塚:才能がある人ですか?

辻:パティシエで。

鎧塚:いつも若いスタッフにも言っているんですが、野球とかサッカーとかは知りませんよ。でも、菓子屋にとっての才能って、30年、40年、50年と「まだまだ」と思いつつずぅっとお菓子のことを考え続けていけることが唯一の才能だと思っています。

辻:継続力?

鎧塚:そうです、継続力ですね。それが才能です。野球やサッカー選手とちがって、いい意味で菓子屋なんて無器用だろうが、鈍くさかろうが、センスがなかろいうが30年、40年やっていれば十分経験や努力ですべてカバーできますからね。ですからずぅっと続けていくのが唯一の才能ですよ。

辻:最後の質問です。鎧塚さんにとって「創る人の条件」とは?

鎧塚:当たり前のことを当たり前にやり続ける忍耐力、ですかね。

辻:なるほど。今日は本当にありがとうございました。

 

■参考・関連図書■
「パティシエになるには」(辻製菓専門学校編)ぺりかん社
職業の魅力と実際、就職の方法などを幅広く紹介する若者向けの仕事ガイドシリーズの一つ。インタビューには卒業生が多数協力。

 1月28日(金)からはシェフズインタビューの第4回目<四川飯店グループ オーナーシェフ 陳健一 Vol.1>です。

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