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【くいしんぼうラボ 活動報告】三富新田で学ぶ、300年以上続く農の知恵「落ち葉掃き」体験

東京学芸大学×辻調
製菓応用技術マネジメント学科
製菓衛生師本科
調理師本科
調理応用技術マネジメント学科

2026.02.10


埼玉県の川越市、所沢市、ふじみ野市、三芳町に広がる武蔵野台地は、
火山灰土に厚く覆われ、もともとは作物が育ちにくい土地でした。
元禄年間に当時の川越藩主柳沢から人々は、畑の奥にクヌギやコナラなどの木を植え、
「ヤマ」と呼ばれる平地林として育て、その落ち葉を掃き集めて堆肥にし、
畑に入れることで土壌を改良してきました。
こうした営みは300年以上にわたり受け継がれ、「武蔵野の落ち葉堆肥農法」と呼ばれています。
この地域は「三富新田(みとめしんでん )」※1 と呼ばれ、
江戸時代にサツマイモをはじめとした農業が盛んになりました。


三富新田の開拓と土地利用を示す案内板

この農法の大きな特徴は、畑と雑木林が一体となって成り立っている点にあります。
平地林は、落ち葉を供給するだけでなく、景観をつくり、生き物のすみかとなり、
生物多様性を育む役割も担ってきました。
現在もこの地域には平地林が多く残され、育成・管理されながら、
持続可能な農業の仕組みが今に伝えられています。 

こうした価値が評価され、2023年には「武蔵野の落ち葉堆肥農法」は
「世界農業遺産(GIAHS)」※2 にも認定されています。

世界農業遺産を巡る散策路マップ

2026年1月24日(土)、この三富新田で、「武蔵野の落ち葉堆肥農法」の一環として行われている
「落ち葉掃き」が実施されました。
この農法は、畑の奥にある平地林の落ち葉を集め、堆肥として畑に還すという、
江戸時代から約300年以上続く伝統的な農業の知恵で、現在は世界農業遺産にも認定されています。
                                 
「落ち葉掃き」は毎年別の畑で実施されます。
朝9時に集合場所である旧島田家住宅※3 から、今年の落ち葉掃きを行う畑へ、徒歩で向かいました。

旧島田家住宅は立派な茅葺屋根や広い庭を誇る、歴史ある建造物です。



これまで参加してきた「落ち葉掃き」の場所へは車で移動することが多かったため、
畑・屋敷地・平地林が一直線につながる三富新田独特の土地のつくりを、
実際に歩きながら体感できたことが印象的でした。
地図や説明だけでは分からなかった距離感や景観を、身体で理解する貴重な時間となりました。

また、今年は参加者が約40名と、例年の倍ほどの人数が集まりました。
熊手を持って横一列に並び、声を掛け合いながら落ち葉を掃き集めていくと、
広い平地林でもみるみるうちに地面が見えてきます。
人数が多い分、作業はとてもスムーズで、昨年よりも短い時間で作業を終えることができました。
一方で、これほどの人手がなければ維持できない作業であることも実感しました。

落ち葉掃きでは、竹製の熊手と、この地域では「ハチホン」と呼ばれる大きな籠を使います。
集めた落ち葉を籠に詰め、人が中に入って足で踏み固めると、一籠の重さは50~60キロにもなります。

見ていると簡単そうですが、実際にやってみると体力もコツも必要な作業です。
それでも、軽くて丈夫な昔の道具は非常によく考えられており、先人の知恵の確かさを実感しました。

作業後、平地林はすっかりきれいに

あるベテラン参加者の方からは
「落ち葉の中の笹の葉は堆肥に向かないので、取り除くとよい」とのアドバイスがありました。
笹の葉は古くから食物の保存に使うなど抗菌作用があることで知られていますが、
その性質は落ち葉の菌による発酵を妨げ、堆肥に代わる際には望ましくない作用となるのだそうです。

また、「落ち葉掃き」を行った平地林には
新しい枝がたくさん伸びている大きな木の切り株が連っていましたが、
これは「萌芽更新(ほうがこうしん)」という、意図的に行われた作業と教えていただきました。


近年は成長した木に特定の菌が蔓延することで木が集団的に枯れたり傷んだりする
「ナラ枯れ」という問題が発生しており、この対策として大きな木の根本を残して切り倒し、
残った根元から枝を伸ばして樹木の再生を促す作業が行われています。
この作業を「萌芽更新」というそうです。
このように、作業を一緒に行いながら、
長年「落ち葉掃き」に携わっている参加者の方々からも様々な知恵を授かりました。

落ち葉の中から、珍しい天蚕(てんさん)※4 の繭と思われるものを見つけるなど
自然の多様性を感じる場面もありました。

黄緑がかった美しい色です

集めた落ち葉は堆肥として使えるようになるまで
2年ほどかけてじっくりと発酵・分解を進めていくそうです。
落ち葉堆肥農法が長い時間をかけて成り立っていることを、あらためて理解することができました。

一方で、平地林の維持管理には継続的な人手が必要で、担い手不足や林の更新といった課題もあります。
落ち葉掃きは、単なる農作業体験ではなく、地域の文化や景観、農業を守るための大切な活動であることを、
今回の体験を通して強く感じました。

作業後の昼食休憩の際には、地元農家の方が、
地元の郷土料理である温かいけんちん汁を用意してくださいました。

けんちん汁には大根、人参、里芋など地元産の野菜がたっぷり入り、しょうゆ味の優しい味付けでした。


冷えた体もほっと一息

三富新田の自然と人の営みの中で育まれてきた落ち葉堆肥農法を、
これからも学び、次の世代へつないでいきたいと思います。

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※1
三富新田について(埼玉県三芳町HP)
https://www.town.saitama-miyoshi.lg.jp/kanko/rekishi/santomeshinden.html

※2
「世界農業遺産(GIAHS)」(農林水産省HP)
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kantai/giahs_1_1.html

※3
旧島田家住宅
江戸時代文化・文政期(1804~1829)に建築されたと考えられる茅葺屋根の民家住宅。
https://www.town.saitama-miyoshi.lg.jp/kanko/rekishi/kyuShimadake.html

※4
「天蚕(てんさん)」
和名「ヤママユガ」と言う日本固有の野生の蛾。
その繭から作られる絹糸は、通常の家蚕の物に比べて薄緑色に輝く光沢を持ち、大変希少とされる。

~プロフィール~
辻調理師専門学校 東京 
司書/事務広報グループ
合田 達子

イタリアへの料理留学と現地での勤務、辻調グループフランス校勤務を経て現職。
「辻調東京 図書室」の蔵書管理を担当しています。