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コミュニケーションツールとしての食の役割[第3回]
2008年09月16日

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対談:
西川恵氏(毎日新聞専門編集委員)
辻芳樹氏(辻調理師専門学校 理事長・校長)

第3回 今、世界の料理の潮流は・・・

西川恵氏(以下西川):辻さんは12歳から15年間ほど海外で生活されたわけですが、この海外生活経験はご自身の感性面にどういう影響を与えていますか? 実は僕自身も帰国子女でして、父親が外務省勤務だったこともあり、10歳の時から5年間海外で暮らしました。僕の場合この経験から客観的といいますか、どこか距離をおいて日本を見るというような視線が自分の内にうえつけられた気がしているのですが、15年間もイギリス、アメリカで暮らされたということで日本を客観的に見るようになっていらっしゃると思うのですが・・・

辻校長(以下辻):余りにも多いので、何から(笑)・・・。確かに"客観的な視点"というものは根強くあります。政治や経済の動きなどを含めたさまざまな外的要因の影響下での料理の進化などが外国で暮らした結果、見えやすくなっていると思います。現在は日本に戻り、仕事に従事しているわけですが、過去の経験から日本にどういう形で、どういうレベルで食の情報が入ってきて、料理が進化しているかなどが実に見えやすいです。

西川:グローバルに見えるわけですね。

辻:20年ほど前にある料理評論家の方が「もう日本にも"日本のフランス料理"が存在ししてもいい時期にきている」と仰っています。もちろんこの考え方はまちがってはいないと思いますけれど、僕自身はまだとてもその時点まで至っていない気がしています。外に学ぶことはまだまだ多いのではないかと。 ただ日本料理に関して言えばいい意味で外国に影響を与えるレベルになりました。かつて、日本料理が他国の料理に与えた影響はどちらかというと料理を簡素化させたり、醤油を少し使ったりとかいうレベルでしたけれど、現在はすでに味の組み立て方から技法的な部分にまでその影響は及んでいます。

西川:例えばどういう?

辻:舌の上での味の組み立て方が非常に日本料理的。昔はどんな日本の食材を用いても、舌の上での味の組み立て方はあくまで"フランス料理"でした。
フランス料理には、まず、すべての味の構成をする。そして、そこにわずかな風味のアクセントを置く、と言う風に見えないところに美学を感じるというようなところが少しありますが、今では口の中に入れた時、味が混ざり合ったように感じるけれど、実はそれぞれの風味が縦に分かれているという日本料理のような味の組み立て方がされている料理もあります。

西川:ほぉ~。日本料理の風味の組み立てってそういうものなんですね。で、そのような味の組み立て方をするフランスの料理人さんには例えばどのような方がいらっしゃいますか?

辻:そうですね。現代のフランスの料理界で言えば、パスカル・バルボ(*1)さん、アンヌ=ソフィ・ピック(*2)さん、それにミッシェル・ブラス(*3)さんやオリヴィエ・ロランジェ(*4)さんなどの味の組み立て方は縦に分かれています。

西川:それぞれの素材の風味が口の中でもクリアであるということですね。

辻:もちろんこれが主流ではないですよ。クラッシックから進化してきた結果こういう味の組み立てができる料理人とまったくフランス料理に属さない料理観からこのような料理に至った料理人とがいらっしゃると思います。 興味深いのはお互いバックグラウンドは別でもたどりついているところは同じだということです。このような料理の流れのようなものが海外に暮らしていると把握しやすくなるように思えます。

西川:お父様の跡を継がれた時点で既にそのような世界の味覚の流れのようなものを・・・

辻:何も知らないですよ。確かに美味しいものは食べてきたと言う自負はありました。でも、まったく何も知らなかったです。

西川:それまで蓄積してこられた情報がまだ体系化されていなかった、と。

辻:今でも体系化できていません(笑)。

西川:(笑)でも、日本料理が他国の料理に及ぼす影響などはある程度図式化されている。ところで最近のフランス料理の動きはどういう感じなんでしょう?

辻:まず先ほども言いましたように70年代のいわゆる"ヌーヴェル・キュイジーヌ"から始まった料理の進化が行き着くところまで行き着いたということと、料理の世界が二極化しているということでしょうか?

西川:二極化と言いますと?

辻:語弊があるかも知れませんが、いくらあがいても変えることはできないだろう、という世界と今までのフランス料理の流れからは考えられない、という世界でしょうか。

西川:今、行き着いた形とは?

辻:斬新な味の組み立て方、ありきたりの普通の感覚では考えられない味の組み合わせ、あるいはまさに驚きの組み合わせなどがこの10年間、まだ「実験的」な状態で行われてきたのですが、今では完全にひとつの商品として確立された料理をちらほらと様々なレストランで目にすることができます。

西川:例えばどのような料理ですか?

辻:例えば、蒸したテュルボ(平目)にモルト・ウィスキーの香りをきかせたオランデーズ・ソースを添えるという今までの当たり前の組み合わせに少しひねりを加えた形で確立させた料理とか、桃とオマール海老の組み合わせって定番中の定番なんですが、意外にもこれをきちんと料理できる人がいなかったんです。でも、今はオマール海老に最も合う桃の火通し状態を正確に把握した上で調理できる料理人などがいます。

西川:なるほど。フランス料理はどんどん進化しているんですね。

辻:フランス料理には「クラッシック」というものがあって、このクラッシックなフランス料理は先ほど申し上げた方向に進化してくるわけですが、味の組み立て方以外の技術的な面も含めて、その進化にはとても長い月日がかかっています。そして、ようやく30代、40代、50代の料理人たちがまったく新しい料理を確立している状況だと思います。

*1:パスカル・バルボ Pascal Barbot Restaurant L'Astrance(パリ)オーナーシェフ ☆☆☆

*2:アンヌ=ソフィ・ピック Anne=Sophie PIC Restaurant PIC(ヴァランス)オーナーシェフ ☆☆☆

*3:ミシェル・ブラス Michel Bras    Restaurant Michel Bras(ライオール)オーナーシェフ ☆☆☆

*4:オリヴィエ・ロランジェ Olivier Rollinger    Maison Bricourt(カンカル)オーナーシェフ ☆☆☆

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次回は料理人の研鑽、そして、これからの料理人とはです。
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辻芳樹
1964年大阪生まれ。12歳で渡英。米国でBA(文学士号)を取得。1993年に父である故辻静雄の跡を継ぎ、辻調理師専門学校校長、辻調グループ校校長に就任。欧米の食の最前線を調査研究し、プロの料理人教育に生かす一方で、日本の食文化の海外への発信にも取り組んでいる。共著に『美食進化論』、編著に『料理の仕事がしたい 』、著書に『美食のテクノロジー』 がある。

西川恵
長崎生まれ。71年に毎日新聞社入社。テヘラン、パリ、ローマ各特派員を経て外信部長。現在は専門編集委員。著作に『エリゼ宮の食卓―その饗宴と美食外交』(97年サントリー学芸賞受賞)『ワインと外交 (新潮新書 204)』などがある

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