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コミュニケーションツールとしての食の役割[第4回]
2008年09月24日

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対談:
西川恵氏(毎日新聞専門編集委員)
辻芳樹氏(辻調理師専門学校 理事長・校長)

第4回 料理人の研鑽、そして、これからの料理人とは

西川恵氏(以下西川):辻調理師専門学校で面白いと思いますのは、トップが料理人ではないですよね。もちろん料理を味わうプロではあっても作るプロではない。これが実に面白いと思います。この点で何かプラスなことってありますか?

辻校長(以下辻):何もプラス面はないですよ(笑)。

西川:それは冗談だと思うのですが・・・

辻:冗談です。私の場合、まさにプロの料理人ではないが故に客観的に味覚を捉えやすいですし、ま、一般の企業で営業畑から、あるいは経理畑や技術畑からきた経営者がいるのと同じようなものだと思います。 先代には「今まで努力されて技術を身につけてこられた先生方と競争しようと思うな」とよく言われていました。

西川:唐突な質問ですが、料理人というのはあるとき突然自分の料理のスタイルというものがわかるものですか?

辻:商売されている方とそうでない方との差はすごく大きいと思いますけれど・・。自分の考えを再現できる技術と、根底が深い、浅いということとは別物のような気がします。自分のスタイルを確立できる人は自分のやりたいものがしっかりとわかっている。ですからあまり試行錯誤されることはないと思います。そして、それに伴う技術力は必ず備わっている、手と頭の距離がとても近いように思います。

西川:なるほど。

辻:けっこう若い頃から自分のやりたいことがわかっている必要があるでしょうね。技術的にできることって限られていますから。

西川:ごらんになっていて、テクニックは素晴らしいけれど感性がついていっていないなと思われる料理人はけっこういらっしゃる?

辻:逆ですね。感性はあるけれどテクニックがついていっていないという料理人はいると思います。僕の知っているフランス人の料理人さんの中にも、とにかくずぅっと試行錯誤を続けているけれど、どうしても自分のスタイルを見つけられない方が5、6人いますよ。

西川:あっ、そうですか!そういう方の手がける料理を賞味したときの感じはどんな印象なのでしょう?

辻:表現力の「詰め」が甘いです。感性のフレームワーク、すなわち自分が何をしたいのかが見えてないところがあると思います。ただ、こういったことが昔より難しくなっているかも知れません。かつては料理だけでよかったでしょうが、今は料理以外の分野の勉強もしなくちゃならない。範囲が広がっていますね。 さらに食べ手側の味覚の範囲もかつてよりはるかに広い。ですから全世界の料理人は世界中の味覚を対象にして料理をつくる必要があると言っても過言ではないでしょう。その分、料理人は自分の感性を磨く必要が出てくると思います。

西川:教育という分野でも同じことでしょうか?

辻:ただ、教育分野の場合、何よりも難しいのは教える側が料理を主観でなくとらえることが必要だということです。そうでないと「僕はこれが本物だと思う」「私は思わない」と言う風に多数決の議論になってしまうとよくない。

西川:ほうっ!なかなか難しい。

辻:「今、この料理はスポットライトを浴びているが5年後にはスポットライトを浴びなくなる料理」か、どうかという目利きのセンス、教師として見る目を持っていないといけないと思っています。

西川:主観を持ってはいけないということは「あるがままに見る」ということですか?

辻:主観を持ってしまうと時代遅れになってしまうリスクがあると思います。例えば「自分はこの料理が嫌い。だからこの料理は今後影響を及ぼさないだろう」という流れにはまってしまう危険性があるということです。

西川:そうすると辻調の課題というのは、いかにして教師にそういうものをインプットしていくか。そして時代に敏感で、しかも基本であるクラシック料理の技術をきちんと踏まえた教育をしていくか、ということになりますね。

辻:そうですね。技術教育というものは普遍性のあるものとないものと両方を教える必要があります。これはビジネススクールのケーススタディと同じことだと思います。毎年、変わっていくわけです。料理を教えていく行為の中で、基礎技術を教えるというのは絶対にまちがっていないのですが、それ以外にこれからの時代「料理人」はどうあるべきかということをなんとか教えてやりたいと思っています。これはとても難しいことですが。

西川:ある意味でそれは「哲学」ですよね。いろんな意味で「哲学」を持って欲しいと。料理人としての「哲学」を確立して欲しいということですよね。

辻:そうですね。それが自分の感性を見つけるきっかけにもなりますしね。

西川:最後にお聞きしたいのですが、現在、日本ではさまざまなグルメブームがある一方、食材の高騰とか環境問題とかがあって、料理人にとっても難しい時代になってきていると思います。このような状況の中で料理の社会的役割と言いますか、料理人はどうあるべきでしょうか?

辻:少し答えがそれるかも知れませんが、自分の料理人としての器量を知ることがまず最優先だと思います。ただ、料理人のステイタス、ただ単なる給料の話だけではなく、職人としての社会的地位を高める必要があると思います。そのためにも国が率先して文化を知って、それを高めていこうとしない限り料理人のステイタスはあがらないでしょう。そして、それにはお金がかかることは確かですよ。

西川:まったく同感ですね。

辻:結局のところ料理人の自己研鑽には「終わりがない」ということです。そして、我々が担当する教育という分野では、どのように教育をしたら、より高い成果というものにつなげていけるかを考え続けることだと思っています。

(2008年7月28日、辻調グループ校秋葉原サテライトキャンパス<Tsujicho Akiba Cafe>にて収録)

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次回は料理番組の作り方 -辻調グループ校と<料理大学>です。
1990年よりSkyAで始まった<料理大学>。この番組のプロデューサー鈴木直哉氏に「料理番組の作り方」から、番組によせる思い等々を語っていただきます。
第1回目は10月1日(水)掲載予定です。お楽しみに!
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辻芳樹
1964年大阪生まれ。12歳で渡英。米国でBA(文学士号)を取得。1993年に父である故辻静雄の跡を継ぎ、辻調理師専門学校校長、辻調グループ校校長に就任。欧米の食の最前線を調査研究し、プロの料理人教育に生かす一方で、日本の食文化の海外への発信にも取り組んでいる。共著に『美食進化論』、編著に『料理の仕事がしたい 』、著書に『美食のテクノロジー』 がある。

西川恵
長崎生まれ。71年に毎日新聞社入社。テヘラン、パリ、ローマ各特派員を経て外信部長。現在は専門編集委員。著作に『エリゼ宮の食卓―その饗宴と美食外交』(97年サントリー学芸賞受賞)『ワインと外交 (新潮新書 204)』などがある

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