COLUMN

食のコラム&レシピ

【とっておきのヨーロッパだより】麗しのボルドー『ラ・シテ・デュ・ヴァン』体験記 その① 建物紹介編

12<海外>とっておきのヨーロッパだより

2019.03.06

<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>



もし「フランスの有名な都市を挙げてください」と問われたら、パリやマルセイユ、リヨンなどと共に、このボルドーを挙げられる方も多いと思います。
このボルドー市内を流れるガロンヌ河は、貿易港として栄えた歴史、および三日月状に湾曲した独特の形状から「月の港」と称され、2007年にユネスコ世界遺産に登録されたことでも有名です。ワインを嗜まれる方にとっては、ブルゴーニュと名声を二分するこの地を、「ワインの都」として認識している方も多いのではないでしょうか。

そのワインの都に、2016年、『ラ・シテ・デュ・ヴァン LA CITÉ DU VIN』がオープンしました。
ボルドーが全精力を注ぎ設立した、この一大ワインミュージアムの魅力をご紹介します。


・『ラ・シテ・デュ・ヴァン』はなぜ作られた?

長い間このボルドーには、水鏡(注1)で有名なブルス広場Place de la Bourseや、サンタンドレ大聖堂Cathédrale Saint-Andréといった観光名所も数多く、また近隣のワイナリー巡りなどのアクティビティも盛んではあったものの、「ワインの都」としての魅力をアピールするようなまとまった大規模な施設はありませんでした。

 
(左)この日は冬期のため、残念ながら水は張られていない
(右)巡礼者の道にも選ばれているサン=タンドレ大聖堂


そんな中、1993年にエレーヌ・ルヴィユーHélène Levieux氏が、ボルドーワインに特化した体験型観光施設建設プロジェクト「シテ・デュ・ヴァン構想」を発足しました。しかし当時の地元ワイナリーからの賛同不足、政界の消極的な意見により構想は頓挫してしまいます。
1998年、この都に転機が訪れました。それまでフランスの首相を務めていたアラン・ジュペAlain JEUPEE氏がボルドーの市長に就任し、この問題に一石を投じたのです。
アラン氏は93年に発足した「シテ・デュ・ヴァン構想」を復活させようと試みますが、今度は資金面での大きな問題がクリアできず、進展がないままに時間だけが過ぎ去っていきました。


2008年、事態は急速に動き始めます。ボルドーワイン広報大使などを歴任していたシルヴィー・カーズSylvie CAZES氏が同プロジェクトリーダーに就任すると、プロジェクトは資金繰りや法的手続きなど様々な困難にさらされながらも、協力者を増やしながら大きく前進していきます。
2010年に建物のデザイナーの公募が始まり、113件もの応募の中から選考した結果、2011年にパリの建築事務所、ロンドンのデザイン事務所、カナダの技術エージェンシーの共同チームが建築担当に決まりました。
その後ルクセンブルグ大公国ロベール殿下やメセナ(文化支援)団体、EUの金銭的、文化的支援を受け、2016年の6月、『ラ・シテ・デュ・ヴァン』が完工、開館しました。


・『ラ・シテ・デュ・ヴァン』ってどんな施設?

直訳すると『ワインの都市』というこの施設、ボルドーのワインのみならず世界のワインについて、また古代メソポタミア文明より今日まで脈々と受け継がれてきたワインの歴史について幅広く学べる場所です。
何よりも特徴的なのは、従来の博物館のように文献や遺物の展示を訪問者がただ見て回るだけではなく、見学者自身がワインについて体験したり考えたりする仕掛けが随所に施されている点。これらの仕掛けにより、ワインに関連し派生する様々な事象を、インタラクティヴに学べる施設になっています。


ボルドーの街にはトラム、バス、水上バスと3種の公共交通機関があり、中でもトラムは各線約5分毎に、市内の主要観光地や市全体を網目状に走っています。
『ラ・シテ・デュ・ヴァン』へは鉄道の玄関口ボルドー=サン=ジャン駅からトラムを利用して25分ほどで到着します。(注2)


駅を出て周りを見渡すと特徴的なフォルムの建物が目に入りこむ



・入館したらまず何を?

中に入り有料エリアに入場する前に、ミュージアムスタッフのピエール氏に館内を案内・説明していただきました。

 
(左)先進的な建築物としての説明をしてくださるピエール氏
(右)うろこ状になっていて上層へと風を送る仕組み


まずは『ラ・シテ・デュ・ヴァン』の外観の説明をうかがいました。
ワインを酸素と触れさせるために、ボトルから移すデキャンタを模したこちらの建物は、木材=熟成用の樽、ガラス=ワイングラス、ステンレス=醸造タンクと、すべてワインに関連した素材で建てられています。流れるような流線型のデザインは、グラスに注がれたワインの流れを表し、金色に輝くそのいでたちはボルドーを流れるガロンヌ河に夕日が反射した際に一番映えるようにと、近代的ながらも歴史都市ボルドーにフィットするよう考えられています。
外に出て外延部を見渡すと、建物の壁がうろこ状に上に向かって設置されていることが分かります。この建物自体が大きな送風機の役割を果たしていて、夏にエアコンを使用しなくても、館内の気温を約5℃下げることが可能になっているそうです。


最新の建物であるからこそ、今全世界をあげての課題でもある、環境問題や「持続可能性」に対応した構造になっているのですね。




・有料エリアにはどうやって入るの?入ったらどう見たらいい?


『ラ・シテ・デュ・ヴァン』の神髄ともいえる有料の常設展示スペースには、ワインに関する膨大な資料や世界中の研究機関が関わっています。
事前に公式サイトでチケットを予約することも出来ますし、その場で購入することも出来ます。
公式サイトから日時指定での前売り券は20ユーロ、期間を指定せずいつでも入れる前売り券やその場で購入する当日券は25ユーロで販売されています。

 
「ジャポネJaponais(日本人)です」と告げ、日本語仕様のデバイスを受け取る


3000平方メートルに及ぶ展示スペースは6つのエリア、19個のモジュールに渡る広大なものですが、見学経路などが特に設けられていない点が特徴的です。見学者それぞれが、自分の興味の赴くままに自由に回ってほしいというコンセプトなのだそうです。展示物も、従来の一定方向型の博物館のそれとは異なり、五感を刺激し様々な工夫が凝らされた斬新な仕掛けに満ちています。

  
(左)スマートフォン型オーディオガイド「コンパニオン・ド・ヴォワイヤージュ」
(右)エリア内至る所に設置されたイヤホンマークにガイドを近づけると...


自動で動画や音声が流れ始める


有料の常設展示スペースは膨大な量になっていますので、次回にじっくり紹介していきます。


『ラ・シテ・デュ・ヴァン』には有料の常設展示スペースの他にも様々な無料ブースや、有料イベントが用意されています。


館内1階には展示スペースやオフィシャルショップ、ブラッスリーの他「ワインの図書館」と名付けられたワインショップも併設されています。ここでは世界90ヵ国、800の造り手のワインが販売されています。

 
(左)ブティックには800以上のワイングッズ
(右)手頃な価格のものから高級ワインまで多くの品ぞろえ


それぞれ飾られたボトルの横にはQRコードが用意されており、読み込むと専門家達で構成されたワインテイスティング委員会のコメントや、詳しいワイン情報を見ることが出来ます。


世界90ヵ国、延べ15000本のワインが所蔵されている


2階にある、5000冊ものワイン関連の膨大な書物が所蔵された図書スペースの入場料は、何と無料。「ワインは常に開かれたものでなくてはいけない」との思いから、誰でも無料で入ることが出来ます。

 
(左)常に無料で開放されている、街の住民の交流の場になることもあるそう
(右)日本の有名ワイン漫画のフランス語翻訳版も所蔵されていた


また館内にはテイスティングやワークショップのためのスペースも設けられており、そのテーマは多岐に渡ります。
例えば「ポリセンソリアル(多感覚)スペース」と名付けられた部屋でのワークショップでは、円形の部屋の壁360度全てがスクリーンになっており、照明を消した室内で世界各地の市場や風景が投影され、音を聞き、様々な香りが漂うその空間は、まるでその地に誘われるような感覚に陥りながらテイスティングを楽しむことができる造りになっていました。
写真のバンコクの市場の他には、サバンナの荒野やイタリアの市場など計4つのテーマでワインテイスティングを行いました。

  
(右)実際に参加した「グラスをもって世界の市場を巡る」というワークショップ


2本目の試飲テーマの「バンコクの市場」


他にも、ワインをもっと楽しんでもらうために、堅苦しくなくかみ砕いてワインを説明してもらえるディスカバリー・ワークショップや、逆にとことんまで突き詰める上級者向けの少人数制ワインテイスティング。
ワインはどのように作られているのかをゲーム形式で理解したり、、チョコやお菓子などの食材に、大人にはワイン、子供にはワインに適した品種から作られた甘くないぶどうジュースでの組み合わせを楽しむ親子向けの食育ワークショップなど、様々なテーマが用意されていました。テイスティングやワークショップは有料で、事前予約が必要です。


250名を収容する大講堂では研究者によるプレゼンテーションやラウンドテーブル・ディスカッション、映画鑑賞会やコンサートなどが定期的に開催されています。


施設の7階には展望レストラン『ル・セット le 7 』があり、昼のメニューは25ユーロ、夜のメニューは45ユーロから楽しむことが出来ます。
特徴的なのはそのワインリスト。従来の紙媒体ではなくタッチ式のデバイスが用意されており、興味のあるワインの画像に触れると、そのワインに関する詳細情報を見ることが出来ました。
このレストランはボルドー近辺で6軒のブラッスリーを経営するニコラ・ラスコンブNicolas Lascombes氏によってプロデュースされています。

  
(左)ボルドーの景色を一望しながらガストロノミーが楽しめる
(中)ワイン注文専用のタブレット、クリックすると...
(右)生産者の思いやワインの品種、どのような料理に合うかなどが閲覧できる


この日の昼のメニューは黒米のクリーム、シロイトダラのポワレ


また館内には観光案内所があり、ワイナリー見学の予約や水上バスツアーを予約することができます。


『ラ・シテ・デュ・ヴァン』にはこのように様々な施設が用意されており、壮大な常設展示だけでも急いで回れば2時間、じっくり見学するのであれば半日は必要だと感じました。訪れる際は、まる1日の余裕を持って行かれる事を強くお勧めします。


次回はその展示スペースの全てをご紹介いたします!



※1ユーロ=125円(2019年2月現在)

注1: 水鏡
ミロワール・ドー。2006年に景観作家のミシェル・クラジュー氏が作成。3450㎡という世界一の大きさを誇り、ボルドーで1、2を争う人気の観光スポット。敷石の上に水が張られ、ブルス広場の税関吏岸が反射し、幻想的な光景を生み出す。年間の内、3月中旬~12月上旬の午前10時~午後10時まで実施。

注2: ボルドー鉄道駅から『ラ・シテ・デュ・ヴァン』へのアクセス補足情報(※2018年12月の情報です)

①本文中で紹介したボルドーの街の3種の公共交通機関は、駅の券売機や街中のタバコ屋で販売している共通チケットで利用することができます。

 
(左)トラムでボルドー中に行くことが可能
(右)券売機はほぼ全ての駅に設置されている

チケットには1日券(4.70ユーロ) 、1回券(1.60ユーロ) など、様々な種類があります。滞在時間等により使い分けるとよいでしょう。


②ボルドー=サン=ジャン駅(Gare de Bordeaux-Saint-Jean)からの最短アクセス:
1 トラムC線(パークエキスポスタッドParc EXPO-Stade方面行き)乗車
  ⇒カンコンスQuinconces駅で下車
2 カンコンス駅でトラムB線(ブルジュ=ドゥ=ラ=ガロンヌBourges de la Garonne駅行き)乗車
  ⇒ラ・シテ・デュ・ヴァンLa Cité du vin駅で下車


取材協力
La Cité du Vin
住所: Esplanade de Pontac, 134 quai de Bacalan,33300 Bordeaux, FRANCE
電話: +33 (0) 5 56 16 20 20
URL: https://www.laciteduvin.com/fr (入場チケットの購入もこちらから行えます)


参考書籍
『Cité du vin, un monde de cultures』 著:VIGNEAUD Jean-Paul  刊:Sud-Ouest社

担当者情報

このコラムの担当者

三浦 拓真 MIURA TAKUMA

■現職(肩書き)
エコール 辻 東京 西洋料理担当

■出身校
辻調フランス校 シャトー・エスコフィエ

■経歴
岩手県岩手郡岩手町に生まれた生粋の岩手人

バックナンバー

2009年8月まではこちら
2009年9月からはこちら