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食のコラム&レシピ

【とっておきのヨーロッパだより】暑い!熱い!スペイン、アンダルシア

12<海外>とっておきのヨーロッパだより

2012.09.21

<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>

フランスでは7月になると、バカンスシーズンの到来。太陽を求めて南、南へと大移動が始まります! もちろんフランス校で働く私達も例外ではなく、行先は当然!? 太陽を求めて南ヨーロッパ、太陽と情熱の国スペインへ。目的地はスペイン最南端アンダルシア地方セビーリャ。フランス校から車で約17時間、走行距離約1800km。途中、オレンジで有名なバレンシア地方ガンディアへ。もちろん名物のバレンシア風パエリャと、フィデウア(お米の代わりに細くて短いパスタを使ったパエリャ)を頂きます。

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シンプルだが、魚介の味がとっても濃厚

「やっぱり本場は違うな♥」と小さい幸せを感じながらさらに南下。そしてアンダルシア地方へ突入!セビーリャに向かう途中、アルハンブラ宮殿で有名なグラナダへ。ここでは郷土料理であるアホ・ブランコ(アーモンドとニンニクを使った冷たい白いスープ)とサルモレホ(濃厚なトマトとパプリカの冷たいスープ)をもちろん堪能。「ムイ・ブエノMuy Bueno!!」(スペイン語でおいしい!の意)すでに気持ちはスペイン人です。

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(左)アーモンドの風味でさらっとしていて暑い日にお勧め

(右)カスエラと呼ばれる器に盛られ供される

いよいよフラメンコと闘牛の発祥の地セビーリャへ到着。太陽が暑い、熱い!この時の気温は39℃。ギラギラと照りつく太陽が痛い!!まずは当然バルBarへ。バルはスペイン人の生活には欠かせない場所で、酒場・レストラン・カフェの機能を兼ね備えています。バルでの楽しみと言えば"タパスTapas"。スペイン語では本来、ふた等を意味しますが、現在では主に、バルなどで供される小皿料理の事をさします。このタパスには非常に沢山の種類があり、バルごとに味の違いを楽しめます。

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10種類以上のタパスが並ぶ

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(左)トルティジャ・デ・パタタス(じゃがいものスペイン風オムレツ)

(右)ペスカドス・フリトス・ア・ラ・アンダルーザ(アンダルシア名物カリッと揚がった魚のから揚げ)

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(左)サルピコン・デ・マリスコス(オリーブ油とシェリー酒酢風味の魚介のマリネ)

(右)ガンバス・アル・アヒージョ(にんにくと唐辛子の風味のきいた小エビのオイル煮)

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(左)サルディナス・デル・カンタブリカ・エン・アセイテ・デ・オリバ(片口いわしの酢漬け)

(右)スペインの生ハムと言えばハモン・セラーノ

バルに入ると、お昼からタパスと共にビール等のお酒を楽しんでいる人達が大勢。シエスタ(長めのお昼休憩)の習慣が残る地方ならではかもしれませんね。もちろんお昼時だけではなく、夜の食事の時間が遅いスペインでは夜中遅くまで陽気に飲んでいる人々の姿が多く見られます。

そんなバルで多くの人たちが飲んでいるお酒の1つが ヘレスJerez(シェリー酒)。これはアンダルシア地方カディス県のヘレス・デ・ラ・フロンテーラJerez de la Fronteraという街で生産される酒精強化ワインで、スペインではD.O.(注1)に分類され、正式名称はヘレス・ケレス・シェリー・イ・マンサニーニャ・サンルカール・デ・バラメダJerez-Xérès-Sherry y Manzanilla-Sanlúcar de Barramedaと言います。ブドウの房と実が大きく、糖分を多く含んでいるパロミノ種と、果皮が薄く実が柔らかなため、使用する際には天日に干し、果汁を濃縮してから醸造するペドロ・ヒメネス種という2種類のブドウを原料とします。作られるシェリー酒の95%がパロミノ種を原料とし、この種は辛口のドライなタイプのシェリー酒を作るのに使用されます。逆にペドロ・ヒメネス種は果汁を濃縮してから作られる為、非常に甘味が強く色も濃い甘口タイプのシェリー酒を作るのに使用されます。ヘレス・デ・ラ・フロンテーラのあるカディス県は石灰質の土壌をもち、パルミノ種の栽培に適しており、多く使用されています。

今回は、日本でも"ティオ・ペペTío Pepe"の名のシェリー酒で知られているゴンザレス・ビアスGonzález Byass社へ行ってきました。ヘレス・デ・ラ・フロンテーラまではセビーリャから車で約1時間。街路には白やオレンジ色の家壁、ヤシの木が立ち並び、まさに南国。その街中に、ゴンザレス・ビアス社はあります。

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(左)ヘレスの村
(右)正面入り口

ゴンザレス・ビアス社は1835年創業。広大な敷地の中にいくつもの建物や中庭があります。この建物群は、その昔はビアス家の夏季バカンスの避暑地として作られたものだそうです。早速、中に入り、赤い小さな列車に乗って、シェリー酒の製造工程の説明を聞きながら見学。

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見学者用の小さな列車

シェリー酒造りは、ワインと同じようにまずブドウ果汁を発酵させるところから始まります。発酵途中にブランデーを加えて発酵を止めた後、樽に移され、さらに新しいシェリー酒と古いシェリー酒をブレンドするソレラ・システム(注2と呼ばれる独特な熟成方法で作られます。

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貯蔵庫内の貯蔵用の樽

さらに普通のワイン作りと違うのは、ブドウの発酵が終わった後に樽で貯蔵する際に、わざと空気に触れさせ、表面にフロール(花という意味)と呼ばれる酵母の膜を発生させる点です。この膜が発生することにより酸化熟成が緩慢になり、シェリー酒独特の風味を作り出します。このフロールを発生させる前の段階で「ベネンシアドール」(注3と呼ばれるシェリー酒のソムリエによってテイスティングが行われ、色が淡くデリケートなものをフィノに、それよりも色が濃く味わいがしっかりしたものをオロロソに製造していきます。こうして様々な風味の違うタイプのものが作られます。

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樽内のフロールの状態

シェリー酒のタイプは大きくフィノFino、アモンティヤードAmontillado、オロロソOloroso、クレアムCreamの4つに分けられ、それぞれの風味を作り出すために、酒精強化(ブランデーなどのアルコールを加え、一定のアルコール度数にする事)を行ったり、熟成期間の違いをつけています。通常熟成期間は最低でも3年ですが、その熟成期間には同じカテゴリーのものでも幅があり、長いものだと100年熟成の場合もあります。

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フィノ

原材料はパロミノ種。アーモンドの香りを思わせる、フレッシュな辛口。アルコール度数は15~18度。熟成期間は最低3年。

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アモンティヤード

原材料はパロミノ種。3年~5年でフロールが消滅した後もさらに熟成を続け、フィノよりも熟成味を出す。へーゼルナッツのような香り。アルコール度数は16~22度。熟成期間は3年以上。

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オロロソ

原材料はパロミノ種。フロールを発生させずに作られるタイプ。酸化させながら熟成させる。クルミのような香り。アルコール度数は17~22度。熟成期間は約15年ほど。

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クレアム

オロロソを長期熟成し甘みを加えたもの。色も濃度も濃く、しっかりとした味わい。アルコール度数は15.5~22度。熟成期間は15年以上。

それぞれのタイプに大きな特長があり、当然合う料理も変わってきます。見学後、シェリー酒を試飲。やはり全く味わいが違う!思わず、全タイプのシェリー酒を購入してしまいました。

旅行から戻った後、早速、シェリー酒に合わせて料理を作ってみました。サッパリとした辛口のフィノに合わせてタパスを4種類。

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(左)パプリカや、玉ねぎ、なす等をじっくりと焼いてオリーブ油に漬けたエスカリバダ

(右)イカのフリトス(左)、シャンピニヨンのアヒージョ(中)、アホ・ブランコ(右)

ペドロ・ヒメネス種のブドウ100%で作られた、超極甘口のシェリー酒に合わせてフォア・グラのテリーヌとバニラアイスを。

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(左)シェリー酒のジュレで固めたフォワ・グラのテリーヌ

(右)バニラアイスクリームに超極甘のシェリーをかけて

どの料理もシェリー酒とよく合いましたが、特にこの甘口のシェリーとフォワ・グラの相性は絶品でした。スペインで出会った人々に聞いてみたところ、皆、声をそろえて、「スペインに来て、シェリー酒を飲まないなんて!」と言っていましたが、スペイン料理によく合い、味わいも深いシェリー酒は、やはり飲むべき価値のあるお酒であると実感しました。

アンダルシア地方でたくさんのバルを食べ歩きましたが、まず一番印象に残っているのは、バルで食事(やお酒)を楽しんでいる人達の楽しそうな笑顔とおしゃべりです。料理のテクニックはとてもシンプルながら、それぞれの食材の味を十分に引き出しています。味付け的には、暑い気候も関係してか、にんにくやオリーブ油を多用した冷たいスープ料理、地中海の魚介をシンプルに揚げた料理などが多く見られました。見た目の豪華さ(華やかさ)はあまりないものの、素朴で飾らない、おいしい料理ばかりでした。

アンダルシアの人々の陽気で気さくな人柄に触れながらバルで食べるタパスや、発祥の地であるフラメンコなどの芸術に触れながら過ごした旅は本当に楽しく、あっという間に過ぎて行きました。

是非一度、皆さんもアンダルシアを旅して、タパスとシェリー酒を楽しんでみませんか!

*注1 デノミナシオン・デ・オリヘン(原産地呼称)の略称。スペイン国が定めた厳しい基準に基づいて生産されたワインの生産地のみが名乗ることができる名称。

*注2 ブレンドするシェリー酒の入った樽は大体3~4段に積み重ねてあり、1番下の樽のシェリー酒が古く、上の樽になるほど新しくなります。その1番下の樽の事を"ソレラ"と呼ぶことがこのシステムの名前の由来となっています。

*注3 ベネンシアドールがテイスティングの際にシェリー酒を注ぐ柄の長いグラスの事を"ベネンシア"と呼ぶことが由来となっています。