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【とっておきのヨーロッパだより】芳醇なオレンジリキュール!コアントローの魅力

12<海外>とっておきのヨーロッパだより

2020.10.23

<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>


皆さんは「コアントロー Cointreau」というお酒をご存じですか?

オレンジを原料としたリキュールで、爽やかなオレンジの香りとすっきりとした甘みが特徴です。この四角くて琥珀色のボトルを、皆さんもお酒売り場などで見たことがあるのではないでしょうか。

コアントロー


パティシエ(菓子職人)である私にとってコアントローは、ショートケーキやムースを作る際に使ったりと職業柄とても馴染みのある洋酒ですが、普段あまりお酒を飲むことがないため、お菓子作り以外には使用することがありませんでした。
しかし、以前飲んだコアントローのカクテルの美味しさに魅了され、コアントローについてより深く知りたくなり、その歴史について調べてみました。


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19世紀半ば、フランスのアンジェでコンフィズリー Confiserie(砂糖菓子製造業)を営んでいたアドルフ・コアントローは、地元で高い評判を受けていました。高い技術と、確かな経験を持つアドルフは新たな挑戦に誘惑されます。

アンジェは果物が豊富な土地であり、果物を使用したリキュールは消費者から高い需要を得ていました。家業をリキュールにまで拡大することを決め、当時地元で人気のあったさくらんぼのリキュール「ギニョレ Guignolet」(注1)から出発し、徐々に他の果物のリキュールも生産していきました。そのフレーバーは50種類以上にものぼり、地元の果物という枠を大きく超えることになります。

アドルフの弟であるエドゥアール・コアントローも家業に加わり、こうしてコアントロー兄弟の蒸留所は大きな飛躍を遂げることとなります。

1875年、エドゥアール・コアントローは、妻であるルイーザと共に事業を継ぎます。
野心家なエドゥアールは蒸留に関する知識を完璧にするため、ヨーロッパ中を巡りました。当時、お酒といえば男性が嗜むブランデーやウイスキーが主流だったことから、女性でも楽しめるようなエレガントなリキュールを造ろうと考えます。

一方妻であるルイーザは、第一次世界大戦中に負傷した兵士のために病院を開設したり、女性従業員を積極的に雇用して女性の社会進出に貢献したりと活躍します。その功績が認められ、1929年にはフランス最高の栄誉である「レジオン・ドヌール Légion d'honneur 勲章」(注2)を受章しました。

エドゥアールは、当時希少価値が高く、未知の可能性を秘めていたオレンジに注力します。そして1875年、遂に繊細な香りと驚くべき透明度のリキュールを完成させ、販売します。当時の他のリキュールよりもフレーバーは3倍濃縮され、甘みが抑えられていました。様々な博覧会に出品し、約50の国際賞を受賞します。最も有名なものは、1889年に行われたパリ万国博覧会にて、銅製蒸留器の一つと、リキュールの品質の良さにより受賞した2つの賞でしょう。

こうしてコアントローは、世界中にその味と名を定着させていきました。

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こういった歴史を経て、世界中の人々から愛されるリキュールとなったのですね。

そしてカクテルや製菓業界に欠かせぬリキュール「コアントロー」は、実は世界でただ1か所、アンジェにある「カレ・コアントロー Carré Cointreau」という蒸留所でしか製造されていないことが分かりました。創業当時から同じ環境が保たれており、ここで造られたものだけしか「コアントロー」ブランドを名乗ることができないのです!

ではいよいよ、今回の旅の目的である蒸留所への訪問です!


カレ・コアントローはフランスの北西部、川と古城が織りなす風景が美しいロワールという地方にあります。フランス校のあるリヨン郊外からは約500㎞、車で6時間程の場所にあります。アンジェといえば、まるで要塞を思わせる外観の「アンジェ城」や、軽やかな生クリームと赤いソースが相性抜群の郷土菓子「クレメ・ダンジュ Crèmet d'anjou」などで有名です。

アンジェ城 クレメ・ダンジュ
(左)アンジェ城
(右)クレメ・ダンジュ

蒸留所にはアンジェの中心地から車で15分、バスに乗って20分ほどで行くことができ、最寄りのバス停のすぐそばに、コアントロー COINTREAUの文字が書かれた大きな看板が見えます。



ここでは一般向けに工場見学を実施しており、現地のフランス人ガイドの案内で見学ができます。開催日時が決まっており事前予約が必要ですが、日本語が表示されるタブレットの貸し出しを行っているので言葉が不安な方でも気軽に参加することができます。

入口に入るとまず、コアントローの風味を左右する重要な素材であるオレンジピールの紹介コーナーがあります。コアントローは、世界各国から厳選したスイートオレンジとビターオレンジを材料とし、フレッシュなものと乾燥させたもの、両方のオレンジピールを使用しています。乾燥させたオレンジピールは、割るとより一層香りが増します。


オレンジピールの紹介コーナー
オレンジピールの紹介コーナー


次に、オレンジの香り漂う蒸留所へ。
ここでは1889年に行われたパリ世界博覧会で受賞した銅製蒸留器を見ることができます。
コアントローは創業当初から今まで全く同じ製法が受け継がれており、原料となるオレンジの乾燥させた果皮と生の果皮を漬け込んだアルコールを蒸留して造ります。
オレンジピールの選別から乾燥、理想的なアロマを引き出すブレンディング、そして銅製蒸留器による仕上げまで、現在ではマスターディスティラー(注3)が管理しているそうです。

銅製蒸留器
銅製蒸留器

製造過程の次は歴史を学びます。
展示コーナーにて、ガイドさんがコアントローについての様々な起源を説明してくれます。

トリプルセックという言葉を聞いたことがあるでしょうか。
比較的甘みを抑えたホワイトキュラソー(注4)のことを指す言葉ですが、もともとの起源はコアントローから来ています。フランス語から直訳すると「3倍辛い」という意味です。
「なぜ甘味を抑えたリキュールを造ったのか?」尋ねたところ、当時完璧なオレンジリキュールを目指していたエドゥアール・コアントローは、様々なオレンジリキュールを試飲していましたが、それらのほとんどが洗練されておらず、甘すぎると考えていたからだそうです。

彼は様々な品種のオレンジの皮を持ち帰り、それらを組み合わせて完璧なバランスのオレンジリキュールを完成させました。そしてオレンジのアロマが3倍濃縮され、他の製品よりもはるかに甘みを抑えた意を込め、トリプルセックと名付け、売り出します。

完璧な芳醇バランスと透明度のトリプルセックは革命的であり、世界中の消費者を魅了したそうです。



当時のトリプルセックのラベル

広告に強い関心を持っていたエドゥアールは、自身のブランドを強力にリンク付ける広告戦略を練っていました。
1899年には、フランスの映画発明者で映画の父と呼ばれるリュミエール兄弟にCM制作を依頼し、世界で初めて、映画館での広告の上映会を行いました。また、1902年にはアンジェで巨大なボトルを荷台に乗せた宣伝車を走らせ、現代のラッピングカーの原型とも言えるキャンペーンも実施しています。
そして社内には広告用スタジオを設け、当時の有名なポスター画家、ニコラ・タマーノによっておなじみのキャラクター「ピエロ・コアントロー」が誕生しました。


廊下に展示されている「ピエロ・コアントロー」


私は他のお酒にはない、コアントローの特徴的な四角いボトルが可愛くて気に入っています。
エドゥアールはリキュールだけでなくボトルにもこだわったそうです。
彼は市場で競合する製品から目立つように、そしてリキュールと同じくらい個性的なボトルで差別化しようと考えます。当時派手で風変わりなフラスコ形のボトルがたくさんありましたが、彼は逆に正方形で地味な形、そして消費者を驚かせるため中身の見えづらい琥珀色のボトルを選びました。


創業当時から変わらない四角いボトル


こうしてブランドとボトルの商標登録を行い、このボトルは彼の会社唯一のものであることを明記しましたが、すぐにたくさんの類似品が出回ったため、彼は「トリプルセック」の名を自身の名前である「コアントロー」に変更しました。数年前まではこのガラス製のボトルでの販売でしたが、現在ではパティスリーなど大量に仕入れる業者のために、プラスチックのボトルでの生産も行っているそうです。

ところで、皆さんは「グラン・マルニエ GRAND MARNIR」というお酒を知っていますか?
製菓業界ではよく使われるオレンジのリキュールで、こちらはリキュール自体が琥珀色をしています。
同じオレンジのリキュールですが、透明なコアントローと、琥珀色のグラン・マルニエの違いは何なのでしょうか?ガイドさんに尋ねたところこんな回答がありました。

それは原材料と製造方法の違いで、コアントローはオレンジの果皮、アルコール、水、砂糖の4つの材料だけを使って造るのに対し、グラン・マルニエはブランデーの一種であるコニャック Cognac(注5)をベースに、オレンジの蒸留エキスを加えて樽熟成させたものだそうです。だからグラン・マルニエにはコニャックの琥珀色が付いているのですね。おかげでスッキリしました。

グラン・マルニエは、コアントローよりもオレンジの苦みを強く感じます。加熱しても風味が残りやすいのが特徴なので、熱々のスフレ Souffléやケック Cake(パウンドケーキ)などの焼き菓子に使用するのが私のおすすめです。

一方コアントローは、無色で爽やかな香りが特徴のため、色を付けたくないもの、例えばショートケーキのシロップに加えたり、生菓子に使用したりするのもおすすめです。


歴史を学んだあとには、上記にも説明したコアントローの類似品の展示コーナーがあります。
写真の撮影は禁止されていたためお見せすることができませんが、その圧倒的な数に驚きました。当時、いかにコアントローが消費者から人気であったかが伺えます。
見学ツアーの最後は、工場に併設されているバーで試飲会を行いました。カクテル作りの体験をしたり、同じ見学者の皆さんと話したりしながらとても楽しい時間を過ごしました。

見学の後はショップで買い物です。
アンジェの中心地にもコアントロー商品は売っていますが、この工場でしか買えないものもたくさんあります。ショップで買い物するだけでも、工場に行く価値が十分にあると思います。

実際に私が購入した商品の一部をご紹介します。


コアントロー・ユニック COINTREAU L'UNIQUE 700ml 40%



まずは看板商品のコアントロー・ユニックです。(注6)


コアントロー・ブラッド・オレンジ COINTREAU BLOOD ORANGE 700ml 30%



スイート、ビター、そしてコルシカ島(注7)産ブラッドオレンジの3種の果皮を合わせた、新しいコアントローです。(注8)


コアントロー・ノワール COINTREAU NOIR 700ml 40%


「コアントロー」と「レミーマルタン Rémy Martin」(注9)というコニャックがブレンドされた商品です。クルミとアーモンドをじっくり漬け込み、より洗練された複雑なアロマに仕上げています。(注10)


私は日本では最初にご紹介したコアントロー・ユニックしか見たことがなかったため、新しい商品があったことにとても驚きました。
それぞれの商品をロックで飲んでも十分に美味しいですが、カクテルにするとまた飲みやすく、様々な味わいを楽しむことができます。工場見学の試飲コーナーで飲んだカクテルがとても美味しかったので、そこで教わったレシピを文末でご紹介していますのでぜひお試しください。

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いかがでしたでしょうか?
今回の取材で、コアントローの新たな商品や楽しみ方を発見することができました。今後お菓子作りや新しいカクテルレシピなどに活用していきたいと思います。そしてアンジェを訪れる機会があれば、ぜひこのコアントロー蒸留所に立ち寄り、コアントローの魅力や美味しさを見つけてみてください。





注1:ギニョレ
さくらんぼの蒸留酒であるキルシュに、さくらんぼジュースと砂糖を加えて造ったさくらんぼのリキュール。
注2:レジオン・ドヌール勲章
フランスの最高勲章。軍事、文化、科学、産業、商業、創作活動などの分野において卓越した功績を残した者に授与される。
注3:マスターディスティラー
蒸留物責任者。現在は6代目マスターディスティラーのキャロル・カントンがコアントローの知覚を守っている。
注4:ホワイトキュラソー
樽熟成しない無色透明のキュラソー。キュラソーとは、オレンジの果皮を使用して造るオレンジリキュールのこと。
注5:コニャック
果実を発酵させた後に蒸留し、樽などで熟成させた蒸留酒。主にブドウを原料としたものが多い。
注6: コアントロー・ユニック
厳選したスイートオレンジとビターオレンジの2種類の果皮を使用したオレンジリキュールで、エッセンシャルオイルの含有量はオレンジリキュールの中で最も高い。口に含むとシンプルで爽やかなオレンジが香り、すっきりとした甘みを感じる。
注7:コルシカ島
またはコルス島。地中海西部、イタリア半島の西に位置するフランス領の島である。 総面積8,700平方キロ、人口は約30万人である。
注8:コアントロー・ブラッド・オレンジ
爽やかなオレンジが香り、コアントロー・ユニックよりも少し甘めでオレンジをしっかりと感じる。アルコール度数が低めで飲みやすい。
注9:レミーマルタン
1724年にコニャック地方の若い醸造家、レミーマルタンが自らの名前を冠して販売した。最上級の土壌であるグランド・シャンパーニュと、これに次ぐプティット・シャンパーニュを合わせたフィーニュシャンパーニュで造られた最高級コニャック。レミーマルタン社とコアントロー社は1990年に統合し、レミー・コアントロー社が誕生した。
注10:コアントロー・ノワール
透明なコアントローとは違い、ノワール Noir (黒)はその名の通りリキュール自体に色が付いている。重厚なコニャック中にオレンジのアロマが感じられ、少しビターでまったりとした味わい。



■カクテルレシピ■


●コアントロー・ユニック+レモン+炭酸水



(カクテル一杯あたり)
50ml.........コアントロー・ユニック
20ml.........フレッシュレモンジュース(1/2個)
100ml.........炭酸水
氷をたっぷりといれたグラスにコアントロー、フレッシュレモンジュースを注ぎ、炭酸水で満たします。
一番シンプルな飲み方ですが、コアントローの爽やかな風味をレモンが更に引き立てています。


●コアントロー・ブラッド・オレンジ+ライム+炭酸水



(カクテル一杯あたり)
50ml.........コアントロー・ブラッド・オレンジ
20ml.........フレッシュライムジュース
100ml.........炭酸水
氷をたっぷりと入れたグラスにコアントロー・ブラッド・オレンジ、フレッシュライムジュースを注ぎ、炭酸水で満たします。
コアントロー・ブラッド・オレンジはもともとアルコール分30%で他のコアントロー商品に比べて低めなので、カクテルにするとさらに飲みやすくなります。
オレンジの香りとライムの香りが絶妙にマッチし、少し甘くて女性に人気のカクテルで、私の一番のおすすめです。


■取材協力 ■
Carré Cointreau
住所:2 Boulevard des Bretonnières, 49124 Saint-Barthélemy-d'Anjou
電話:02 41 31 50 50

■参考文献 ■
Cointreau l'unique

■参考サイト■
レミーコアントロージャパン

担当者情報

このコラムの担当者


合田 桃子 GODA MOMOKO

■現職
エコール 辻 東京 洋菓子担当
※執筆時は、辻調グループ フランス校(レクレール校)勤務

■出身校
辻製菓専門学校

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