新田 勝美さん 「Le Petit Verdot(ル・プティ・ヴェルド)」
新田 勝美 NITTA Katsumi
大阪・辻調調理師専門学校 1987年3月卒業
フランス校 シャトー・ド・レクレール フランス料理研究課程 1987年 秋コース卒業
研修先:Claude Lutz(クロード・リュッツ)<ローヌ・アルプ地方>
Le Petit Verdot(ル・プティ・ヴェルド) 料理長
75 Rue Cherche Midi 75006 PARIS
http://www.le-petit-verdot.com/
『やっぱりフランスは常に「本場」です』
フランス校卒業生の新田勝美さんが料理長を勤めるお店は、パリ6区にあるフランス料理店。フランスで活躍する
日本人ソムリエの先駆け的存在・石塚さんが経営するお店として知られ、ワイン好きが集まる隠れ家的なお店です。
フランスで働くのは今回で3回目という新田さんにフランスによせる思いを聞いてみました。
■これまでの経緯をおしえてください。
初めてフランスで働いたのはフランス校在学中の研修でした。帰国後、東京の「レストランひらまつ」に就職して、
そこで15年間勤めました。その間、本当にたくさんのグループ店の立ち上げに関わることができました。
これは本当に貴重な体験だったと思います。
そして2001年のパリ出店の際にスーシェフとしてパリに渡り、3年後に退職。再び日本に戻り約10年間で
様々なレストランのシェフをやってきました。そんなとき、かつての同僚で10年来の友人でもある現在のお店の
オーナーに、シェフとしてフランスに来ないかという話をもらったんです。
長年フランス料理をやってきましたが、フランスはやはりフランス料理をやっている人間にとっては、
常に「本場」なんですよね。僕自身もそろそろまた行ってみたいな、と考えていたときでした。
いろんな条件が揃ったタイミングだったんだと思います。
■現在のお仕事の内容を教えてください。
ここは客数が最大で25名ほどのお店ですので、厨房は僕ともうひとりの料理人の2名で担当しています。
私はシェフとして、食材の発注から、仕入れ、メニュー提案まですべてやっていますが、サーヴィスもオーナーが
ひとりで担当していますので、必要に応じて自らテーブルに料理を運ぶことも多いんです。
お客さんとカオを合わせることが多いので、直接お客さまから料理の感想をきく機会もあります。
すごくほめてもらったりすると、ますますやる気が出ますね。
ストック場所が限られていることもあって、食材はきっちりと使い切れるように、いつも新鮮な食材がつかえるよう
気をつかっています。朝は毎日市場に買いに行きます。その日に入った食材でメニューを変えることも多々あります。
■現在のお店の料理の特徴やスぺシャリテは?
僕の目指す料理は、盛りつけこそ、美しく、目でも楽しめるように工夫していますが、どちらかというとクラシックなものです。
食材自体をがつんと味わってもらえるように、薄くきったり、削ったりとかいうことをせず、たとえば、肉なら焼いて半分に
切る、温かいうちに出す、そんな感じの料理です。
自分の経験と感覚で焼き加減をはかりながら料理をつくる、それがおもしろいと思っています。
また、オーナーがソムリエでもありますので、ワインファンのお客様もたくさんいらっしゃいます。ワイン好きの常連さんの
なかには、とても貴重なワインを持ち込んで飲ませてくれることもあって、最近はそれが密かな楽しみだったります(笑)
(写真右)料理名: Ballotine de pigeon ramier et boudin noir, puree de pommes
■フランス校時代の思い出をきかせてください。
実は、辻調理師専門学校に入学したときから、フランス校に行くと決めていました。フランス校があったから
大阪の辻調に入学したとも言えますね。
1年目の辻調在学中は、フランス校進学を目標に、精勤賞をもらえるくらい休まずに出席して学んでいました。
そして、ついに到着したフランス校は私にとって初めての海外生活。フランスどころか海外旅行にすら行ったことは
ありませんでしたから、フランス校での留学生活は毎日なにもかもが新鮮でした。
フランス校の授業はレストランシミュレーションでしたので、あらかじめ材料もなにもかも用意されている状態から
みんなで料理をつくるのではなく、材料揃えから下処理まで、全部自分でやらなければなりません。
とても勉強になりました。あと、フランス校で仲間達と週末に飲んだワインのおいしさは今も忘れられません。
それ以来、ワインが大好きになりましたから。
■スタージュ(研修)中の思い出をきかせてください。
研修はローヌ・アルプ地方の1ツ星「クロード・リュッツ」というホテルに併設のレストランでした。
研修先に到着したときは、一瞬ものすごく孤独に感じて、今でもそのときのさびしかった感覚を強烈に覚えています。
フランス校ではフランス人の先生も学生を意識してゆっくりフランス語を話してくれていましたし、日本人の先生のサポートも
ありました。ただでさえ勉強不足なのに、電子辞書やネットの翻訳なんかもなかった時代ですから、小さなポケットサイズの
辞書を忍ばせて、ひたすらその辞書をたよりにコミュニケーションしていました。
言葉もできない若い研修生でしたので、メインの重要な作業はなかなかやらせてもらえませんでしたが、
それでもいろいろな仕事をさせてもらえて本当に面白かったです。
同学年かもっと若いアプランティ(見習い生)もたくさんいて毎日わいわいやっていましたね。
魚の処理なんかは学校で勉強して自分でも得意なほうだったので、フランス人の彼らに逆に教えたりしていました。
困ったことといえば、フランスには砥石というものがなくて、厨房の包丁がどれも切れが悪かったこと。
手を切らないように注意したことを覚えています。
母校フランス校にも来校。学生たちに熱いエールを送ってくれました。
■仕事で常に心掛けていることと今後の目標をおしえてください。
これは料理人を目指す人全員に伝えたいことでもありますが、ずばり、病気にならないことです!
病気になると味覚も変わってしまいますし、今の私のようなポジションですと自分が倒れたらもうお店自体が
営業できなくなります。
おいしさだけでなく、衛生管理を怠らず、お客様に安全なものをお出しすることが、料理人の責任だと思っています。
また、私は人の2倍3倍働いて、ようやく1人前になれると考えています。
人のいやがるような仕事こそ率先してやるようにしています。技術だけでなく精神面も磨くことが大切だと思っています。
今後は、もうパリに1店舗くらいお店が展開できるように、いろんな面を拡張させていきたいですね。
■フランス校を目指す後輩達へのメッセージ
フランスにくれば日本にない食材を扱えます。
フランスも日本と同じように季節によって旬の食材が明確に違います。
四季を大切にしながらも、表現の仕方が全然違うので学ぶことは山ほどあります。
まずはフランス文化に興味をもって、好きになってください。
そしてできれば、自分がこれから行くフランスのことを多少は勉強してきてください。
また基礎をしっかり勉強してきてください。基礎がないと発展させることはできません。