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食のコラム&レシピ

【とっておきのヨーロッパだより】意外と知らない、本場ドイツの3つのバウムクーヘン

12<海外>とっておきのヨーロッパだより

2013.08.02

<【とっておきのヨーロッパだより】ってどんなコラム?>

ドイツ菓子と聞いて、みなさんが思い浮かべるお菓子はなんでしょうか?? 私が小さい頃から知っていたドイツのお菓子といえば、「バウムクーヘン Baumkuchen」でした。ドイツ語でバウムは “木” を意味し、クーヘンは “お菓子” を意味しますが、その名の通り、重なった生地の断面が、木の年輪のように見えるのが特徴的なお菓子です。
バウムクーヘンの様に、生地を棒状のものに塗りつけながら直火で焼くお菓子は、中世ヨーロッパでは、既に登場していました。15世紀後半に出版された書物(注1)の中には、シュピースクーヘン Spiesskuchen(「焼き串で焼いた菓子」の意)と記されています。
しかし、「焼き串で焼いた菓子」という部分はよく似ているものの、生地は固く、焼き上がりは現在のバウムクーヘンとは、随分と違っていたようです。1581年に刊行された文献(注2)をみると、それまでは紐状の生地を巻きつけていたものが、平らに大きく伸ばした生地を棒に巻きつけて焼くように変化していったようです。
18世紀頃、ヨーロッパ諸国が、大航海時代に進出した熱帯地方の植民地にサトウキビの栽培を行わせたことや、フランスやドイツなどで砂糖の精製技術が著しく進歩したことで、それまで非常に高価だった砂糖は、徐々に一般的な甘味料として浸透していきました。砂糖をたくさん使用できることで、菓子職人は様々なお菓子を作ることが可能になりました。
1769年に発行された料理書(注3)に新しいタイプのお菓子としてバウムクーヘンを紹介していることから、バウムクーヘンはこの時代に誕生した可能性が高いようです。

日本へバウムクーヘンが伝わったのは、今から約100年前、ドイツの菓子職人カール・ヨーゼフ・ヴィルヘルム・ユーハイム Karl Joseph Wilhelm Juchheimによってでした(注4)。今では日本各地で、多くの製菓店が機械を導入し、店の主力商品としてバウムクーヘンを販売しています。スーパーやコンビニなどでも気軽に買うことができ、抹茶やチョコレートなど、風味のバリエーションもとても豊かです。
日本人にとって、バウムクーヘンは今や大変身近なお菓子ですが、意外と知られていないのが、実はバウムクーヘンは、ドイツ全土で一般的なお菓子という訳ではないのです。バウムクーヘンの生地を使ったトルテ Torte(注5)は、コンディトライ Konditrei(注6)で見かけることも多いです。しかし、専用の設備を必要とする筒状に焼かれたバウムクーヘンは、ドイツ国内でもバウムクーヘンを銘菓とする限られた町を除いては、なかなか出会うことができないようです。

バウムクーヘンが銘菓とされるのは、ドレスデン Dresden、コットブス Cottbus、ザルツヴェーデル Salzwedelという
3つの町です。
ドイツ菓子の古典(注7)によれば、バウムクーヘンの基本的な配合は
砂糖 500グラム
バター 500グラム
小麦粉 500グラム(注8)
卵 30個
です。これを基本としながらも、それぞれの町ごとに、配合や製法が違うのだとか。3つの町のバウムクーヘン、どのように違うのかを見に行ってきました。


■ドレスデナー・バウムクーヘン Dresdener Baumkuchen (ドレスデン風バウムクーヘン)
まず訪れたのが、ドイツ東部ザクセン Sachsen州の州都ドレスデンです。第二次世界大戦で戦火に見舞われ、町の大半が焼け落ちました。しかし戦後の復興と共に、現在では戦前の雰囲気を残した建物も多く再建されています。近代的な中にも、ドイツらしさを感じることのできる街並みです。
ドレスデン風バウムクーヘンの大きな特徴は、卵黄と卵白を分けずに泡立てる点です。温製法(共立て法)と言い、卵と砂糖を温めながら混ぜ合わせ、冷えるまでしっかりと泡立てます。そして、アクセントにレモンの皮、バニラ、塩を加えます。形は専用のへらで整えながら焼いていきます。

専用のへら。これは辻製菓専門学校で使用しているもの
専用のへら。これは辻製菓専門学校で使用しているもの

ドレスデンの町でバウムクーヘンと言えば1825年創業の『クロイツカム Kreutzkamm』が有名です。老舗のコンディトライであるこのお店は、バウムクーヘンはもちろん、バウムクーヘンの生地を使ったトルテや、その他のお菓子も充実しています。

バウムクーヘンの生地を使用したトルテ
バウムクーヘンの生地を使用したトルテ

こちらで購入したバウムクーヘンは、断面の気泡が粗めです。生地の気泡が潰れにくく、ふっくらと焼き上がっており、温製法で作る生地の特徴が出ています。食べ口は歯切れが良く、レモンの香りと塩味がしっかりと効いています。

ドレスデン風バウムクーヘンの形と断面 ドレスデン風バウムクーヘンの形と断面
ドレスデン風バウムクーヘンの形と断面

■コットブーザー・バウムクーヘン Cottbuser Baumkuchen(コットブス風バウムクーヘン)
次に訪れたのは、ブランデンブルグ Brandenburg州にある町コットブスです。すぐ東がポーランドということもあって、町にはドイツ語とポーランド語2つの標識があります。町の広場に噴水があり、見上げてみると漁師と子供、そしてバウムクーヘンを持った女性の像が。

バウムクーヘンを持った女性の像

この女性は、コットブスで初めてバウムクーヘンを焼いたといわれるマリエ・グロッホ Marie Groch(1888年没)で、1886年に彼女の焼いたバウムクーヘンは、王室御用達という名誉ある称号を得たという記録が残っているそうです。

コットブス風バウムクーヘンは、卵黄と卵白を分けて泡立てる、別立て法で作られています。他のバウムクーヘンとの大きな違いは、バターの割合が多く、フラワーバッター法(注9)で作成されることです。マジパン又はアーモンドパウダー、シナモン、カルダモン、メース、クローブといった様々な香辛料が入るのも特徴の一つです。
コットブス風バウムクーヘンは、マリエ・グロッホが亡くなった後、何人もの菓子職人が伝統を守り続け、現在ではマックス・ラウターバッハ氏に受け継がれています。筒状のコットブス風バウムクーヘンは、この系譜をたどった『カフェ・ラウターバッハ Café Lauterbach』で、今でも頂くことができます。

コットブス風バウムクーヘンの形と断面 コットブス風バウムクーヘンの形と断面
コットブス風バウムクーヘンの形と断面

断面は小さな気泡があり、焼き色がしっかりしていて、均一な層状に焼き上げられています。形は専用のへらで整えながら焼き、その際に余分な生地を落としながら焼くので、一層一層が薄く、大きさに対して層の数が多いのも印象的です。食べてみると、生地がもろく、やはり香辛料の風味豊かで、少し香りが力強く感じられますが、後味は良いです。


■ザルツヴェーデラー・バウムクーヘン Salzwedeler Baumkuchen(ザルツヴェーデル風バウムクーヘン)
最後に訪れたのが、ザクセン-アンハルト Sahcsen-Anhalt州にあるザルツヴェーデルという町で、ハンブルクからは南東へ車で1時間ほどに位置します。ドレスデンやコットブスが、大きな町だったのに対し、比較的小さな印象の町です。しかし、バウムクーヘンの大きな看板や、絵葉書、その他のバウムクーヘンに関連した土産物なども多く、他の2つの町よりも、バウムクーヘンを銘菓とする町であることを感じさせてくれます。

ザルツヴェーデルのバウムクーヘングッズ。ナイフはバウムクーヘン専用のもの お店の看板。くるくる回ります 店内のディスプレイ
(左)ザルツヴェーデルのバウムクーヘングッズ。ナイフはバウムクーヘン専用のもの
(中)お店の看板。くるくる回ります
(右)店内のディスプレイ

ザルツヴェーデルにはバウムクーヘンの有名なお店が2軒あります。1軒目は1842年創業の『カフェ・クルーゼ Café Kruze』です。バウムクーヘン以外のお菓子も豊富で、カフェも併設されています。中庭の席の近くには、高さ2メートルほどの、バウムクーヘンクイズのパネルがあります。バウムクーヘンの形をした金属のパネルに、バウムクーヘンに関する問題が14問ほど列記してあり、それぞれ問題部分をめくると、解答が分かるようになっています。

バウムクーヘンクイズ!! パネルにある問題の1つ。“なぜバウムクーヘンと呼ばれるようになったでしょう??”
(左)バウムクーヘンクイズ!!
(右)パネルにある問題の1つ。“なぜバウムクーヘンと呼ばれるようになったでしょう??” これは簡単っ♪

この町のバウムクーヘンは、コットブスのものと同様に別立て法で作られ、3つのタイプの中でも、一番基本の配合に近いシンプルなものです。特徴的なのはその形で、他の2つの町のものは、一層ずつ生地に浸しては、専用のへらで形を整えながら焼いていきます。それに対し、ザルツヴェーデル風バウムクーヘンは、生地をかけながら形は整えずに焼いていきます。

ザルツヴェーデル風バウムクーヘンの形と断面 ザルツヴェーデル風バウムクーヘンの形と断面
ザルツヴェーデル風バウムクーヘンの形と断面

生地のキメが非常に細かく、不均一な層で、本物の木の年輪の様な断面をしています。食べた感じはとてもしっとりとしていて、ソフトな口当たりです。小麦粉と一緒に浮き粉を使っているので、口どけがよく、あっさりとしています。


■工房見学
もう一軒は、1807創業のバウムクーヘン専門店、『エアステ・ザルツヴェーデラー・バウムクーヘンファブリク Erste Salzwedeler Baumkuchenfabrik』です。

お店の外観。黄色い壁がかわいい 色々な仕上げのバウムクーヘン
(左)お店の外観。黄色い壁がかわいい
(右)色々な仕上げのバウムクーヘン

平日の午後1時までに訪れれば、工房の中でバウムクーヘンの作成風景を見学させてもらえます。工房見学ができるだけあって、工房内は広くて清潔感があります。

工房内はとても広い
工房内はとても広い

バウムクーヘンの大きな窯が2台と、計量スペース、大型ミキサーが設置されています。材料は女性の従業員が手際よく準備していきます。

計量された材料 割卵器。自動的に卵黄と卵白に分かれていきます
(左)計量された材料
(右)割卵器。自動的に卵黄と卵白に分かれていきます

卵黄のベースとメレンゲ、それぞれしっかりと空気を含ませます。

卵黄を泡立てたベース メレンゲはしっかり泡立てます
(左)卵黄を泡立てたベース
(右)メレンゲはしっかり泡立てます

中心に穴の開いた大きな木杓子で混ぜ合わせ、バウムクーヘン焼成機へと移されます。

専用の木杓子。効率良く混ぜられるようになっています まだメレンゲが見えていますが、ほぼ混ぜ終わりです
(左)専用の木杓子。効率良く混ぜられるようになっています
(右)まだメレンゲが見えていますが、ほぼ混ぜ終わりです

まず準備として、ブナの木で出来た芯棒に、硫酸紙を巻きつけます。タコ糸を一定の間隔で巻いて、均一な凹凸になるように、生地も一定の間隔で垂らして、印をつけます。ここからが大変で、燃え盛る炎の中、一層ずつ棒全体に生地をかけて2~3分焼き、さらに生地をかけていきます。これを10層程度繰り返し、1本のバウムクーヘンを、約25分で一気に焼き上げます。

このように芯棒の準備をしておきます 炎の温度は600℃にもなるそうです
(左)このように芯棒の準備をしておきます
(右)炎の温度は600℃にもなるそうです

もちろん、1本焼いて終わりではありません。この作業を朝から昼過ぎまでずっと続けていきます。ザルツヴェーデル風バウムクーヘンは、生地に浸すのではなく、職人さんが炎のそばで、生地をかけながら焼いているのです。

この道50年の職人さん 焼き上がったバウムクーヘン いろいろな形の芯棒
(左)この道50年の職人さん
(中)焼き上がったバウムクーヘン
(右)いろいろな形の芯棒


■バウムクーヘンの切り方
みなさんは、バウムクーヘンを食べる時どのようにカットしていますか?小型なものならリング状のままでスライス、大型なものなら縦に切るという方も多いのではないでしょうか?では、本場ドイツでのバウムクーヘンの切り方を紹介しましょう。

バウムクーヘン専用ナイフを用い、斜めに薄く切ります
バウムクーヘン専用ナイフを用い、斜めに薄く切ります

バウムクーヘンは、年輪模様が特徴的なお菓子ですので、その模様に沿って薄くスライスします。薄くスライスすることで、生地の香りが楽しめ、見た目もとてもきれいにカットすることができます。これをお皿に盛りつけて、好みで生クリームやブランデー、フルーツなどを盛り付けてもおいしく頂けます。

ブランデーと生クリーム添え
ブランデーと生クリーム添え

3つの町を旅して感じたことは、機械化は進んだものの、バウムクーヘンはそれぞれの町で200年近く、当時のレシピを守りながら大切にされてきたお菓子だということ。変わらぬ美味しさを受け継ぎ続ける、そんなドイツを少し羨ましく思いました。



(注1)『ハイデルベルグの料理書』(15世紀頃)より
(注2)マルクス・ルンポルト著『新料理全書』(1581年)より
(注3)マルクス・ローフト著『ブラウンシュヴァイクの料理書』(1769年)より
(注4)日本にバウムクーヘンを伝えたユーハイム氏の功績については、株式会社ユーハイムのホームページで
    詳細を知る事ができます。 http://www.juchheim.co.jp/
(注5)ドイツ語で“円形のデコレーションケーキ”の意。
(注6)ドイツ語で“菓子屋”の意。
(注7)Der junge Konditor Band 2  Die Herstellung der Erzeugnisse der Konditrei
(注8)小麦粉の他、浮き粉を加える場合もある。
(注9)フラワーバッター法とは、菓子の生地を作る際、最初にバターと小麦粉を混ぜ合わせる方法。


取材協力店
 Kreutzkamm 住所:Altmarkt 25 Dresden
 Café Lauterbach 住所:Mühlenstraße 45 Cottbus
 Café Kruze 住所:Holzmarktstraße 4-6 Salzwedel
 Erste Salzwedeler Baumkuchenfabrik 住所:St.Georgstraße 87 Salzwedel
 株式会社ユーハイム 住所:兵庫県神戸市中央区港島中町7丁目7-4