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Vol.4 『Hajime Restaurant Gastronomique Osaka Japon』オーナーシェフ 米田肇氏
2010年11月29日

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■米田肇の料理■

辻:では少し料理の話に入らせていただきます。

米田:はい

辻:米田さんにとって料理を作るというのは、もちろん好きだからということはあると思いますが、おそらく表現だと思います。そこで料理を作るとき、組み立てるとき、創造するときにまず最初に頭に浮かぶのは何でしょう?これは経験値からくることでしょうから簡単には説明しずらいとは思いますが・・・

米田:う~ん

辻:そして、料理を創作していく過程で何に一番悩むのか、ということも併せてお願いします。

米田:まず、うちの場合はコースが1本ですので、その中で新しい料理を作る場合は前後の関係も考えて、緩急をつくることを考えますが、そこでどういう食材を使うかがポイントになってくると思うんです。

辻:料理法が先ですか、食材が先ですか?

米田:食材です。どうしてその食材を使うのかという理由づけを自分の頭で考えます。冷蔵庫があったからその食材を使うというのじゃなくて、どうしてその食材を使うのか?というところから考えます。
次にその食材をどういう風に調理していくのか、調理するというのは単なる方法なんです。その食材を通してお客様にどういうメッセージを届けたいのかというところを主軸に考えます。そして、そういう要素バランスを少しずつ調整していきます。
この感覚で作るとお客さまはこの感覚になるだろうというところと食べたときの風味のバランス、これを次に考えていきます。すべて頭の中で、これをこういう風にすれば面白そうだなと、この面白さを最大限に引き出すにはどういう風に処理すればいいのかまでを考えた上で次にどういう風に盛り付ければいいのかを考えていきます。

辻:なかなか聞いているだけでは想像しにくいので、代表的な料理"mineral"の写真を見ながらお聞きすることにします。


この料理は野菜だけですが、とても複雑です。僕も4回ほど食べさせていただきましたが、客としてこの料理で示された米田さんの世界観をどのように解釈すればいいか、けっこう悩みました。少しこの料理の構成などを米田さんご自身からご説明していただけますか。

米田:この料理は私が修業していました『ミシェル・ブラス』の料理"ガルグイユ"と同じように思われがちですが、もとは私の父親が病気になったことがあるんです。父はおもに肉類を好んでいましたが、病気になって野菜を多く食べるようになったんです。その時に野菜をもっと美味しくする方法はないものかって考えていましたので、ミシェル・ブラスの"ガルグイユ"
を見たときに驚きました。
 ただ、将来的に日本国内だけに発信するのではなく、世界に向けて発信する料理を作りたいと思っていましたので同じ料理ではだめだろうと考えまして、一度自分が勉強したことを白紙に戻して、どうするか、ということを考えながら始めたわけですが、一番最初は4種類ぐらいしか野菜は使っていなかったんですね。結局は野菜だけを食べるというのでは単なる
野菜料理になってしまうので駄目だなと思ったわけです。そこには何らかのメッセージ性が必要なのではないか、と思ったんです。じゃあ、どういうメッセージを加えるかというのをオープンしてから半年ぐらい悩み続けました。
  「野菜を通して何を伝えたいのか」「自分は料理を通じてどういうメッセージを発信したいのか」と思ったときに一つには<地球>のことをもう少し考えてみようという感じになったんですね。要は<地球>をもう少しよい状態にするためにこの料理を食べることで皆が何か考え直してもらえないだろうかって思ったんです。
 その時にはっと思いだしたのですが以前NHKで「養殖牡蠣」に関する番組を観たことがあったんです。その中で美味しい牡蠣を育てるために山に植樹し、山を生き返らせることから始めるわけです。要は山の樹木の葉が落葉し、それが土の養分となり、その土中を通った雨水が海に流れ込み、それらの養分が牡蠣を育てるということなんです。これって<地球>を表していると思うんです。生態系を表しているといいますか。これを一皿に表現できれば面白いんじゃないかって思ったんです。貝からとったソースと野菜を合わせて<地球>を表現しようと思ったんです。

辻:なるほど。これすべて温野菜ですね。この真ん中には何種類ぐらいの野菜が入っているのですか?

米田:60種類ぐらいでしょうか。

辻:それぞれの野菜がそれぞれの風味、食感を生かした状態で調理されているんですね。

米田:一番下にソースが敷いてるのですが、柑橘性のソースです。野菜に火を通すときにバターと凝縮した貝汁を少し加えることで酸味が生まれてくると思います。

辻:そして、周りのピュレ、これは野菜より少し温度が低いですね。

米田:そうです。低めです。

辻:この写真では見えにくいですが、別にトウモロコシのパウダーがふりかけてある。これは液体窒素で?

米田:ピュレを凍らせてパコジェットで粉にします。

辻:この泡状のものは貝のエキスで、香りですね。

米田:そうです。これも偶然に発見したんです。正月の数の子があるじゃないですか、あれは最初は塩漬けなんですが、より美味しくいただくために海水でこするんですね。その処理をした数の子をとりだすと表面にしゃぼん玉のような泡ができるんです。この泡は食べてみると決して美味しくはないのですが、生臭い香りが強くでるんですね。でも、泡を除いて液体の部分は生臭くないんです。ということはこの泡を上手に使えばいい香りを出せるのではないかと思ったのです。

辻:105種類の野菜ということですが、この数はなんらかのこだわりがあるのでしょうか?

米田:基本的に一般の八百屋さんにお願いすると30種類しか集まらないです。一番初めに大阪のほとんどのレストランがそこで購入するという八百屋さんがあるんですが、そこに行って60種類ほど欲しいと言うと「そんな多くの種類の野菜は集まらないよ」って言われたので、こっちは挑戦しようと思っているのに向こうが挑戦する気がないのだったら別にいいや、と思って、いろいろ探っていると「じゃあ、一度やってみましょう」というお店がいろいろ集まってきてくれて、全部で120種類ぐらい集まるようになったのですが105種類ぐらいがいいかな、ということでこの数に落ち着いたのです。

辻:すごい数ですよね。

米田:これは大変です。

辻:米田さんのお店では料理の前に提供されるすべての"料理に関して作り方も記載したもの"
お客さまに手渡されますがこれは何か意味があるのでしょうか?

米田:これはですね。フランスにいたときに皆に日本料理を作るように言われるんですね。その時に最初にある程度説明してあげたほうが皆喜ぶんです。こういった説明から入ってもらうことでさらに料理に興味を持ってもらえるのではと思ったんです。ほとんどのフランス料理店では料理の説明が1行だけでさらっと書いてあったりします。それを読んでわかる人はわかりますが、わからない人にはわからないです。

辻:料理法、例えば火の通し方からすべて書かれているのですが逆に料理名としては"ミネラル"、"豚"という風にとてもシンプルです。これは何か意味があるのですか?

米田:それは主になる食材がテーマですので、その食材を中心にその料理は作っていますよ、という意味です。

辻:組み立てに関しては理論的に組み立てていくという理工系の思考が非常に役立っていると思うのですが?

米田:それはその通りです。

辻:すべて設計図から始まるわけですね?

米田:冷蔵庫を開けてそこにあるものでパパッと料理を作るのが美味しい料理人のように思われがちですが、建築家がその辺りにある木材を集めてきて、いい建造物を作れるかというと建てることはできないですよね。壁はどうするのか、空調はどうするのか、はたまた10年後にはどんな状態なのか等々、細かいことまで考えないと作れないです。

辻:先ほどのブラスさんの"ガルグイユ"の話をまたしますが、手元に寄せられた質問の中に「"ミネラル"が"ガルグイユ"に似ていると言われることはあまり歓迎されませんか」という内容があります。実をいうと僕は"ミネラル"のほうが複雑で完成度が高いと思うのです。もちろん"ガルグイユ"も素晴らしい料理です。このふたつの料理を見ると僕は絵画におけるキュビズムという流れにおけるピカソとブラックを想起するのです。この二人の芸術家はキュビズムという流れを完成させるために議論し、お互いに研鑽しつつ進化していくわけです。そこで料理というものも誰かの料理を見ながら研鑽し、進化していくものなのか、あるいはそういった研鑽の対象なくても独りでに進化していくものなのか、どのように思われますか?

米田:料理というものはその人が感じたすべてが表現されるものだと思いますので、急に突発的に生まれてくるものはないと思います。

辻:米田さんの料理は今後さらに変化していきますか?

米田:すごく変わると思います。今は経営のことでいっぱいでなかなか新しい発想を生み出すことはできていませんが、現在はオープン当初にやりたかった料理がやっと出来ている状態でしかないですから。今後は確実に変わります。

辻:ボキューズさんなどは逆に最初に三つ星を獲ってから料理が変わっていないというのがスタイルなんだと思います。いろいろなスタイルの料理人がいるということですね。
 では、少し学校で学ぶことと仕事のつながりに関して少し聞いていきたいと思います。学校で教えることはやはりクラッシックな技術が多いと思います。カリキュラムが変化してもこの教えることは変わらないと思うんですね。米田さんも当時のノートをお持ちだと思いますが、習得したことは現在役にたっているのでしょうか?

■ミシュランの歴史始まって以来最短での三つ星獲得■

米田:役にたっていると思いますが、自分の料理のために見直すことはありません。ただ、週末に厨房スタッフに1時間ほど料理の説明をしているんですが、その時にノートをよく使います。

辻:米田さんの料理を説明するために?

米田:じゃないです。厨房スタッフも全員がフランス料理を経験している者ばかりではないので毎週末にフランス料理の簡単な授業しているんですね。その時にノートを使って行っています。

辻:クラッシックな基礎的な知識、技術と現在行ってらっしゃるコンテンポラリーな料理とのつながりはどこにあると思われますか?

米田:全てです。ですから数学で言うと1+1=2というのが学校の授業です。

辻:いきなり新しい料理は・・・

米田:もう絶対に作れないです。いきなり難しい公式を解くことができないのと同じです。

辻:それっていつごろ解かってくるものなんですか?

米田:と言いますと?

辻:そういうつながりがあるということ。基礎的な技術なり、知識が新しい創造的な料理を発想するのにつながるという。

米田:料理人の本を読むとたいがい共通している事柄があるんです。共通する主軸というところをよく考えていくと大切な部分がしっかりと見えてくる気がします。

辻:どんどん質問にいきます。次はミシュランの三つ星についてですが、100年のミシュランの歴史の中で最短の時間で獲得されましたね、おめでとうございます。

米田:ありがとうございます。オープンから1年と5ヶ月です。

辻:僕はオープンされて1年目ぐらいのときに何度が行かせていただきましたが、当時は食事が終わるまでに4時間半ぐらいかかっていました。あれから大変だったでしょう?

米田:大変なのは今も一緒です。

辻:お客様が来ない状況は自信がなくなったりしませんか?

米田:それはなかったです。

辻:絶対に自信があった?

米田:ありました。まちがいなく満席になって大変になってくるから今のうちに電話の対応や料理の改善点などをしっかりみて対応するようにしていこうってずっと言っていましたから。昼一組、夜一組っていう現在の状況は様々なことを改善するのに逆にいいのだから、絶対に大丈夫だからって毎日のように言ってました。ですからお客様が来ないことにまったく恐怖感はなかったです。

辻:とてつもないリーダーシップですね。

米田:いや、たぶんちょっと変だと思います。

                      (笑)

 

辻:そのモチベーションを維持していたのは自信しかないですよね?

米田:いやもう自信しかないですね。とりあえず自分が修行中に思い描いたレストランのイメージを忠実に表現することだけに集中してきました。

辻:普通フランスのレストランなどでは、ミシェル・ブラスさんでもそうですけれど10数年かけてミシュランの一つ星を獲って、次に二つ星をとって、ようやく三つ星を獲得するというのが一般的ですよね。1年と数ヶ月で三つ星の評価を得るというのは逆にプレッシャーにならないですか?

米田:正直言ってプレッシャーを感じていないと思う自分と知らないところでプレッシャーを感じている自分がいます。やはり料理の完成度に関してはそうとう細かいところまで言いますし、盛り付けも0.5mmずれていると感じれば全てをやりなおす指示をだしますので、そういったところが相当厳しくなってきていると思います。

辻:現在の予約状況は2ヶ月、3ヶ月先まで満席?

米田:そうですね。今は2ヶ月先まで予約を受け付けさせていただいていますが、そこまでは満席です。

辻:そういった意味では賛否両論ありますがやはりミシュランの影響はありますね?

米田:そうですね。本当に影響は大きいと思います。

<『Hajime Restaurant Gastronomique Osaka Japon』オーナーシェフ 米田肇氏>次回の更新は12月3日(金)を予定しています。

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