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料理のチカラプロジェクト

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麹菌の最先端研究と未来について丸山先生に聞く

イベント

2016.01.19

2016年1月15日、丸山潤一先生にお越しいただき、エコール辻 大阪のカレッジホールにて麹菌についての講演会を開催した。麹菌は日本を代表する「国菌」であり、古くから日本人の食を支えてきた。
そして今、改めて麹菌が注目されている。

そこで、今回は麹菌の歴史、最先端の研究、期待される可能性について丸山先生にお話を伺った。
当日は、約80名の職員が出席し、講演終了後も活発な意見が飛び交った。

丸山先生は、現在東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 微生物研究所の助教をされている。同教室にて、「麹菌」研究の最先端でご活躍。
微生物学研究室サイト http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/Lab_Microbiology/hyousi.html






◎講演会より

・麹菌とはそもそも何か?

麹菌は、カビの一種で、古来より和食を支える影の主役。日本では古くから、日本酒、醤油、味噌などの製造に使用されてきた。中でも、麹菌は日本酒製造で使用されることが一番多い。日本酒製造においては、麹菌がお米のデンプンを分解して糖を生成し、この糖を酵母がアルコールへと発酵させ、アルコール濃度は20%近くまで達する。醤油や味噌の醸造では、麹菌は大豆のたんぱく質をアミノ酸まで分解する。この工程から、和食の味には欠かせない「うま味」が作られる。


・麹菌の一種 アスペルギルス オリゼー

2006年に、麹菌は日本を代表する微生物として、日本醸造学会により 「国菌」に認定された。 2013年には、和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、その味を支える 麹菌の重要さが認識されるようになった。石川雅之作の漫画「もやしもん」では、オリゼーというキャラクターが麹菌である。この名前は、麹菌の一種「アスペルギルス オリゼー」からきている。 醤油、味噌、など和食のうま味を作り出している麹菌こそが、この 「アスペルギルス オリゼー」なのである。丸山先生が協力された番組、NHK「千年の味のミステリー」では、実際にアスペルギルス オリゼーが胞子を出し、発酵するシーンがある。日仏国際共同制作でヨーロッパでも放送、さらに映画化もされ、「千年の一滴 だし しょうゆ」(柴田昌平監督)は第6回辻静雄食文化賞を受賞した。


・わたしたちは麹菌をそのまま飲んでいる

丸山先生は、細長く伸びる菌糸の細胞内のつくりを、GFPという緑色蛍光タンパク質により見えるようにした。そうしているうちに、麹菌が多細胞生物であることが分かった。すなわち、細胞が重なって菌糸上に伸びており、細胞同士は仕切りに小さな穴を通して連絡を取り合っている。麹菌に水をかけたところ、菌糸の先から細胞の中身が噴き出す現象を見つけた。すると麹菌は菌糸の先端が壊れてしまっても、細胞と細胞をつなぐ小さな穴をふさいで補修する。補修する構造は「ペルオキシソーム」という細胞内小器官の1つで、ビタミンの1つである「ビオチン」の合成に必要であることを世界で初めて発見した。この発見こそが麹菌の機能性と関係していた。その1つが甘酒だ。私たちは麹菌をそのまま飲んでいる。江戸時代には夏の栄養ドリンクとして飲まれていた。麹菌がつくる様々なビタミンが甘酒には含まれており、最近大ブームになった万能調味料 「塩麹」にも含まれている。


・麹菌は日本人が家畜化した微生物

麹菌の進化について、その祖先は「アスペルギルス フラバス」。有毒だった「アスペルギルス・フラバス」を、日本人が役に立ちように家畜化したものが、アスペルギルス・オリゼー。日本人が麹菌を家畜化する過程で、このような毒を生産する能力を失ったことが証明されている。日本酒造りでは、米のデンプンを分解する能力が高いことが重要であり、これが醸造に適した菌が選択されたことを証明する。





・麹菌の課題と可能性について

麹菌には交配によって優れた性質をもつ菌を得ることができないという課題がある。これは、麹菌が家畜化される過程で交配能力が失われたからである。現在、丸山先生は麹菌が再び有性生殖の能力をもつように研究に取り組んでいる。交配が可能になれば、今までにない高機能の麹菌が創り出せる。超高品質の吟醸酒をつくる麹菌、味わい深い醤油。味噌を作る麹菌、ビタミンのような機能性成分が豊富な甘酒・塩麹をつくる麹菌を育種することができる。


・麹菌の未来、これから

近年、テレビ、スーパーやコンビニエンスストアでは乳酸菌のドリンクやヨーグルトを目にする。健康によいとされる乳酸菌は大人気といえる。では、麹菌はどうか。はっきり言って、乳酸菌ほど麹菌は目にする機会は少ない。私たちは千年以上にわたり麹菌を利用し続けてきたにも関わらず、その潜在能力を十分に活用できていない、と丸山先生は言う。科学の発展はすさまじく、醸造に使われている麹菌を操作することが可能となった。食の発展に伴い、様々な食の嗜好にあった麹菌が求められるかもしれない。麹菌が「影の主役」ではなく、「主役」として、また「真の国菌」として、広く認識される存在になる可能性を大いに秘めているのだ。


・講演会終了後...

終了後には、職員から積極的に質問が飛び交った。特に日本料理の職員からは、いかに麹菌を調理技法に活かすか、どのようなものが今後可能になるのかなど活発なディスカッションとなった。今後は、参加した職員だけではなく、辻調の在校生にもぜひ麹菌と日本料理について研究してもらいたいと思う。既存のものに捉われるのではなく、麹菌の可能性と同じく、料理のさらなる発展を職員・学生一丸となって実現に向けてもらいたい。

(文責:塩田 ゆい)