第16回辻静雄食文化賞 贈賞式レポート
公益財団法人辻静雄食文化財団は、2025年8月19日(火)14:00より、辻調理師専門学校 東京にて、
第16回辻静雄食文化賞贈賞式を開催いたしました。
第16回辻静雄食文化賞には、国民という抽象的なまとまりが共有する「幻想」としての国民料理の変遷をテーマとし、政治体制の変化がいかに台湾の食に反映されたかを鮮やかに浮かび上がらせている点が高く評価された、『「台湾菜」の文化史 国民料理の創造と変遷』(陳玉箴・著、天神裕子・訳、岩間一弘・解説、三元社・刊)が、そして専門技術者賞には、漁業者との密な連携を確立することによって得られた高品質の魚を最高の状態で料理人に届ける仕組みを一から構築し、地域や食の業界に大きな刺激と影響を与えた、「サスエ前田魚店」店主 前田尚毅氏が選定され、同財団より表彰を受けました。
(左から)辻芳樹、鹿島茂、陳玉箴、天神裕子、前田尚毅、君島佐和子 ※敬称略
第16回辻静雄食文化賞・専門技術者賞 受賞者コメント
<第16回 辻静雄食文化賞>
◆陳 玉箴氏/『「台湾菜」の文化史 国民料理の創造と変遷』著者
この度はこのような賞をいただき光栄に存じます。本賞を頂戴した初の外国人著者として、これ以上ない名誉を感じます。まずは翻訳を担当された天神裕子先生に、心より感謝申し上げます。先生の的確で読みやすい翻訳があってこそ、素晴らしい日本語版が生まれました。また翻訳の過程では細部にわたってご助言いただき、作品の完成度をさらに高めてくださいました。さらに出版元の三元社、本の解説を執筆してくださった岩間一弘先生、そして日本版の出版を私にご提案くださった、日本にいらっしゃる2人の台湾人の先生方・一橋大学の洪郁如先生、名古屋大学の黄英哲先生にも深く感謝申し上げます。
台湾と日本は昔から深い関わりをもちます。台湾料理の歴史は、台湾人の100年の歩みと同じように複雑に絡み合っています。この本を通じて、台湾の美食に限らず、台湾の近現代史にも興味を持っていただければ嬉しく思います。
◆天神 裕子氏/訳者
この度はこのような賞をありがとうございました。本書の翻訳を担ったことで最もうれしく思うのは、台湾の食文化の後ろにある様々な歴史・文化的要素をより深く知ることができたことです。陳先生は、食というものを愛するところからスタートし、研究として昇華させるために試行錯誤されました。国民料理としての台湾料理とは何なのか。政治と料理の関わり、マスコミなど文化的担い手による影響、さらには個人が感じる食べ物に対する熱い思いなど、すべてが合わさって一つの食文化を形成することを学びました。台湾は特にこの100年の間に為政者が変わり、「台湾菜」の定義がどんどん変わってきました。その複雑な背景を、本書を通して多くの日本人にも知っていただけると幸いです。
<第16回 辻静雄食文化賞 専門技術者賞>
◆前田 尚毅氏/「サスエ前田魚店」店主
本日は名誉ある賞をありがとうございます。この度評価いただいた取り組みの過程に、19年前、「てんぷら成生」の志村剛生さんが店を立ち上げる際、全国から静岡にお客さんを集めることをコンセプトとして始めたことがありました。最初は閑古鳥で、その後もうまくいかず。ある時あまから手帖の門上武司さんが、成生の天ぷらに感動した記事を書いてくださった。自分たちの活動は間違っていないと、大変自信になったことを今でも覚えています。実は成生は、2016年リオ五輪の年、東京に出る話があったのです。しかし結局は留まりました。成生の食材が持つライブ感・強さは、地元にあってこそなのだと。日本はその大会で400mリレー団体銀メダルをとったのですが、その理由はバトンでした。我々に当てはめてみると、魚屋と料理人の力で静岡に人を呼べるようになっていましたが、そこに漁師さんがいないわけです。漁師はスターターで、そのバトンが最終順位を左右します。「食材のバトンリレー」と説明して協力を仰ぎました。生産者の気持ちが変われば、食材が変わり、おいしさにつながるのです。本賞を町の小さな魚屋がいただけたということは、この活動を担う漁師さんたちも喜んでくださるに違いありません。次は、今のおいしさを未来に残すため、林業と海とに向き合っていきます。仲間を大事にして取り組んでまいります。
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辻静雄食文化賞とは
<お問合せ>
辻調グループ広報担当:渡邉
TEL:06-6629-0206
E-mail:tsujichopress@tsujicho.com
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