【キャリア形成実習】「料理人としての一歩を踏み出す」ーー"食の背景"とサステナブルな視点
こんにちは!
辻調理師専門学校で公衆衛生学を担当している東です。
今回は、私が担任をしている高度調理技術マネジネント学科2年生の
勝又一颯さんがキャリア形成実習で実際に得た学びについてご紹介します。
キャリア形成実習とは、3期(約5か月)の長期にわたる学外企業実習です。
彼の最初の研修先は、東京都練馬区にある
世界的なピッツェリア「PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO(ピッツェリア・ジターリア・ダ・フィリッポ)」。
このレストランは、サステナブルな取り組みと本格的なナポリピッツァで高い評価を受けており、
地元の人々だけでなく、全国からお客様が訪れる名店です。
薪窯で焼き上げるピッツァは香ばしく、素材の味を最大限に引き出す工夫が随所に見られます。
店内は温かみのある雰囲気で、地域に根ざした営業スタイルを大切にしているのも特徴です。
厨房を率いるのは、岩澤正和シェフ。
日本人でありながらイタリアの食文化を深く理解し、サステナブルな食のあり方を日本で実践する料理人です。
岩澤シェフのもとでの研修は、技術だけでなく、料理人としての姿勢や哲学に触れる貴重な機会となりました。
■ 初めての研修で感じたこと
研修初日から、勝又さんは緊張の連続。
イタリア語でのコミュニケーション、現地のスタッフとの関係づくり、そして何よりも「研修生」ではなく
「スタッフの一員」としての振る舞いが求められる環境に、最初は戸惑いもあったようです。
しかし、積極的に名前を覚え、声をかけ、仕事をもらいに行く姿勢を続けることで、
少しずつ信頼を得ていきました。
お店の一日の流れや客層の違い、地域との関わりなど、現場でしか得られない学びがたくさんありました。
■ サステナブルな取り組みを体感
研修中には、日本サステイナブル・レストラン協会の代表である下田屋毅さんによる講習を受け、
Food Made Good Japan 認定講習 フードサステナビリティ・トレーニングコース ベーシック資格を取得。
さらに、アドバンス資格にも挑戦し、実際の店舗での取り組みを通じて、食の未来について深く考える機会となりました。
「料理人として、社会にどう貢献できるか」
ーー勝又さんは、食材の調達、廃棄の工夫、地域との連携など、
サステナブルな視点を持つことの大切さを実感したようです。
■ 技術だけじゃない、考える力の大切さ
印象的だったのは、「洗い物一つにも考える力が必要」という気づき。
どのタイミングで何を洗うか、食器やカトラリーの回転をどう管理するかなど、
ただ作業するだけではなく、常に頭を使って動くことが求められました。
また、ピザのカットや盛り付け、まかない作りなど、責任あるポジションも任されるようになり、
「自分がいてよかった」と思ってもらえる働き方を意識するようになったそうです。
■ 他の研修先での学び
フィリッポでの研修後、岩澤シェフのご配慮により、「より多くの現場を経験した方が良いだろう」
との考えから、系列店や他店舗での研修も実施させていただきました。
勝又さんは「タネニハの森」や「Oppla! Da Gtalia」、
さらに東京・虎ノ門の高級レストラン「unis」でも研修を行いました。
「タネニハの森」では、隣接する農園から直接食材を仕入れるという究極の地産地消を体験。
野菜の個体差に対応する技術や、パートスタッフとの連携、店舗運営の工夫などを学びました。
「Oppla! Da Gtalia」では、少人数での営業体制の中で、仕込みから営業、まかないづくりまで幅広く担当。
責任感とスピード、そしてチームワークの大切さを実感したそうです。
「unis」では、客単価5万円以上の高級レストランの現場を体験。
料理の提供タイミングや盛り付けの美しさ、段取りの重要性、そして現場の厳しさを肌で感じる貴重な経験となりました。
■ キッチンカーでのイベントも
研修の終盤には、岩澤シェフの出身校である立教大学のホームカミングデーでのキッチンカー運営にも参加。
米粉を使ったピザやズッパなどを提供し、通りすがりの人にどう興味を持ってもらうか、売り方の工夫も学びました。
「味や見た目だけでなく、匂いや焼いている姿など、五感に訴える工夫が必要だと感じました」と勝又さん。
販売業態ならではの難しさと面白さを体験しました。
■ 勝又さんのコメント
今回、東京都練馬区にある「PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO」での研修を通して、
料理人としての技術だけでなく、考え方や社会との関わり方まで、幅広く学ぶことができました。
最初は「イタリアンか...」と少し迷いもありました。自分は将来フレンチをやりたいと思っていたので、
ピッツァの現場でどこまで学べるのか不安もありました。
でも、実際に働いてみると、個人店の運営の仕方、人事マネジメント、そしてサステナブルな取り組みなど、
将来店を持つために必要なことがたくさん詰まっていました。
岩澤シェフ(フィリッポさん)は、ただ料理を作るだけでなく、地域や生産者、仲間の未来まで考えて
お店を運営されていて、その姿勢にとても感動しました。
特に、国産食材だけでSTG認定を受けたマルゲリータで世界一を取った話は衝撃的で、
「料理人の力で社会を変えられるんだ」と思わせてくれるものでした。
また、サステナブルについても深く考えるきっかけになりました。
もし全世界の人が日本と同じ生活をすると地球3個分の資源が必要になるという話や、アースオーバーシュートデーのことなど、
普段の生活では意識しないことを知ることができました。
今はまだ学生で、小さなことしかできないかもしれないけれど、将来は自分の店を通して、
サステナブルの大切さを発信できる料理人になりたいと思っています。
研修中には、系列店や高級レストラン「unis」での経験もさせていただきました。
それぞれの現場で求められることは違っていて、
特にunisでは、花一輪の形や色まで気を配る繊細さに驚きました。
責任の重さと、プロとしての意識の高さを肌で感じることができました。
この研修を通して、自分に足りないもの、これから伸ばしていきたいことが明確になりました。
残りの学校生活でしっかり準備して、将来に向けて一歩ずつ進んでいきたいと思います。
■ 担任より
キャリア形成実習は、学生が「現場でしか得られない学び」に触れる貴重な機会です。
技術の習得だけでなく、社会との関わり方や、料理人としての価値観を育てる場でもあります。
今回の研修は、まさにその本質に触れる実習となりました。
勝又さんは、クラスの中でも特に料理そのものへの感度が高く、技術の習得に対して非常に意欲的な学生です。
日々の授業でも、食材や調理工程に対する探究心が強く、
料理人としての芯のようなものを感じさせてくれます。
一方で、料理を取り巻く社会的な背景や、食の持つ文化的・環境的な意味については、
まだこれから広げていける余地があると感じていました。
だからこそ、サステナブルな取り組みを実践する「PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO」での研修を通して、
料理の"外側"にある世界にも目を向けてほしいという思いがありました。
岩澤正和シェフやスタッフの皆さんの人柄、哲学、そして地域に根ざした店づくりに触れたことで、
勝又さんは予想以上の成長を遂げて帰ってきました。
プレゼンで語ってくれた内容からも、彼がどれだけ多くのことを吸収し、自分の言葉で咀嚼し、
未来に向けて考えを深めているかが伝わってきます。
この第1期の研修で得た経験は、今後の第2期・第3期のキャリア形成実習はもちろん、
彼が料理人として歩んでいく長い道のりの中で、確かな土台となるはずです。
まだまだ若い彼ですが、10年後、どんな料理人になっているのか、今から楽しみでなりません。
そして、これを読んでいる他の学生の皆さんにも伝えたいことがあります。
研修は「今の自分」にとって必要なことだけでなく、「未来の自分」にとって大切なことに気づくチャンスです。
ぜひ、目の前の経験を大切にしながら、自分の可能性を広げていってください。
皆さんの成長を、心から楽しみにしています。
~プロフィール~
辻調理師専門学校 専門講義科目グループ
東 庸介(あずま ようすけ)
調理「食生活と健康」、「食と環境ワークショップ」 製菓「公衆衛生学」を担当。
高度調理技術マネジメント学科2年生の担任や
SDGsに食から貢献することを目的とした学生サークルSSPの顧問をしています。
▶ 管理栄養士
▶ SDGs for School認定エデュケーター
▶ Microsoft Innovative Educator Expert 2025-2026
▶ 和食文化継承リーダー(農林水産省認定)


