"背景のある一皿"を目指して。3年生前期の学び
高度調理技術マネジメント学科3年生03クラス担任で、
3年生の独自科目「食と環境ワークショップ」を担当している東です。
高度調理技術マネジメント学科は、日本で初めて設立された、3年間かけて調理を学ぶ専門学科です。
卒業時の到達目標として、「安全かつ衛生的に調理した料理を提供できる」という大前提のもと、
「食を通して人の心を動かす」ことを掲げています。
学生たちには、ただおいしい料理を作るだけではなく、
自分の思いやメッセージを料理に込めた「背景のある一皿」を作れるようになってほしい。
そして卒業後には、人の心や社会を動かすことのできる"食業人"として活躍してほしいと願っています。
そのような学びの集大成に向かっていくのが、3年生前期の時間です。
3年生前期の時間割は、とても特徴的です。
授業科目は「総合演習」「調理研究実習」「食と環境ワークショップ」の3科目のみ。
月曜から水曜は、午前に総合演習、午後に調理研究実習。
木曜・金曜の午前は食と環境ワークショップという構成です。
一見すると科目数は少なく見えるかもしれません。
ですが、その分、一つひとつの授業で求められる内容はとても深くなります。
学生自身が「何を表現したいのか」「どのように進めるのか」「次に何を改善するのか」を
考えながら取り組む時間が多く、自律性が強く求められます。
「総合演習」では、自分で料理のテーマを決め、試作や検証の計画を立てます。
料理をただ作るのではなく、なぜその料理を作るのか、
どのような課題や思いを料理で表現したいのかを言葉にしながら、レシピや献立という形にしていきます。
「調理研究実習」では、総合演習で立てた計画をもとに、実際に調理を行います。
食材の扱い方、火入れ、味つけ、盛り付けなどを何度も試し、改善を重ねながら、
自分自身で考え抜いたオリジナル料理の完成度を高めていきます。
そして「食と環境ワークショップ」では、社会貢献活動や地域との関わりを通して、
調理師が社会の中でどのような役割を果たせるのかを考えます。
外部からさまざまなゲストスピーカーを招いた講義も行い、
いろいろな現場での考え方や取り組みに触れながら、自分たちの活動につなげていきます。
3年生の前期は、先生から細かく指示されたことをこなすだけの時間ではありません。
自由度が高いからこそ、自分で予定を立て、必要な準備をし、試作の結果を記録し、
次にどう改善するかを考える力が必要です。
担任として日々見ていると、しっかりと計画を立てて取り組んでいる学生の成果物には、
本当に目を見張るものがあります。
最初はぼんやりしていた料理のイメージが、試作を重ねるごとに少しずつ形になり、
味や見た目、提供する意味まで磨かれていく。
学生たちが自分の料理と真剣に向き合う姿から、3年間の学びの積み重ねを強く感じます。
たとえば、現在「クロダイ」に着目して研究を進めている学生がいます。
大阪湾で獲れる魚の一つでありながら、日常の食卓や飲食店で広く食べられているとは言いにくいクロダイ。
この学生は、そのクロダイの価値を料理の力で高められないか、という視点から研究を始めました。
現在は、いきなり完成料理を作るのではなく、まずクロダイを使った魚醤づくりに取り組んでいます。
魚醤は、魚のうま味や香りを引き出す調味料です。
完成までに時間がかかるからこそ、仕込みの条件や管理、途中経過の観察、記録が欠かせません。
総合演習では、「なぜクロダイなのか」「どのように価値を高めるのか」
「魚醤をどのような料理表現につなげるのか」を整理していきます。
調理研究実習では、実際に手を動かしながら、試作と検証を重ねていきます。
料理の研究というと、完成した一皿だけに目が向きがちです。
しかし、その背景には、食材を見つめる視点、課題を立てる力、時間をかけて検証する粘り強さがあります。
クロダイの魚醤づくりに取り組む姿からは、単に「おいしい料理を作る」だけではなく、
食材の可能性を自分の手で広げようとする、3年生らしい学びの深まりを感じます。
食と環境ワークショップでは、NPO法人yucocoと連携し、
放課後キッズクラブでの料理教室の企画にも取り組んでいます。
この活動では、各班がテーマを設定し、子どもたちにどのような体験を届けたいのかを考えながら
企画を進めています。
子どもたちが楽しみながら参加できる内容にするには、どのような工程にすればよいのか。
安全に作業してもらうためには、どんな準備や声かけが必要なのか。
限られた時間の中で、料理の楽しさをどう伝えるのか。
学生たちは、料理の内容だけでなく、参加する子どもたちの目線に立って企画を考えています。
また、授業ではさまざまなゲストスピーカーを招き、社会の中で食がどのような役割を果たしているのか、
地域や人と関わるためにどのような視点が必要なのかを学んでいます。
その学びをもとに、自分たちの企画を見直し、より良い活動にしようと工夫を重ねています。
調理師に必要なのは、厨房の中で料理を作る力だけではありません。
相手のことを考え、わかりやすく伝え、食を通して楽しい時間をつくる力も大切です。
放課後キッズクラブでの料理教室の準備を見ていると、学生たちが「自分たちが作る」のではなく、
「相手に楽しんでもらう」ために考えていることがよくわかります。
高度調理技術マネジメント学科の3年生前期は、自由度が高く、決して簡単な時間ではありません。
自分で動かなければ進まない。自分で考えなければ深まらない。
だからこそ、学生一人ひとりの取り組み方が、成果に大きく表れます。
大阪湾のクロダイに新しい価値を見出そうとする研究。
子どもたちに食の楽しさを届けようとする各班の企画。
どちらの取り組みにも、3年間で身につけてきた調理技術と、
これから社会に出ていくために必要な「考える力」「伝える力」「やり抜く力」が詰まっています。
調理師学校での学びというと、包丁技術や調理実習を思い浮かべるかもしれません。
もちろん技術はとても大切です。
しかし、辻理師専門学校での学びは、技術を身につけるだけでは終わりません。
食材の価値を見つける。
料理で人に喜んでもらう。
地域や社会とつながる。
そして、自分の考えを一皿に込める。
3年生の前期は、学生たちが「料理を作る人」から、「食を通して価値を生み出す人」へと成長していく、とても大切な時間です。
~プロフィール~
辻調理師専門学校 専門講義科目グループ
東 庸介(あずま ようすけ)
調理学科「食生活と健康」、「食と環境ワークショップ」 製菓学科「公衆衛生学」を担当。
高度調理技術マネジメント学科3年生の担任やSDGsに食から貢献することを目的とした学生サークルSSPの顧問をしています。
▶ 管理栄養士
▶ SDGs for School認定エデュケーター
▶ Microsoft Innovative Educator Expert 2025-2026


