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Restaurant L'AMBROISIE (レストラン・ランブロワジー)

フランス校 食べ歩き日記

2024.07.01

 突然ですが、現在フランス全土でミシュラン三ツ星を取得しているレストランはいくつあると思いますか?

 答えは30軒(2024年版)です。
 パリにはその内の1/3を占める、10軒が取得しています。

 今回紹介するお店はそのパリにあるミシュランガイド三ツ星Restaurant L'AMBROISIE (レストラン・ランブロワジー)です。料理が好きな人なら一度は聞いたことがあり、一生に一度は伺いたいレストランのひとつだと思います。
 ランブロワジーはパリの4区にある、歴史的遺産価値の高いヴォージュ広場に面する場所にあります。お店もパリの中では最も歴史が深いと思います。

レストランを現在まで1代で築き上げたオーナーシェフはBernard PACAUD (ベルナール・パコー)氏です。

 パコー氏は15歳でEugénie BRAZIER (ウジェニー・ブラジエ)という女性料理人の下でキッチンアルバイトから始め、そこで一緒に働いていたのが、Paul BOCUSE(ポール・ボキューズ)氏でした。
 その後、1976年にパリの16区にあるLe Vivarois(ル ヴィヴァロア)でスーシェフとして5年間Claude PEYROT(クロード・ペロー)氏のもとで働き、研鑽を積みました。当時の同僚は斉須政雄氏です。(東京・三田の老舗「コート・ドール」オーナーシェフ)
 1981年にパリの5区に20席ある店を斉須氏と共に構えました。翌年に一ツ星、1年後に二ツ星、1986年12月に現在の場所にお店を移動しオーナーシェフとなりました。移転と共に席数も35席と15席増やしました。1988年から三ツ星を取得し、現在まで36年間維持されています。

 ランブロワジーの料理のスタイルは« Cuisine de civilité »(敬意や礼儀のある料理)です。それは素材への敬意、お客様への敬意、従業員や業者などすべてに対しての敬意、礼儀を大切にしているそうです。

 現在、ランブロワジーの料理長は日本人の吉冨力良氏です。

 吉冨氏は熊本県甲佐町出身で九州の調理専門学校を卒業後、2008年に渡仏し、2014年から現在までランブロワジーにて勤務。2017年にはパテ・アン・クルート世界選手権優勝、そして2020年に現レストランの料理長に就任します。2022年にはフランスの権威ある料理コンクールであるプロスペルモンタニエ3位に入賞されています。
 今年3月に開催されたトロフェ・ミル国際料理コンクールでは、審査員を務められました。そして6月には外来講師として学校に来校いただき、研究生たちへ素敵な講義をしていただきました。

調理外来講習 M.Chikara YOSHITOMI氏(吉冨 力良氏) / Restaurant L'AMBROISIE(レストラン・ランブロワジー)│フランス校ブログ│辻調グループ フランス校 - 食のプロを育てる学校 (tsuji.ac.jp)

 店内は17世紀の歴史的な内装や当時に活躍した建築家の装飾を今も変えることなくいかし、3つ部屋が分かれていました。
 1つ目は大きなタピスリーが一面の壁を飾り、重厚感漂うシックな雰囲気。
 2つ目はアール・デコ様式が使われた装飾で鏡と赤がよくあう華やかな雰囲気。
 3つ目は白い壁に金色の枠の大きな鏡が2つあり、とても洗練された雰囲気でした。


 メニューはアラカルトのみです。前菜料理、魚料理、肉料理それぞれ4品、チーズ、デザート4品で構成されています。

 まずアミューズです。
 コンテチーズがたっぷり練りこまれたグジェールです。

 出来立ての熱々を口の中に入れると濃厚なチーズとバターの風味が口いっぱいに広がって、表面のしっかり焼けた小麦粉の味とサックとした食感を感じつつ、中はまだジューシーな水分を感じました。素材がシンプルなので本当の美味しさが伝わってきました。

 次にœuf soufflée caviar Kristalです。

 卵の殻に盛りつけられたクラシックな1品です。
 中にはとろっとした舌触りの卵黄と空気を含んでムース状になった卵黄に包まれたキャヴィアは甘味と塩味が程よく、ぷちぷちと口の中で弾けて卵黄ととても相性が良かったです。
 横にはバターがたっぷり滲みたトーストが添えられていて、ディップするとさらに食感とうま味が口いっぱいに広がりました。

 パンとバターです。バターにもこだわりがあり、とても味が濃かったです。

アラカルトの料理を紹介します。

 1品目はFeuillantine de langoustines aux graines de sésame, sauce au curry

 白ゴマのフィヤンティーヌ生地に手長海老を挟み、つけ合わせにほうれん草、カレー風味のソースです。

 手長海老は低温でしっとり火を通していて、海老のぷりっとした食感を残していました。
 フィヤンティーヌ生地は極限まで薄さにこだわり、パリっとした食感を感じました。
 ソースは生クリームをベースにターメリックを加えて色味が鮮やかなクリーム色と上品に香る香辛料に食欲をそそられました。
 つけ合わせはシンプルなほうれん草のバターソテーです。お皿の彩はもちろんですが手長海老にもソースにも合う食材でした。

2品目はEscalopines de bar à l'émincé d'artichaut, nage au caviar Kristal

 スズキのキャヴィアソースとつけ合わせはアーティチョークです。

 まずこの見た目の美しさに感動しました。虹色に光るスズキの火通しはプラックでの調節のみで、皮目も一切焦げ目のない仕上がりでした。こんなに美しく焼くテクニックはもちろん低温調理機ではなくシェフの腕と経験です。ランブロワジーの料理は現代で重宝されている調理機材は一切使いません。伝統的なプラック、直火、オーブンのみです。
 そしてお皿の端までたっぷり敷き詰められたキャヴィアソースは、ヴェルモット酒をベースにしたブール・ブランです。バターがたっぷり入ったソースですが、宝石のように敷き詰められたキャヴィアの塩味が丁度よくまとめていました。
 つけ合わせはアーティチョークです。フレッシュのアーティチョークを食感が丁度よい幅にスライスし、酸味と歯ごたえのある食感に火を通していました。魚と相性のいい香草を加えていて、よりスズキが美味しく食べられるようなこだわりを感じました。

3品目はFilets de saint-pierre aux coquillages et fenouils, sauce au safran

 マトウダイと貝類のサフランソースとつけ合わせはフヌイユです。
 マトウダイも先ほどのスズキと同じように低温で火を通していました。同じ白身魚でも一番おいしくなる温度帯が違います。艶のある透明感を残し、食感を壊さないように仕上げられていました。そこに様々な貝類が丁寧に処理されて、彩りと食感を与えていました。
 ソースは魚のだし汁と生クリームをベースにサフランを加えて魚介と合う深みのある味わいでした。
 つけ合わせはフヌイユで食感を感じられるように大きくカットして、口の中を爽やかにして味のアクセントになりました。シーアスパラガスは彩と塩味が丁度よかったです。アラカルトで量が多い中でも様々な食感があり、飽きのこない1品でした。

4品目はSuprêmes de pigeon de Bresse, cuisses en pastilla, endives braisées à l'orange

 ブレスの鳩のロースト、パスティア風のもも肉とつけ合わせはチコリのオレンジ煮です。
 鳩は胸肉の状態にして表面のみ軽く焼いて、オーブンへ入れ火を通します。料理の進行をサーヴィスと調理場でコミュニケーションを正確にとって逆算して焼き上げます。先ほども書いたように低温調理機は一切使用しません!オーブンから出してバターで何度もアロゼすることで赤身が美しく、しっとりジューシーに仕上げられていました。もも肉は香辛料で味付けをしてフィローで包み焼きます。生地のパリパリ食感ともも肉のジューシーさと香辛料の香りがとても美味しかったです。
 つけ合わせはアンディーブの蒸し煮です。アンディーブはオレンジがしっかり滲みこんで一体化していていました。ゆっくり火を通して一切色や焦げ目がつかない火通しに感動しました。
 飾りはアーモンドのローストを加えた甘いメレンゲで、ナッツの香ばしさと甘味が鳩とよく合いました。
 ソースは香辛料がきいたエーグル・ドゥース(甘酸っぱい)で、ガストリックを鳩のソースのベースに加えていました。
 シェフの吉冨氏が「このソースは先日のトロフェ・ミルの日本代表のソースが良くて気に入ったので、鳩に合うようにアレンジしました」と話してくれました。
 まさかパリの三つ星で!!私たちの考えたソースがベースになっていると聞き感慨無量な気持ちになりました。

デザートを紹介します。

デセールのシェフはパコー氏の娘さんのアレクシア氏です。

まずココナッツのソルベをいただきました。

 とても濃厚なソルベで一口食べるとココナッツの香りが口いっぱいに広がり、後味はさっぱりとして口の中をリセットしてくれました。

1品目はTarte fine sablée au cacao amer, crème glacée à la vanille Bourbon

 チョコレートタルトとバニラアイスです。
 タルトと言っても外側の生地は薄く、カカオもビターな甘さで軽く泡のようになくなる儚いデザートでした。でも口の中にカカオの香りが長く続いて余韻も楽しめ、バニラアイスの濃厚な味もタルトとの温度差で食べやすかったです。大きなポーションでもペロっと食べてしまいました。

2品目はArlettes caramélisées au fromage blanc, cristallines d'agrumes

 キャラメルの生地とフロマージュ・ブランと柑橘類のコンフィです。
 キャラメル生地は薄さが絶妙でパリパリ感が心地よく、スフレ食感で酸味のあるフロマージュ・ブランと合いとても美味しかったです。
 柑橘類のコンフィはオレンジとピンクグレープフルーツの皮を透き通るまでシロップで浸透させていました。甘いだけでなく柑橘の苦みを残し、さらに食感も楽しめるように工夫されていました。

 最後にプティ・フールが来ると思っていたら、、、
 サーヴィスの方から「シェフからです」と季節の赤いフルーツのメルバをいただきました。

 旬のフレーズアナイスと木苺、ブルーベリーとバニラアイスを添えて、見た目も美しく旬のフルーツが何より美味しいなと改めて感じました。

最後にプティ・フールです。

 左からシュー・シャンティイ、木苺のタルト、カヌレ、アーモンドチョコです。

 歴史を感じながら敬意ある料理を堪能し、「料理で本当に人を感動させる」という意味を改めて肌で感じることができました。
 料理がお客様のテーブルに運ばれ、口に入る時に一番おいしく感じるように逆算して料理を作るとシェフは言っていました。料理の技術はもちろんですが、お店のチームワークがあってこそできることだなと感じました。

 入店時、サーヴィスの方にフランス語で話しかけると予約の名前で日本人と分かり日本語を喋って案内していただきました。奥様が日本人の方で日本語を流暢に話せるそうです。パリの三つ星レストランで緊張している中でも、日本語が通じ安心して過ごすことができると思います。
 多くの方々に愛されて、また来たい!と思わせられるのはシェフの人柄と料理の温かさにあるのだなと感じました。
 人生で一度は訪れるべきレストランだと改めて感じました。
 料理の原点や伝統を大事にしているレストランへぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

『L'AMBROISIE』

9 Place des Vosges, 75004 Paris
TEL :01 42 78 51 45
Instagram: ambroisieparis
㏋: https://www.ambroisie-paris.com/