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永浜 良さん 「Au Fil du Zinc(オ・フィル・デュ・ザング)」

卒業生レポート

2017.06.12


永浜 良さん Ryo Nagahama
[ エコール 辻 東京 ]辻フランス・イタリア料理マスターカレッジ 1998年3月卒業
フランス校シャトー・ドゥ・レクレール 調理研究課程 秋コ-ス 1999年9月卒業
研修先:Les Jardins de l'Opéra(Toulouse)(レ・ジャルダン・ドゥ・ロペラ:トゥール-ズ)
店名:Au Fil du Zinc(オ・フィル・デュ・ザング)オーナーシェフ
住所:18 rue des Moulins 89800 Chablis
TEL :03 86 33 96 39
営業:Open:10:00〜19:00  火曜定休(水曜不定休)
HP: http://www.restaurant-chablis.com

牡蠣に合わせるワインと言えば、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、やはりシャブリではないでしょうか。この世界的に有名な白ワインの銘醸地、とは言え、人口3千人に満たないブルゴーニュ地方の小村に、レストラン「Au Fil du Zanc」はあります。2014年のオープン以来、地域の上質な食材を用い、確かな調理技術に裏付けられた料理は、地元だけではなく、世界各地からやって来るゲストの舌と心を魅了し続けています。今回は、いまやシャブリを代表する人気店となった「Au Fil du Zanc」のオーナーシェフ、永浜 良さんにお話を伺いました。


店のエントランス


店の下を川が流れる

■ご自身の経歴を簡単に紹介していただけますか。
フランス校を卒業して帰国し、すぐに東京、渋谷のレストランに就職しました。
その後、六本木にあるジョエル・ロブションのレストラン「ラトリエ」に、オープニングスタッフとして2年間勤務しました。
料理人の幅を広げるため1年間お菓子の勉強をした後、六本木のラトリエ時代にお世話になった先輩の紹介で、
パリのラトリエで働くことになりました。そこで2年勤務した後、クラシックなフランス料理を学ぶために
「ル・ムーリス(当時のシェフはヤニック・アレノ)」に移り、8ヵ月間魚部門のシェフを務めました。

2009年、ロブションが台湾にラトリエをオープンするのに伴い、
慣れ親しんだフランス以外の土地でチャレンジしたいと思い、台湾へ渡ります。
約半年間の立ち上げ準備期間を経てお店がオープンし、1年間勤務した頃、
今度はロブションがパリに2店舗目のラトリエを立ち上げることになり、2011年にパリに呼び戻されました。

そこで1年勤務した後、ブルゴーニュ地方のジョワニー近郊にあるレストランに移り、2年間シェフを務めました。
そのお店で知り合ったフランス人スタッフと共同経営という形で、2014年6月にシャブリに当店をオープンし、現在に至ります。


外光が差し込み開放感のある客室


川の流れに面した席も

■いつ来させて頂いても昼夜とも満席ですが、どのような方がお客としていらっしゃるのでしょうか。
―4月から10月後半までは観光シーズンなので、アメリカ、イギリス、カナダ、北欧諸国、ロシア、アジアからと、
多様な国籍のお客様がいらっしゃいますが、特にアメリカ、北欧諸国、ロシアからのお客様が多いです。
必然的にコミュニケーションに英語が必要ですから、台湾で英語を使って生活していた経験が生きていると思います。


常連のゲストと歓談する永浜さん

■どのようなことを意識して料理を作っていますか。
―季節の食材と、地元の美味しい食材を使うということを常に意識しています。
例えば、今お店で使っている豚や子羊を飼育しているのは、シャブリ近郊の生産者です。
もちろんパリのランジス市場からも肉を仕入れるのですが、
食べ比べてやはり地元のものの方が美味しいと思うからそちらを使うわけです。
ですので、少しずつそういう質の良い地元の食材を見つけて行くことで、地産地消を進めていくことにも魅力を感じています。

やはりシャブリから25キロ程の所に、昨年から前菜でもメインでも使い続けている鱒の養殖場があります。
そこでは、毎秒250リットルもの湧水を利用して、素晴らしいクオリティーの鱒を養殖しているのですが、
その生産者は、朝絞めた鱒を朝の内にお店に持って来てくれます。
とても脂が乗っていて、生でも焼いても良し。ずっと使い続けていきたい食材です。

 

■パリのような都会ではなく、シャブリという小さな町にお店があることの良さは何でしょうか。
―先ほど、肉と魚の話をしましたが、野菜の契約農家さんもいます。
その内の一人は、オープン当初からの付き合いということもあり、私達のお店のことを良く分かっていてくれて、
例えば、今年はどの野菜をどのくらい作るか、また新たにお店で使ってみたい野菜の栽培をリクエストしたりと、
色々と話し合いながら決めていくことができる。そういう環境があることが強みなのかなと思います。

■シャブリというと世界的にネームバリューのある土地ですし、
 お店を開く時に、そのことも計算に入れてらっしゃったのかな、と思ったりもするのですが(笑)

―いえいえ。正直なところ、お店を始めるまで、シャブリという場所にここまでのポテンシャルがあるとは思っていませんでした。
シャブリにレストラン自体10件もありませんし、その内ガストロノミーレストランと言えるのは1件のみ。
私達のお店はメインストリートに面していないし、決して小さいとは言えない面積のお店なので、すごく不安でした。
でも、いざオープンしてみると、沢山のお客様が来てくださった。
そして、今も変わらず、沢山のお客様が来てくださるので安心しています。

 

■観光シーズンは、アメリカ、イギリス、北欧からのお客が多いということでしたが、それ以外の時期は、地元の方が多いのでしょうか。
―そうです。ワイン生産者とその家族、関係者が多いです。
まずは生産者が来て、気に入ってくれたら家族や友人、自分のお客にお店の話をしてくれて、
さらにそこからシャブリ近郊の町へと評判が広がるという具合です。

また、一般的な観光ルートとしては、車でパリからシャンパーニュ地方、シャンパーニュ地方からは
途中の町は素通りしてブルゴーニュ地方のボーヌまで下るのが普通なのですが、
偶然シャブリに立ち寄った人がたまたま私のお店に来て喜んでくださって、
「これからは必ずシャブリに寄ることにするよ」と言っていただくこともあります。とても嬉しいですね。

後は、お店に来られたワインの輸出業者やジャーナリストが、自国に帰ってお店の情報を広めてくれることも多い。
フランスだけではなく、海外でも情報が広がっている。改めて、口コミの力ってすごいなあ、と思います。

■今後の展望を聞かせていただけますか。
―まだオープンして3年目なので、毎年どうすれば良くしていけるかということを考えています。
例えばお皿にしても、オープン当初は使いたくても使えなかったものを、お店の経営が安定してきて、
今年やっと使うことができるようになりました。

また、最近店内の工事もしましたし、今後、内装や照明を変更する予定もあります。
このように、このお店を自分の理想に近づけていく、もっともっと良くしていくというのが今の展望です。

 

■ミシュランの星は狙わないんですか(笑)
―ミシュランの星がもらえるかどうかは自分で決めるのではなく、お客様に評価された結果としてついてくるものなので... 。
一番大事なのは、これだけ多くの常連のお客様が来てくださっているので、
彼らにこれからも変わらず喜んでもらえるようにすること、そしてレストランを更に良くしていくことだと思います。

■フランス校について聞かせてください。そもそもなぜフランス校に進学しようと思ったのでしょうか。
―もともと食べることが好きでした。特に西洋料理が、食べるのも作るのも好きということもあり、
(西洋料理を専門的に学ぶことのできる)エコール 辻 東京に入学しました。
そこで1年間フランス料理とイタリア料理を勉強したのですが、やはり本場で本物を見たいという気持ちが強くありました。
私はフランス校を卒業後、一度東京で就職した後にフランスに来た訳ですが、
もしフランス校に来ていなかったら、フランスに戻りたいとは思わなかったのではないでしょうか。

■フランス校生活で特に印象に残っていることはありますか。
―翌日が実習担当の夜の緊張感と、当日の朝、実習室に入った時のピリッとした緊張感は絶対に忘れられません(笑)。
あのような緊張感を持つ機会はなかなかないでしょうし、フランス校の先生方が、そのような空間を作り上げているのが凄いと思います。

 
ワインはシャブリを中心とした充実の品揃え

■研修の思い出を聞かせてください。
―フランス南西部の町トゥールーズにあるLes Jardins de l'Opéra(レ・ジャルダン・ドゥ・ロペラ) で研修しました。
記憶に残っているのは、本当に研修が楽しかったということです。

初めはポワソン(魚部門)のコミとして、シェフドパルティ(部門シェフ)に付いてやっていましたが、
その後、冷前菜のポジションの人が抜けることになったので、その引継ぎをしなければならなくなったのです。
仕事を任されるようにしっかり引継ぎをしなければならないのに、フランス語がちゃんと理解できない。
仕事を覚えたいし、しっかり聞きたいのに聞けないというジレンマがありましたが、
最終的には、必死に働いて、なんとか仕事を任せてもらえるようになりました。

他にも色々とエピソードはありますが、仕事の最終日に、更衣室で着替えている時に誰かがおもむろに蛍の光を口ずさみ出して、
これから最後の仕事というタイミングでしたが、嬉しかったからなのか、もうここで働けないという寂しさのせいなのか、
涙が出そうになったことは忘れられません。

同僚達は皆若くて仲間意識が強く、プロ意識もとても強かった。本当に良い職場環境だったと思います。
その後の料理人人生で、やはりこの研修があったから、またフランスに戻って来て働きたいという気持ちを持つことに繋がったんだと思います。


お店のエントランス前で

■フランス校進学で得たものは何でしょうか。あるいはこれから進学を検討している方へのアドバイスはありますか。
―フランス校に入学する時点で、その後ずっとフランス料理をやっていくと決めている人は少ないかもしれませんが、
もしあのような環境で日々を過ごすチャンスがあるなら、絶対に損はないと思います。
それは、料理の道に進もうと決めている人であれば尚更です。
そして、フランス校で寝食を共にした同級生とは、今でもしっかり繋がっています。