「つくれる」から「伝えられる」へ 子ども料理教室を通した学生たちの成長
高度調理技術マネジメント学科3年生03クラス担任で、
3年生の独自科目「食と環境ワークショップ」を担当している東です。
2026年8月3日(月)、辻調理師専門学校を会場に、
「アベノキッズサマープロジェクト」の子ども料理教室を開催しました。
今回実施したのは、
「中国料理を作ろう![麻婆豆腐・チャーハン]」と
「ライスバーガーを作ろう![出汁の引き方も学ぼう]」の2つのプログラムです。
小学1年生から6年生までの子どもたちを対象に、それぞれ午前と午後の2回、各回15名で実施しました。
この日は、学生たちが4月から取り組んできた「食と環境ワークショップ」の前期の集大成となりました。
ただし、この料理教室は、8月3日の一日だけで完成したものではありません。
その背景には、学生たちが企画、実践、振り返り、改善を繰り返してきた約4か月の取り組みがあります。
【4月、地域の子どもたちに料理を届ける学びがスタート】
取り組みが始まったのは4月です。
食と環境ワークショップの授業の中で、NPO法人yucocoの木本さんから、
放課後キッズクラブ「まなっぷ」の活動と、地域の子どもたちに向き合う際に
大切にしていることについてお話しいただきました。
その時の授業は別のブログで紹介しているので、こちらからご覧ください。
木本さんの熱のこもった説明を、学生たちは身を乗り出すようにして聞いていました。
その姿からは、これから自分たちが料理教室を届ける子どもたちのことを、
早くも具体的に想像し始めている様子が伝わってきました。

この時間を通して、「何をつくるか」だけでなく、
「子どもたちにどのような経験や学びを持ち帰ってもらいたいか」を考えることが、
今回の企画の軸になりました。
その後、阿倍野区役所の担当者から「アベノキッズサマープロジェクト」の概要について説明していただき、
前期の活動の集大成となる機会を確認しました。
学生たちは日頃、調理実習を通して料理の知識や技能を学んでいます。
しかし、今回求められたのは、自分たちが料理をつくることではありません。
子どもたちが自分で料理に参加し、楽しみながら食について学べる教室を、一からつくることです。
料理としておいしいことはもちろん、子どもにとって分かりやすいか、安全に取り組めるか、
時間内に完成できるか、そして料理教室が終わった後に、
どのような学びを持ち帰ってもらうのかまで考えなければなりません。
学生たちにとって、これまでの調理実習とは異なる挑戦が始まりました。
【5月、5つの班が子ども料理教室を提案】
5月には、学生がA班からE班までの5班に分かれ、阿倍野区の職員とNPO法人yucocoの皆様に向けて、
各班が考えた子ども料理教室のプレゼンテーションを行いました。
各班が提案したテーマと料理は、次のとおりです。
・A班「イタリア料理に触れよう、野菜を食べよう」
ラヴィオリ、かぼちゃのポタージュ、白桃のパンナコッタ
・B班「大豆ハンターになろう」
麻婆豆腐、炒飯、ゴマ団子、プリン
・C班「韓国の文化に触れよう」
宮廷トッポギ、ホットク、野菜スープ
・D班「日本料理の可能性を探ろう」
ライスバーガー、かきたま汁、大学芋
・E班「中国の文化に触れよう」
水餃子、臘八蒜、北京宮廷乳酪
料理のジャンルも、子どもたちに伝えたい内容も、班によってさまざまです。
学生たちは、自分たちの専門性や興味を生かしながら、
料理を通して食材や食文化に触れてもらう企画を考えました。
しかし、企画を発表すれば、そのまま実施できるわけではありません。
プレゼンテーションでは、子どもにとって内容が難しくないか、決められた時間内に完成できるか、
子ども自身が参加できる工程が十分にあるか、安全に進められる内容になっているか、
食育として何を持ち帰ってもらうのかなど、さまざまな視点から意見をいただきました。
材料費や使用する食材の調整も必要です。
料理としての完成度だけを追求するのではなく、参加する子どもの年齢や活動時間、実施環境に合わせて
内容を組み直さなければなりません。
学生たちは、NPO法人yucocoの皆様からいただいた意見をもとに、
レシピや作業工程、説明方法を見直していきました。
自分たちが「つくりたい料理」を考えるだけではなく、参加する子どもたちの立場から
「どのような教室にすれば楽しんでもらえるか」を考える。
この視点の転換が、学生たちにとって最初の大きな課題でした。
【6月から7月、「まなっぷ」で5つの企画を実践】
6月から7月にかけては、NPO法人yucocoの放課後キッズクラブ「まなっぷ」の一つとして、
辻調理師専門学校の教室を使い、5つの班がそれぞれ子ども料理教室を実施しました。
5つの班すべてが、自分たちで考えた企画を実際の子ども料理教室として形にしました。
学生たちにとっては、企画を考える段階から、子どもたちを前にして実践する段階へと進む機会となりました。
企画書やプレゼンテーションの上では問題がないように見えても、
実際に子どもたちを前にすると、想定どおりには進みません。
説明が長くなれば、子どもたちの集中が続かないことがあります。
同じ小学生でも、低学年と高学年では、できる作業や説明の理解度が異なります。
分かりやすく説明することに意識を向けると、予定していた時間を超えてしまう。
反対に、時間を優先しすぎると、学生が作業を進めてしまい、子ども自身が料理に参加する場面が少なくなる。
どこまで学生が手を添え、どこから子どもに任せるのか。
安全を確保しながら、子どもたちの「自分でできた」という実感をどのようにつくるのか。
学生たちは、実際の子どもたちの反応を受け止めながら、一つひとつの課題と向き合いました。
また、料理を完成させるだけでは、子ども料理教室として十分ではありません。
この授業では、学生の専門性を生かしながら、子どもたちが食について新しいことを知り、
家庭でも思い出したり、誰かに話したりできる内容を盛り込むことを重視しています。
料理のどの場面で何を伝えるのか。難しい言葉を使わず、どうすれば子どもたちの興味を引き出せるのか。
料理の作業と食育の内容をどのようにつなげるのか。
学生たちは、NPO法人yucocoの皆様に見守っていただきながら、実践を通して学んでいきました。
【実施しながら、次の準備を進める難しさ】
6月から7月は、「まなっぷ」で各班の料理教室を実施する一方で、
アベノキッズサマープロジェクトに向けた準備も進める時期でした。
目の前の料理教室を実施しながら、そこで見つかった課題を整理し、
次のプログラムを改善していかなければなりません。
料理の試作、レシピの修正、材料の確認、作業工程の見直し、子どもへの説明、安全面への配慮、
当日の役割分担など、検討すべきことは多岐にわたりました。
実施と準備を並行して進めることは、学生たちにとって簡単なことではありませんでした。
しかし、「まなっぷ」で実際に子どもたちと関わったからこそ分かったことも、数多くあります。
子どもが楽しそうに取り組んだ作業、説明が伝わりにくかった場面、想定より時間がかかった工程、
学生が手を出しすぎてしまった部分などを振り返り、それらを次の改善につなげました。
「まなっぷ」は、完成した企画を披露するだけの場ではありませんでした。
学生たちが子どもたちと向き合い、自分たちの企画を検証し、
より良い内容へと育てていくための大切な実践の場となりました。
【「まなっぷ」で育てた2つの企画を、サマープロジェクトへ】
「まなっぷ」で実施した5つの企画のうち、
B班の企画をもとにした「中国料理を作ろう![麻婆豆腐・チャーハン]」と、
D班の企画をもとにした「ライスバーガーを作ろう![出汁の引き方も学ぼう]」の2つを、
アベノキッズサマープロジェクトで実施することになりました。
アベノキッズサマープロジェクトでは、実施時間が「まなっぷ」の120分から90分となることを踏まえ、
B班は麻婆豆腐とチャーハン、D班はライスバーガーとかきたま汁を中心とした構成に再編しました。

子どもたちに特に体験してほしい調理や学びを学生たち自身が選び、
90分の中でそれぞれの企画の魅力を十分に伝えられるプログラムへと磨き上げました。
アベノキッズサマープロジェクトは、突然現れた別の取り組みではありません。
4月からNPO法人yucocoの皆様に伴走していただき、
「まなっぷ」で子どもたちと向き合いながら育ててきた企画を、
より多くの地域の子どもたちへ届ける機会となりました。
【7月31日、最後の仕込みと確認】
本番を目前に控えた7月31日には、料理教室の仕込みを行いました。
必要な食材や器具を準備するだけでなく、教室内の動線、子どもたちに担当してもらう作業、
学生同士の役割分担、デモンストレーションの進め方などを改めて確認しました。
料理教室では、一つの準備不足が全体の進行に影響します。
小学1年生から6年生までが参加するため、すべての子どもに同じ説明や関わり方が通用するとは限りません。
これまでの「まなっぷ」での実践を振り返りながら、起こり得る状況を想定し、最後まで調整を重ねました。
【8月3日、子どもたちを迎えて本番へ】
そして8月3日、アベノキッズサマープロジェクト当日を迎えました。
「中国料理を作ろう!」、「ライスバーガーを作ろう!」は教室を別に、それぞれ午前と午後の2回に分けて実施しました。
「中国料理を作ろう!」では、中華鍋を実際に振ってチャーハンを仕上げるデモンストレーションを行いました。
大きな中華鍋が振られ、目の前でチャーハンが仕上がっていく様子に、子どもたちは大興奮。
普段はなかなか間近で見ることのできない調理の技術を、音や香りとともに体感してもらいました。
「ライスバーガーを作ろう!」では、昆布出汁と一番出汁を目の前で引き、実際に飲み比べてもらいました。
昆布出汁を口にした子どもからは、「海のにおいがする!」という声が上がり、
引きたての合わせ出汁には、思わず「おいしい!」という言葉が漏れていました。
説明を聞くだけではなく、香りを感じ、味わい、その違いを自分の言葉で表現する。
子どもたちの率直な反応から、学生たちも「伝えること」の手応えを感じたのではないかと思います。
【「つくれる」から「伝えられる」へ】
4月に企画が始まってから、本番まで約4か月。
学生たちは、子ども向けのレシピや工程を考え、決められた時間に収まるように内容を調整し、
安全面に配慮しながら、子ども自身が参加できる場面をつくってきました。
さらに、料理のおいしさだけではなく、食材や食文化について何を伝えるのか、
子どもたちにどのような気づきを持ち帰ってもらうのかについても、検討を重ねました。
専門的な知識や技術を持っていることと、それを相手に合わせて伝えられることは同じではありません。
学生たちは今回の取り組みを通して、「自分が料理をつくれる」という段階から、
「相手の立場を考え、食の楽しさや面白さを伝えられる」という次の段階へ進みました。
もちろん、すべてが最初からうまくできたわけではありません。
プレゼンテーションで意見をいただき、実際に子どもたちと関わる中で
課題に気づき、振り返り、修正して、もう一度試す。
その繰り返しがあったからこそ、8月3日の子どもたちの笑顔や
「おいしい!」という言葉につながったのだと思います。
そして、この学びを支えてくださったのが、NPO法人yucocoの皆様です。
学生たちの企画を一度限りのイベントで終わらせず、
「まなっぷ」という継続的な実践の場で子どもたちとつなぎ、ともに企画を育てていただきました。
また、前期の集大成となるアベノキッズサマープロジェクトの開催にあたっては、
阿倍野区役所の皆様にもご協力いただきました。
この場を借りて、改めて感謝申し上げます。
【学校の外へ、次の実践へ】
これをもって、前期に予定していた子ども料理教室は終了しました。
しかし、「食と環境ワークショップ」の取り組みは、ここで終わりではありません。
9月から12月にかけては、辻調理師専門学校の教室を離れ、
学外の施設で放課後キッズクラブ"まなっぷ"を実施する予定です。
設備や器具が整った学校内とは異なる環境では、これまでとは違った課題も生まれるはずです。
前期に子どもたちやNPO法人yucocoの皆様から学んだことを、学生たちは次の実践でどのように生かすのか。
後期の活動でも、地域の皆様と関わりながら、
学生たちがさらに成長していく姿を見守っていきたいと思います。
~プロフィール~
辻調理師専門学校 専門講義科目グループ
東 庸介(あずま ようすけ)
調理学科では「食生活と健康」「食と環境ワークショップ」、製菓学科では「公衆衛生学」を担当しています。
また、高度調理技術マネジメント学科3年生の担任を務めるほか、
食を通じたSDGsへの貢献を目的に活動する学生サークル「SSP」の顧問として、学生の活動を支援しています。
▶ 一般社団法人Think the Earth「SDGs for School」サポート・ティーチャー
▶ 一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会 アカデミック・アドバイザー
▶ 管理栄養士
▶ Microsoft Innovative Educator Expert(MIE Expert)2025-2026


