OSAKA

辻調理師専門学校

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「安全と衛生は体にたたきこむものだった!」(調理師本科キャリアクラス)

在校生ブログ
調理師本科

2019.07.24

こんにちは。調理師本科キャリアクラスの鶴見佳子です。

春、大阪城ホールでの入学式の時に、辻芳樹校長がこうおっしゃいました。
「上手に調理ができるようになるだけではなく、なぜその調理をするのか理論・理屈を在学中にしっかり学んでください」
その意味がわかり始めたのは、6月初旬の中間試験を終えたころからだったかもしれません。

辻調のカリキュラムは主に、調理実習と理論(講義)で構成されています。入学する前は、ひたすら調理の実習につぐ実習じゃないかなぁとイメージしていたのですが、案外、座学の比重も大きい。日本・西洋・中国の各調理の理論はもちろん、食文化、食生活と健康、食品と栄養、食品の安全と衛生、飲食キャリア概論などあらゆる教科をこなさないといけません。特に調理師本科は1年制なので、実習も講義も、1年間にぎゅっと集約されています。

キャリアクラスには、大学や短大で食品や栄養にかかわる学問をした人、飲食関連の仕事をしてきた人、実家が飲食店や農業・漁業を営んでいる人などが在籍していますが、まったくの異業種で働いてきた私が目を剥いたのが「食品の安全と衛生」という科目でした。
水曜日は永井紘太先生、金曜日は廣瀬麗子先生が安全と衛生の授業をしてくださいます。
担任の橋本宣勝先生からは、「ピカイチに難しいのが食品の安全と衛生です。しっかり勉強しなさいよ」と、前もって脅しを、いや貴重なアドバイスを、いただいていました。

永井先生は、いつも早めに教室に来られ、教壇にすっくと立ってチャイムが鳴るのを待っておられます。安全と衛生を講義するだけあって、清潔で爽やかな風貌を備えた先生で、女子学生にも男子学生にも人気沸騰中と申し上げておきましょう。私の頭の中には、双子デュオのザ・リリーズのヒット曲「好きよ、キャプテン」(1975年、作詞松本隆、作曲森田公一)が響いています。それぐらい先生が爽やかだ、という例えですが、〝チーム昭和〟の人にしか伝わらない曲ですね。
「よしっ、授業を始めましょう!」
先生が冒頭におっしゃる「よしっ」を聞くと、安全と衛生にかかわる教科は、将来、調理師として働くために重要なのでがんばって勉強しましょう、というニュアンスがビンビンと伝わります。

一方、金曜日の授業を担当される廣瀬先生は、いつもモダンなファッションで颯爽と、しかも早足で教室に来られます。スリムな体のどこからそんなに大きな声がでるかと思えるほどのエネルギッシュな授業で、学生たちが難しい用語や概念をどんなに嘆こうとも、「ともかく覚えて!」と励ましてくださいます。先生の叱咤激励はほとんどロックミュージックです。

安全と衛生の授業を受けるたび、私はアナザーワールドに迷い込みます。
マイコトキシンとアフラトキシン、球菌と桿菌とらせん菌、芽胞を形成するウエルシュ菌とボツリヌス菌とセレウス菌、細菌性食中毒の感染型はサルモネラ属菌とカンピロバクターと腸炎ビブリオ、次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウム、食品衛生法とコーデックス規格、界面活性剤の浸透・乳化・可溶化・分散の作用、コンタミネーション、コールドチェーン○△◇☆!"#$%&.........。なんじゃそれ!?の連続だからです。

辻調には、安全と衛生にかかわる学生の「義務」があります。
「月1回の検便」で、もし検査にひっかかったら、調理実習に参加できません(マジで!)。
検便で見られているのは。「細菌性赤痢」「サルモネラ属菌」「腸管出血性大腸菌」に汚染されていないか、そして病原微生物に感染していながらも症状のない「健康保菌者」ではないか。
飲食業界で働く間、3類感染症(細菌性赤痢・腸チフス・パラチフス・腸管出血性大腸菌・コレラ)に該当すると、直接食品を扱えない就業制限がかかります。治るまで働けないことが法律で決まっているのです。
食品の安全と衛生にかかわる理論・理屈を知らなければ、飲食店のお客様の命にかかわるリスクを侵すと同時に、職場であるお店も調理人としての自分のキャリアにも、決定的に大きな傷がつく。ドエライことになるのです!

調理の実習前には、爪先は1ミリ以下に切り揃えられていなくてはなりません(マジで!)。爪の先端が3ミリになれば、そこに潜む細菌は数百万単位に...。
「さよならネイル」。そんなタイトルの小説を書こうかしらん。

最初は、検便かぁ、爪切りかぁと、やや面倒くさいなぁと思っていたのですが、実習と講義を通して、それらが安全と衛生の具現化であることが、じわじわとわかってきます。
私はお遍路や巡礼が好きで、四国八十八ヶ所の歩き遍路ですでに1周半、お四国を歩きました。その際に唱える「般若心経」も、安全と衛生の授業に出てくる「3類感染症」も、同じだなぁと思います。
唱えながらしらずしらずのうちに覚えていく、頭だけでなく体に叩き込んで身につけるという意味において。

「辻調のトイレに設置されているハンドドライヤーは、なかなか優秀な機種なんですよ」と永井先生が教えてくださいました。吹き出し口からドライヤーの中をのぞいてみると、ほんとだ、単に温風が出ているだけではなく、紫外線殺菌をしてくれていることがわかります。
洗った手をドライヤーで乾かしながら、私は手のひらの微生物につぶやきます。
「260ナノメートル付近の波長の紫外線照射は、微生物のDNAを破壊して死滅させる」

辻調に入学してから、手の洗い方もトイレの入り方も変わりました(ガチ、マジで!)。

次回は「予習か復習か、それが問題だ」。お楽しみに。

プロフィール
鶴見佳子(名古屋市出身、大阪市在住)。
新聞記者、文筆家(フリー)を経て、現在、辻調調理師本科(キャリアクラス)に在籍。50代の学生ですよ!
趣味は落語(アマチュア落語家「大川亭知どり」も私のもう一つの顔)。
目標は「食堂あおぞら」の店主兼調理人。これを人生最後のしごとにすべく勉強しています黒ハート